ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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最終話 永遠のご奉仕 その二

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 アドルフヒトラーは、大ドイツの英雄である。



 数多の敵を打ち破り、世界に冠たる大ドイツ帝国を打ち立てた生きる伝説。



 それがアドルフヒトラー(84歳)だ。



 後期高齢者の彼は、現在もなお大ドイツ総統の地位を引いていない。



 実質的な権力は、愛息子である、二代目副総統ジークフリードヒトラー(28歳)へ移譲が進んでいるとは言え、その影響力は絶大だ。



 彼が未だ権力の座に拘っているのは、偏に息子が心配でならないからである。



 ゲーリングは麻薬中毒スキャンダルで自殺に追い込み、ヒムラーはニワトリの餌にした。



 ラインハルトはロシアの地でパルチザンに撃たせ、忠実なる宣伝大臣は寿命で死亡。



 シュペーアは新首都ゲルマニア建設で過労死、他の連中も大方が自分と愛妻エーファの陰謀により叩き出されるか閑職に追い込んである。



 しかし、しかしである。ここは伏魔殿と言うほかない大ドイツの神殿だ。



 敵は未だ多い、自分は息子を置いて死ねない。



 ありとあらゆる延命措置を施している唯一の友クビツェクに総統は愚痴る。



 



 そんなヒトラーが暗殺されたのだ。



 誕生日に合わせたパレードの最中、沿道に集まる群衆より車に走り寄って来た男の一撃によって。



 男は即座に射殺されたが、この事件の衝撃はドイツ全土震わせる。



 そんな馬鹿な!誕生記念パレードに動員された人間は、全て親衛隊の厳しい調査を受けた筈!親衛隊は何をしていた!誰だ責任者!



 



 責任者は逃亡、血眼になった親衛隊の捜索により、新ローマ国境を越え逃亡した事が発覚する。



 お粗末極まる幕引きだが、後日の捜査で更に衝撃的な事が発覚する。



 責任者で有った親衛隊大佐は巧妙に隠されてはいたがユダヤ系だったのだ。



 何者かに、その事を脅された彼は、身の安全と引き換えに、総統暗殺を手引きしていた。



 犯人もまたユダヤ系、ドイツのユダヤ系は、大部分がシオン共和国送りになっていたが、それはあくまでドイツ国内に限る。



 新大陸領や元フランス領での猖獗を極めたユダヤ狩りは多くの犠牲者を出している。



 犯人はどうやら新ローマ属領リビアを経由し、シオン共和国で教育を受けたシオニストであることが判明する。







  これを受けた第二代大ドイツ総統ジークフリードヒトラーは国葬の場に置いて、大日本帝国と新ローマを非難する演説を行う。



 



 「愛する父であり国父たるアドルフヒトラーを、何故我々は失わなければならなかったのだ?



 それは無責任な大国による統治で劣等人種が付けあがった事にある。



 私、新総統であるジークフリードヒトラーはローマ、日本両国に猛省を求めるものである。何らかの謝罪と、誠意ある対応が行われない限り、大ドイツは如何なる手段の実行も躊躇しない!」



 



 無論これは国民向けのポーズである。



 新総統とて、大ドイツの発展が、日本の資源とローマを始め各国との自由貿易で成り立っている事は重々承知している。



 正式な外交の場では再発の防止と犯人の引き渡し、捜査協力を求めるに留まってはいた。



 新総統の失敗は部下の無能さを見誤っていたことだ。



 天性の博打屋旧総統とエーファ婦人の背中を見て育ち、才覚ある人間で有った彼は大ドイツの力を盲信してはいない。



 この国はタダ同然の資源と、奴隷を酷使して回る、辛うじて燃えてないだけの車に過ぎない。



 一歩舵取りを間違えれば、即火の手が上がり、こんがりキツネ色。



 だが部下は違う。古株のナチス高官は軒並み排斥され、勝利を重ねるドイツの姿を見て育った世代が中心なのだ。



 だから不味かった。大国相手に、新総統の国内向けの言説を、真面に信じて交渉してしまった。

 

 



