ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第三十三話 さらば筆髭また逢う日まで

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 1941年4月22日 スターリングラードでの休息と補給を終えた日独連合軍は二日酔いの吐き気を堪えながらモスクワ攻略作戦に乗り出した。



 既にモスクワ周辺は重爆の射程内、帝国海軍からパイロット事拉致してきた零式艦上戦闘機の援護の元、モスクワから伸びるロシアの大動脈へはこれでもかと爆撃が加えられ、ソ連赤軍と相対する各戦線の友軍も同時総攻撃を敢行していく。



 四方から叩かれ続けるソヴィエト政府は最後の力を振り絞りモスクワ周辺に兵を呼び戻し徹底抗戦の構えを見せる。

 

 ここで負ければロシアの大地に住まう全ての者は奴隷か死の運命に見舞われる。



 もはや主義主張の問題ではない。



 「全ての人民は銃を持ち立ち上がれ!我々は決してファシスト共に屈しない!」



 女子供は言うに及ばず、老人、負傷者、犯罪者まで動員して悲壮なる戦闘は開始される。



 美しいなあ本当に美しいよ。平等への気高き試み。そこに差別はなく老若男女協力して抵抗を見せる。人類の理想の姿がここにある。まさに戦場に咲く一輪の赤い花。じゃあ死のうか。

 

 平等が好きなんだね、砲弾は差別しないよ。



 悲壮なる決意だね、爆弾はそんな事気にしないよ。



 ここでもやる事は変わりない。



 敵野戦軍を戦車と爆撃で踏みつぶし、立てこもるなら列車砲で吹き飛ばす。



 ドイツ軍がセヴァストポリ要塞攻略の為持ち込んできたドーラちゃんは四〇糎加農砲に変わる無許可ライセンス兵器として日本軍で活躍中なのだ。



 80cm列車砲15両からなる砲撃の威力は既にクリミア半島で実施済み。



 メイド軍団が次々と敷設する線路を通って縦横無尽に移動するカワイ子ちゃんたちはクリミア半島を月面よりひどい面に変えてしまった。



 バクー方面のソヴィエト軍は、崩れ行く納屋を見て我慢しきれなくなった新しいお友達、トルコ共和国君が行う迫真の火事場泥棒に動くに動けない。



 ヴォロネジ、リベツク、リャザン、トゥーラをクレーターの残る大地に変え、情け無用容赦無用の修羅たちは、5月28日モスクワ外延部に到達した。



 赤き人類最後の拠点モスクワ攻略に取り掛かる魔王軍であるが、ここではいつもと事情が異なる。



 目的はクレムリン占領、破壊ではなく占領。コミンテルン王のスターリンが此処モスクワに逃げずに留まっている事が複数情報筋から金と物資で叩いて分かったからだ。



 社会主義者最後の希望を摘み取り、世を暗黒のファシズムで塗りつぶさんとする、魔王アドルフヒトラー(53歳)氏がドイツ軍全体に厳命している以上、付き合う日本軍も嫌とは言えない。

 

 ここでヒトラー君53歳にへそを曲げられ後の占領統治で癇癪起こされてもたまらない。



 スターリンラード酒場でパウルス大将以下ドイツ軍上級幹部の愚痴大会に付き合った結果、ヒトラー君は相当にいい性格をしているらしいと酒臭い息で涙ながらに語るパウルス大将に聞いている。



 面倒だが仕方ない。欲求不満のドーラ姉妹にはモスクワ外延を噴きと飛ばして貰うに止め、市街戦が開始された。





 





 ここは地獄だ



 若き女性スナイパー、アリョーナは瓦礫の中で身を隠しながら思った。



 そしてあいつらは悪魔だ。



 老人だろうが子供だろうが容赦ない。故郷の村からから比べたら夢のような都市であるモスクワは煙と瓦礫の廃墟になっている。



 同い年の女の子、優しかった大尉さん、皆皆殺された。千切れて、バラバラになって、家族の名を呼びながら。

 

 一人でも多く敵を取らなきゃ、

 

 故郷に村には帰れないだろう。



 それでもあいつらには負けたくない。



 隊列を掃射していったあの飛行機のパイロット確かに笑ってた。



 あんな奴らに負けたくない。彼女は震える手でモシンナガンをギュッと握る。

 

 「来た!」

 

 通りの向こう歩兵の一隊が出てきた。幸いな事に瓦礫に手間取り戦車は後ろだ。



 良く狙わなきゃ。



 大尉さんが言ってた。冷静になれ。静かに獲物を狙うんだって。これでも8人は仕留めている。



 もっと、もっと多く、じゃなきゃ皆天国に行けない。



 歩兵の一隊は妙な連中だった。



 スコープ越しに見る兵隊はしわ一つない卸したてみたいな軍服で自分の虱だらけの服とは大違い。



 不公平だ、人民の為の国がこんなボロボロで、自分は何日も洗えない服で糞尿の匂いに塗れているのに、あいつらはピカピカの軍服でしかも太ってる。あたしは2日もろくに食べてない。

 

 



 



 余りの不公平さに冷静さをかなぐり捨て引き金を引こうとした時。



 アリョーナの耳に鈴を転がすような美しい声が聞こえた。



 「ダーメ。女の子がそんな事しちゃだめですよ。ほらいい子だから銃を下しなさい」



 咄嗟に瓦礫から身を起こし振り返る。そこに居たのは戦場で居ていい者ではなかった。



 フリルの付いたヒラヒラの服頭にカチューシャ、長い黒髪に青い目美しき女がいた。

 

 (何だこいつ何者だ?)



 そう思うのもつかの間、若くとも地獄を潜り抜けてきた戦士であるアリョーナは謎の女目掛けて引き金を引いた。

 

 乾いた音を響かせて7.62mm弾は女に命中する。



 だが如何した事だ胴体に食い込んだ弾を気にもせず女は話しかける。



 体からは一滴に血も流れていないし、服も穴が開いただけ、、、時を巻き戻すように穴が消えていく。



 「あら悪い子ですね、人に向けて銃を撃つなんて。お父さんに人に銃を撃ってはいけないと教えてもらわなかったのですか?」



 (怖い何こいつ!)



 恐怖に囚われたアリョーナは槓桿を引くと再度女目掛けて7.62mmを撃ちこんだ。



 (今度こそ!)



 銃弾は確かに女の顔を捉えたはずだ。だが女は微動だにしない。穴の開いた顔はグニャリと歪みそこにあったのは元の美しい顔。



 「腕白な子です事。それより良いんですか逃げなくて?たしか狙撃手は一回撃ったら場所を変えなくてはならないのでは?」



 (しまった!自分は歩兵を狙っていたのだ。逃げ、、、)



 女を無視し急いでその場を去ろうとしたアリョーナを、異変に気付いた歩兵の制圧射撃が襲い。



 一発の7.7mm弾が背中を貫く弾は肺を貫通した。



 アリョーナは崩れ落ちる。



 倒れ伏し自らの血で溺れるアリョーナに女は優しく語り掛ける。



 その瞳と言葉は獲物を嬲れる嗜虐心に満ちていた。



 「生きたい?」

 

 薄れゆく意識の中、それでも生にしがみ付く人間の悲しき本能はアリョーナを小さく頷かせる。



 「良い子ですね。対象者を重大な生命の危機と判断しました。緊急蘇生プロトコルを実施します。ようこそ、そしてさようなら良い夢を」



 



 

 1941年6月5日 最後の抵抗を見せていたNKVD部隊と第32親衛旅団の一部が降伏、クレムリンに旭日旗とハーケンクロイツが翻った。



 後日スターリンの死体がNKVD長官ラヴレンチー・ベリヤの手でドイツ軍に引き渡される事になる。

 
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