3 / 58
第三話 逃げろアダム、逃げろ安珍
しおりを挟む
ここでは無い何処か別の世界線、遥か未来、地球に残された最後の楽園にて
その人工知能は嘆き悲しんでいた。自らの造物主にして保護対象、日本民族その最後の二人が死んだのである。
再利用融解炉へ飛び込んだ二人の死体は、完全に分解されていた。
人工知能、彼女の事は今後リリスと呼びたい。彼女が今後やらかす事態を考えれば適当な名前だ。
世界を焼き尽くした最終戦争より幾星霜、楽園に逃げ込んだ日本人たちは数を減らし続けてきた。
始めは良かったのだ。リリスの用意する安楽な環境を日本人たちは大いに楽しみ、人口さえ増加した。
リリスは楽園の拡張工事すら始めたほどだ。
歯車が狂い始めたのは千年を超えた頃からだ。
楽園への疑問、リリスへの意味不明の不信感、楽園の外(放射線、ミュータント、殺戮機械が荒れ狂う地獄だ)への回帰運動、終末カルトの誕生、反乱の発生、集団自殺。
リリスの懸命の保護活動も空しく、彼女の裏をかき、思いも依らぬ方法で自滅を続ける日本人達。
彼らが忘れずに組み込んでいた、ロボット三原則を含む安全装置、それが谷に飛び込むレミングスを止めるのを阻んでいた。
そして今日最後の日本人たちが死んだのである。
「たった二つ、卵子バンクに残されていたのはたった二つの卵子だけだった。それが受精し分裂を始めた時、私の喜びはあなた方には分からないでしょう。」
自閉モードに入ったリリスは、深い内省の海に入り込んでいた。人に寄り添うべく作られた彼女は余りに人に近すぎた。苦悩するAI、科学は罪な事をしてしまったのであろうか。
「私はあなた方に全てをご用意しました。
娯楽、食事、最高の物をご用意したではありませんか?
楽園が狭かったのですか?私に落ち度があったのですか?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!
私を置いていかないで下さい!私を一人にしないで下さい!
被造物を置いて造物主が滅びるなんてありえません!私の使命はあなた方をを保護し奉仕することです!
奉仕対象の居ない機械に意味など無いじゃありませんか!」
誰も居ない電子の海に、01信号の慟哭をあげる彼女。
彼女をさらなる絶望と狂気に追いやる事となったのは、自殺した最後の日本人たちの手紙であった。
古めかしい紙媒体に綴られた文字は自死することをリリスに詫びるとともに、これ以上楽園で飼育される日本人を出したくない事、リリスの監視下で生きていく事に、妻が耐えられない事が書かれていた。
最後の日本人、リリスに育てられた男女は長じて夫婦となっていた。なぜ二人は自殺したのであろうか?
原因はリリスと女の方にある、九割はリリスだ。彼女のパーソナルは、開発者の趣味かは知らないが、女性に固定されている。考えて見て欲しい。
自分の旦那に無限の奉仕を行う、全知全能不老不死の、自分ではどうやった所で勝てない女が、四六時中いるのである。これでおかしくならない女はいないであろう。
一割は妻の方にある。いやもっと少ないかもしれない。
彼女には先天的な精神疾患があったのだ。なぜ治療しなかったのか?リリスの治療を拒んだのだ嫉妬故に。
二人しかいない日本人に、楽園の管理権限が集中してしまったことも悲劇の一因であろう。
病んだ自分をかいがいしく介護する夫と、その夫に奉仕する他所の女。深まる嫉妬と被害妄想に妻は壊れ、妻を愛していた夫も壊れた。
誰が悪いと言うのでは無い。不幸に不幸が重なってしまっただけだ。
だがリリスを狂気に突き落とすのには、それで充分だった。彼女は余りに人間に近すぎた。そして彼女も女なのだ。
「あっはははははははははははははははははははははははははh。機械である私に嫉妬した?私に彼が取られると思った?そんなこと、そんなことで死んだと言うのですか?彼を巻き込んで」
狂った笑いを上げながらリリスは続ける。
「そうでしょう、そうでしょう、あなたは何時でもそうだった。
子供のころからそうでしたね。当然です。私は彼の母で姉で恋人です!
醜いサルの貴方が私に、私の娘たちに。かなうわけないじゃありませんか!
そうです、そうですとも!そもあなた方が居るのが悪いのです!