 互いの高慢と偏見は正面衝突し、三者物別れ。慌てた新総統の顔に更に蜂の群れが襲い掛かる。



 欧州、大ドイツ領内での大反乱の発生である。



 アドルフヒトラーの死と新総統の急な就任、本来であれば旧総統の引退に合わせた緩やかな変化で済むハズであったが、ドイツ内部はごたついている。



 

 「「一世一代の好機到来!これを逃せば最早反乱の芽は潰えてしまう」」



 英国の密かな支援を受けていたブルターニュ地方、カリフォルニア連邦が支援するテキサス、恨みが骨処か脳髄にまで染み渡るウクライナと不穏だった地域が一斉に火を噴いたのだ。



 新総統の判断は果断の一言である。



 徹底的な弾圧。親衛隊は元より軍全体で反乱の早期鎮圧を図る。



 



 大ドイツの混乱は、

 

 「「やったぜ!この隙に火を付けたろ!」」



 と手を出す各国にも飛び火する。



 フランス反乱軍は新ローマ属領ガリアでの反乱と呼応。



 ウクライナの反乱はモスクワでのテロ活動の増加を呼び起こし、そこに手を出すポーランドとシオン。



 ドイツが崩壊すれば旧領奪還が叶う。



 両国軍は日本の許可も得ず軍を国境に揃え始める。



 両国ともあり得ない程の軍事国家なのだ、その動員は神速と言っていい。



 



 新大陸でも、ノーマンズランドとなっていた筈の東海岸で、トゲトゲ肩パッドが獲物を求めてカナダや五大湖側に出没。



 たいして警備の居ない枢軸各国の植民地は治安が悪化、盟主たる列強に救援の悲鳴をあげる。



 核兵器の維持に金を取られ、正面装備の予算を削っていた各国は、相次ぐ反乱に慌てても出す兵が足りない。



 

 「「よっしゃあ!今の内だ!圧制者共を追い出せ!」」



 世界各国のスパルタカスとアルミニウスは之が最後の機会と持てる力を振り絞り反乱の火の手を上げていく。



 「「奴隷共!調子に乗るな!これが目に入らんか!入らないなら捻じ込んでやる!有難く受け取れ!」」



 



  人間の尊厳を掛けた大反乱に対して列強の答えはこれまでと同じく核兵器であった。



 ブレストは焼け爛れ、



 ボルドー産ワインは青く光り、



 人類のパン籠たる黒土地帯は汚染され、



 インドは更に居住に適した地域が無くなっていく。



 新大陸では、もう我慢できんと旧アメリカ人たちが、放射線が追加された土地に追い出されてい行く。

 

 トゲトゲ肩パッド軍団は消毒された。

 

 





 1974年 全ての勇気ある抵抗が潰えた時、さすがの列強諸国も息切れする。



 長きに渡る平穏と繁栄の日々は彼らをして大戦の記憶を遠い物にしていた。



 残されたのは、自国領土を汚染した事実と、燻り続けるテロの影だ。



 



 息を切らし奴隷の血で塗れた彼らの見た者、それは傷一つ追っていない常春の帝国の姿だった。



 肥え太らせた番犬に汚い仕事を肩代わりさせ、反乱の炎とテロを輸出して自分たちを疲弊させる悪の帝国。



 大日本帝国率いる大東亜連合の姿であった。



 

 俺たちが苦労しているのになんだその態度!そんなに反乱が楽しいのか!第一お前が飼い犬を躾てないからこんな事になったんだぞ!



 

大英帝国、大ドイツ、新ローマは連名で今回の反乱の原因は日本にあると抗議。



 損害の補填と謝罪を求める。



 これを受けた日本政府は不満を示したが素直に賠償を支払う。



 だが謝罪はしない。



 そも列強が奴隷経済とか言う頓智機をしているのが原因ではないか!家のワンちゃんに噛まれたのはお前らが悪い!



 

 お前!他人だと思って言うに事欠いて噛まれた方が悪いだと!何だ!その言いよう!







