私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

３ー愛の着地

忍術の復習と特訓②

　まさみは、いかに部屋から脱出するかを力説していた。

「いい？走りながらなりきる術を一瞬で使うの。左足が宙に浮いた瞬間は軸足は右足でしょ。次に左足が床についた時には沙織がなり切ったものの左足が床につく。当然バランスが不安定になるわ。でもハイスピードで走り続けるの」


　部屋に入った瞬間にまず出口の状態を確認しろとも言われた。窓には鍵がかかっているのか、窓は引き戸か違うのか、ドアがあるならドアの向こうは何なのか。

「さすがスパイね」

　わたしがつぶやくと、まさみはムッとして言い返した。

「バカにしてる？沙織にとって大事なことよ。公爵夫人は本気よ。激怒しているのよ。あっちが本気出してこちらまでご来場されるかもしれないじゃない」

「ゲームプレイヤー、ガッシュクロース公爵夫人とか？」
「最悪それもあり得る」

　まさみはすっと人差し指を立てて、わたしに言った。

「もう一度やるわよ。走る。それからなりきる術。そして光を感じたらバランスを考えて。窓を開けて飛び出して屋根を伝う。沙織の胸は大きいから、なるべく胸をかばう体勢を意識して窓から脱出するのよ。ね、その胸は本物？」

「本物に決まっているじゃない」
「嫉妬するわ」
「はいはい」
「王子に嫉妬するわ」
「なんでっ！」
「ふふっ。はい、今油断したー」

　わたしはまさみに寝技をかけられた。

「あんっ！」
「命を守るためには柔術も学びなさいっ！

　まさみはふざけているようで、正しかったのだ。53年後に本当に公爵夫人はやってきたのだから。この時の訓練が活きたのだ。