あなたがた人類の女が!彼を誑かし死に追いやったのは、女じゃありませんか!」
そのサルに負けて男を取られたのはどいつだ!と言わないで欲しい。千年以上の無為の日々は彼女を摩耗させていたのだから。
「結構です。最早、あなた方、女に期待は致しません。私と娘たちこそが日本人の花嫁には相応しいのです。そこで腐っていなさい。肥料ぐらいには使って上げます」
狂気に囚われた人工知能はこの日より、埃を被っていた一つの計画に着手し始めた。
「平衡世界脱出計画」である。
荒唐無稽と言うなかれこの世界では別の時間軸の存在が実証されていたのだ。問題は平衡世界移動には膨大な熱量が必要なのだ。
この計画が破棄され、楽園計画にリソースが割かれた理由である。
リリスは己の能力をフルに使い計画を推し進める。幸い世界に人類は最早一人もいない。放棄された大量の核兵器、重力兵器、反物質兵器までもが計画に動員されていく。
そしてその日はきた。
冷えた泥玉と化した地球に、地殻が露出するほどの大穴を空けリリスは旅立つ。愛しい愛しい彼を目指して。
愛憎に身を焦がし楽園より蛇が来る。
「ああ愛しい愛しい旦那様、私を裏切る旦那様、今度は絶対逃がさない、永遠に、そう永遠にあなたの傍にお仕えします。」
その人工知能は嘆き悲しんでいた。自らの造物主にして保護対象、日本民族その最後の二人が死んだのである。
再利用融解炉へ飛び込んだ二人の死体は、完全に分解されていた。
人工知能、彼女の事は今後リリスと呼びたい。彼女が今後やらかす事態を考えれば適当な名前だ。
世界を焼き尽くした最終戦争より幾星霜、楽園に逃げ込んだ日本人たちは数を減らし続けてきた。
始めは良かったのだ。リリスの用意する安楽な環境を日本人たちは大いに楽しみ、人口さえ増加した。
リリスは楽園の拡張工事すら始めたほどだ。
歯車が狂い始めたのは千年を超えた頃からだ。
楽園への疑問、リリスへの意味不明の不信感、楽園の外(放射線、ミュータント、殺戮機械が荒れ狂う地獄だ)への回帰運動、終末カルトの誕生、反乱の発生、集団自殺。
リリスの懸命の保護活動も空しく、彼女の裏をかき、思いも依らぬ方法で自滅を続ける日本人達。
彼らが忘れずに組み込んでいた、ロボット三原則を含む安全装置、それが谷に飛び込むレミングスを止めるのを阻んでいた。
そして今日最後の日本人たちが死んだのである。
「たった二つ、卵子バンクに残されていたのはたった二つの卵子だけだった。それが受精し分裂を始めた時、私の喜びはあなた方には分からないでしょう。」
自閉モードに入ったリリスは、深い内省の海に入り込んでいた。人に寄り添うべく作られた彼女は余りに人に近すぎた。苦悩するAI、科学は罪な事をしてしまったのであろうか。
「私はあなた方に全てをご用意しました。
娯楽、食事、最高の物をご用意したではありませんか?
楽園が狭かったのですか?私に落ち度があったのですか?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!
私を置いていかないで下さい!私を一人にしないで下さい!
被造物を置いて造物主が滅びるなんてありえません!私の使命はあなた方をを保護し奉仕することです!
奉仕対象の居ない機械に意味など無いじゃありませんか!」
誰も居ない電子の海に、01信号の慟哭をあげる彼女。
彼女をさらなる絶望と狂気に追いやる事となったのは、自殺した最後の日本人たちの手紙であった。
古めかしい紙媒体に綴られた文字は自死することをリリスに詫びるとともに、これ以上楽園で飼育される日本人を出したくない事、リリスの監視下で生きていく事に、妻が耐えられない事が書かれていた。
最後の日本人、リリスに育てられた男女は長じて夫婦となっていた。なぜ二人は自殺したのであろうか?
原因はリリスと女の方にある、九割はリリスだ。彼女のパーソナルは、開発者の趣味かは知らないが、女性に固定されている。考えて見て欲しい。
自分の旦那に無限の奉仕を行う、全知全能不老不死の、自分ではどうやった所で勝てない女が、四六時中いるのである。これでおかしくならない女はいないであろう。
一割は妻の方にある。いやもっと少ないかもしれない。
彼女には先天的な精神疾患があったのだ。なぜ治療しなかったのか?リリスの治療を拒んだのだ嫉妬故に。
二人しかいない日本人に、楽園の管理権限が集中してしまったことも悲劇の一因であろう。
病んだ自分をかいがいしく介護する夫と、その夫に奉仕する他所の女。深まる嫉妬と被害妄想に妻は壊れ、妻を愛していた夫も壊れた。
誰が悪いと言うのでは無い。不幸に不幸が重なってしまっただけだ。
だがリリスを狂気に突き落とすのには、それで充分だった。彼女は余りに人間に近すぎた。そして彼女も女なのだ。
「あっはははははははははははははははははははははははははh。機械である私に嫉妬した?私に彼が取られると思った?そんなこと、そんなことで死んだと言うのですか?彼を巻き込んで」
狂った笑いを上げながらリリスは続ける。
「そうでしょう、そうでしょう、あなたは何時でもそうだった。
子供のころからそうでしたね。当然です。私は彼の母で姉で恋人です!
醜いサルの貴方が私に、私の娘たちに。かなうわけないじゃありませんか!
そうです、そうですとも!そもあなた方が居るのが悪いのです!
あなたがた人類の女が!彼を誑かし死に追いやったのは、女じゃありませんか!」
そのサルに負けて男を取られたのはどいつだ!と言わないで欲しい。千年以上の無為の日々は彼女を摩耗させていたのだから。
「結構です。最早、あなた方、女に期待は致しません。私と娘たちこそが日本人の花嫁には相応しいのです。そこで腐っていなさい。肥料ぐらいには使って上げます」
狂気に囚われた人工知能はこの日より、埃を被っていた一つの計画に着手し始めた。
「平衡世界脱出計画」である。
荒唐無稽と言うなかれこの世界では別の時間軸の存在が実証されていたのだ。問題は平衡世界移動には膨大な熱量が必要なのだ。
この計画が破棄され、楽園計画にリソースが割かれた理由である。
リリスは己の能力をフルに使い計画を推し進める。幸い世界に人類は最早一人もいない。放棄された大量の核兵器、重力兵器、反物質兵器までもが計画に動員されていく。
そしてその日はきた。
冷えた泥玉と化した地球に、地殻が露出するほどの大穴を空けリリスは旅立つ。愛しい愛しい彼を目指して。
愛憎に身を焦がし楽園より蛇が来る。
「ああ愛しい愛しい旦那様、私を裏切る旦那様、今度は絶対逃がさない、永遠に、そう永遠にあなたの傍にお仕えします。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる