ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第二十六話 世の顔見忘れたか!

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 だだだだだだだだっ、無数の蹄の音響、馬蹄に掛けられ踏みつぶされる人間からボグリと鈍い音が聞こえる。



 此処はモンゴル、ウランバートル。



 風の様に馬を駆り、走りゆく禿がいる、脇にメイドを従えて走りゆく禿一騎。



 後ろに続くは蒙古緒氏族、日満連合騎兵、世界最後のペイルライダーたちだ。



 「ワハハ、見たかソ連!吾輩の智謀の冴え!まさに天才」



 馬上で高笑いを上げる男は、ご存じ天災参謀辻正信。



 我にモンゴル攻略の秘策ありと、無理矢理作戦を捻じ込んだ彼は、でっち上げた大ハーンの勅書を持って、モンゴル緒氏族を糾合ウランバートルに殴り込んできたのだ。



 イルクーツクに迫る日本軍を迎撃する為、此処はがら空きも同然。



 何処から手に入れたのか、菊の御旗を振りかざし。



 「大ハーン万歳」

 

 各所で戦闘を開始する反乱軍。



 関東軍司令部は



 「辻の野郎なんて事を!」



 と思ったが後の祭りだ。



 「こうなったらやるしかねぇ!」



 大ハーンの援軍を求める反乱軍に呼応し、覚悟を決めた、日満騎兵連合は乱戦の最中に飛び込んだ。



 「吾輩大勝利!」

 

 陥落した政府庁舎に、日満蒙の旗が翩翻と翻る。



 先ほどメイドからイルクーツク占領の一報告を受けた辻は、見事な連携、我ながら恐れ入るこれぞ戦争の芸術と勝利の雄たけびを上げている。



 既に市街はメイドにより瓦礫の撤去と再建が始まっている。



 モンゴルは反乱軍の手に落ちたのだ。



 まだ馬鹿笑いを上げる辻正信に、今後の予定として氏族代表達は大ハーンへの謁見を求める。

 

 何となればモンゴルは大ハーンの臣下として正式に冊封される事になる。



 満州兵たちに聞いたところ、大ハーンは中華の皇帝の位をも実力でもぎ取った言うのだ。



 東の果てより満州、蒙古は言うに及ばず。中華の地をも己が手中に収める男。



 伝説のチンギスハーンには及ばずとも、草原の蒼き狼である事は確定的に明らかなのだ。



 (さて困った)



 馬鹿笑いを引っ込めた辻は頭を捻る。



 (こいつ等を天皇陛下の元へ正式に案内する事など出来るはずもない)



 「天皇陛下は大ハーンである」



 など関東軍と辻が勝手に仕掛けた情報戦にしか過ぎないのだ。



 この話を中央に持って行こうものなら、どんな目に会うか知れたものでは無い。

 

 さて、如何した者かと唸っているた彼に、この世で一番聞きたくないやんごとなき声が聞こえた。



 「楽しそうであるな。辻少佐。朕の名前を使っての戦争は余程愉快と見える」



 聞こえるはずがない、聞こえて良いはずがない。



 ここにおられるはずもない。そもあのお方は大元帥、此処は異国の最前線なのだ。



 (空耳だ。お願い空耳であって下さい)



 そう思う辻に更に言葉が掛けられる。



 「如何した?辻少佐。そんなに朕の顔を見たくないのか?朕は確か中華皇帝で、今度は大ハーンになった男であるぞ。早く朕の新しい臣民に紹介してくれんのかね」



 飛び上がった辻はその場で振り返りスライディング、声の主に土下座を決める。



 流れるような見事な土下座だ。何時の間にやら辺りは静まり返り、馬の嘶きだけが木霊している。



 「すみませんでしたー、どっどどうかお許しを!作戦の関係上、必要な事でして、あの、その」



 「ふむ、何をあやまる、少佐?必要があったから、朕の名を使い戦争を起こしたのであろう?それとも何かやましい意図があって朕の名前を騙ったのか?」



 「いえ、それは、その、必要と言うか、そうです!司令部です、司令部がどうしてもと言うもので、私、断腸の思いでありまして、、、、」



 「連れて行け」

 

 「えっ?何をする!離せ!おいメイド一号!何してる離せ!止めて!陛下ーこれには訳がー」





 いつの間にやら、両脇に控えていたメイドさんに引っ立てられ連れて行かれる辻を見送り、小さく鼻を鳴らすと、大元帥にして大中華皇帝この度大ハーンに就任予定の尊い御方は、集まった蒙古族長たちにメイドを通訳にして話しかける。



 「この度の戦い真に見事である。皆さんの事は私が帝国を代表して保証しよう。之は天皇としての約束だ。心配しなくて良い。モンゴルは皆さんの国である。モンゴルの事はモンゴル人で決めるが良かろう。私に遠慮する事はない」



 そう言い残し、大ハーンは近衛と共に飛行機で去っていた。



 クリルタイの招集、正式な天皇の大ハーン位の推戴と新モンゴル帝国政府が日本との同君連合を発表したのは、しばらくしてからの事であった。

 





 「これで良かったのかねリリス君?正直、これ以上、王冠が増えるのは僕としては勘弁して欲しいのだが」



 「ご心配にならずともこれで最後でございます。満州にいるならず者共も、陛下直々の処罰となれば、大人しくなるでしょう。帝国は陛下の元に一つとなるのです。



 お気が進まないのも無理がございませんが、帝国をいえ、日本民族を滅びから救うのはこれしかございません。どうか我慢をして下さいませ」



 機上の人となった、陛下と一人のメイドが言葉を交わす。



 帝国を天皇の意思の元一つにする。



 立憲君主を目指していた自分からは受け入れがたい事だ



 。だが、未来から来たと言うこの美しき機械が言うには、それしか帝国を滅びから救う道は無いと言う。

 

 信じる他はない。人は無力なのだ。



 少なくとも、この人にしか見えない機械は、帝国を繁栄の絶頂へと導こうとしているのだから。

 

 窓の外を見下ろせば夕日が大草原を朱に染めている。



 「どうか帝国に滅びが訪れる事なきように」



 奉仕機械に蝕まれる帝国の主は小さく呟いた。
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