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3ー愛の着地

54 プロポーズの断り方(ツンデレ編)

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 私の目に、自分の肩を抱きしめて震えてうつむくまさみの姿が見えた。草原の少し離れたところにヒメと並んで立っていて、ヒメはそんなまさみを抱きしめるような姿になっていた。

 私には、まさみの気持ちがよく分かった。寒くて自分がみすぼらしくてひとりぼっちで心が沈んで沈んで、さみしてくどうしようもない気持ちだ。

 プロポーズをしてひざまずいている王子の目は真剣だった。すごく綺麗な瞳の奥に、私が揺らいて見える。私は泣きそうになる自分をグッと奮い立たせた。

 ――今から一世一代のセリフを吐くのよっ!沙織!
 
 自分を叱咤激励した。

 ――私は命が狙われているのよ。だから、大好きな王子を巻き込むわけにはいかないのっ!


「いやよ」

「沙織っ!」
 
 慌てて叫んだのはジョだ。王子はビクッと唇を震わせただけだ。

「お断りします。私は自分と同じくらいなりきる術ができる殿方じゃないと嫌です。今時、殿方って言い方も古いですね。うちは貧乏で貧乏で仕方がなかったので、王子のように恵まれて育った方は、嫌です。王子は私の気持ちをわからないでしょうし。この点について王子は悪くありません。なので仕方がないのです。王子と私の間には埋められない溝があります。そもそもなりきる術が得意な方じゃないとだとどうも気持ちが盛り上がらなくて。すみませんっ!」

 ――ああ、嘘八百よっ!自分を自分で殴ってやりたいぐらいの言い分だわっ!何を言っているの私の口はっ!

 私の目に、まさみとヒメが「あんた何言ってんの!?」という表情で(あまりの事態に驚きで美人の顔が歪んでいる)、私を見ているのが映った。

「しめ殺すわよ」

 まさみの口がゆっくり動いて、声を出さずに私にそう言ったのが見えた。

 私は王子の顔を見ることができなかった。王子が差し出した草原に可憐に咲いていた花の花束から目を逸らし、ひざまずく王子からも目を逸らした。
 
「沙織。こっちを見て。俺を見てくれる?」

 王子の声が静かに私の心に響いた。私は耐えられずに目をぎゅっとつぶった。手が震えている。私は今のこの瞬間を一生後悔するのだろう。私がもし七十歳まで生き延びたら、この時のことをどう思い返すのだろう。取り返しのつかないことをしたと思うのだろう。

 ――かみさま。どうか、わたしに勇気を。この人を守るには、こうするしかないと分かっています。でも……!

 私は王子の顔をまっすぐに見た。
 王子の顔は真剣な顔で私の表情の奥にある何かを必死で探しているようだった。

 ――だめだ。私が自分を卑下するようなことを言ったら、きっと王子は私を引き留めるわ。ここは思いきり、デレのないツンだけで!!

 「最強忍術が使える私のような忍びに、王子はかないますか?私は頼れる方が良いのです。では、この話はなかったことにしましょう。聞かなかったことにしますわ!」
 
 私はそう言って静かに頭を下げて、ひざまずいたまま動かない王子を残して走って去った。最強忍術を習得した魔法寺小屋学校の特待生の名に恥じぬ疾走だ。

 ――まさみ。王子を今はお願い!

 ジョンが私の後を追ってきた。
 
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