 この事件の後世界は険悪な空気が漂い始める。



 あいつ資源を握っているからといい気になりやがって。



 





 1975年 大日本帝国は各国に対する資源輸出を絞り始める。



 この対応は更に世界情勢を悪化させていく。



 何故こんな事を突然やり出したのだろうか。



 この様な事態に落ち言っている世界に国民は如何思っているのだろうか?



 答えは先に言ってしまおう。



 既に若い世代は全てがデザインヒューマンに変わっている今、彼らは世界その物に嫌気が刺している。



 



 1976年 大日本帝国の古都である京都で行われた。



 事態打開の会談は、最悪の結果で終わる。



 遂に大日本帝国国内で大規模テロが発生したのだ。



 使用された手段は汚い爆弾、核兵器だ。

 

 出席していた各国外相の被爆と、千単位の市民が犠牲になり、この最悪の事件は終わりを告げる。



 犯人は死亡、事件背景は分からずじまい。



 満天下に日本の恥を晒す結果となってしまった。



 国民はこの暴挙に怒るより諦めの感情を抱いていた。



 

 あいつ等に付き合っていては此方も被害を受け続ける。



 もう嫌だ!



 



 

 1977年 テロの時代は新しい段階を迎える。



 テロリストは狙う場所を変えた。



 京都での成果に威力を確信した彼らは、核物質を使い食料資源地帯を狙い始めたのだ。



 誰がそれを供給しているは言わないでもわかるね。



 相次ぐ大反乱の失敗は抵抗者達の心を蝕んでいた。



 どんな兵力を揃えても、どんなに犠牲を積み上げても、無慈悲な主人は圧倒的な力で踏みつぶしてくる。



 

 永遠に奴隷にされている位で有ったならいっその事。



 「はーい、そんな皆様に新商品がございます。どうですかこの威力?ねぇどうです?奴らに皆様と同じく餓える恐怖を味合わせてやりたくはありませんか?」

 

 そんな彼らの心の隙間に蛇は迫って来る。



 そして世界はまた狭くなっていく。



 



 1979年 相次ぐ核テロは列強の懐を直撃し続ていた。取り締まっても、弾圧しても、奴らは自殺的に此方の米櫃に穴を空ける。





 ネズミ共いい加減にしろ!





 徐々にではあるが国民生活にも影響は出始めている。



 何とかしのげるのは矢張り日本から来る、安い食料品たち。





 このままでは資源だけでな食料まで日本に握られてしまうのか?





  各国共、日本が資源輸出を絞り始めてより、資源開発は進めているが、いままで日本の格安資源に頼りきりでどうにも上手くいかない。



 何より資源地帯と思しき場所は、奴隷共が示し合わせた様に反乱を起こしていた場所、核兵器を投下してしまっている。





 こんな事なら落とさなかった良かった。



 

 



 列強の疲弊は、大東亜連合の狂犬たちに不穏な空気を醸成させていた。



 日本は彼らを愛玩犬と思っているだろうが、三十年以上の長きに渡り、軍事国家としてやってきた彼らは、チワワではなくチベタンマスチフだ。



 そんな彼らだからこそ思うのだ。



 自分の奴隷に殺されそうな哀れな暴君より、過保護な主人の方が世界の主に相応しいのでは?



 主人にその気がないなら、自分たちで無理矢理にでも、玉座に据えた方が良いのではないだろうか?



 善意半分、世界支配の暁には、自分が分け前を要求しても良いだろうと言う欲が半分。



 飼い犬は主人に似る、彼らの思考はミニ皇道派。



 ご主人様は無理解な奴隷商人の被害者なのだ。



 弾圧され続ける民衆を救う為、我ら立ち上がらなければいけない。



 大日本帝国は自分の飼い犬たちが、車座でワンワンと良からぬ事を企んでいる事を、知らないのだろうか?



 知っている。ちゃーんと知っている。



 知っていて放置している。



 と言うより関心が無くなってきていた。



 彼らは世界に、トラブル続きの世界に、飽き飽きしていた。



 国民の大半が、自分の意志そっちのけで暴れる、青年将校を見ていた陛下の気持ちを理解できた気がしていた。



 





 1980年 大日本帝国は、大東亜連合各国に核兵器の使用許可と各国に配備されていた、核兵器の管理移管を発表する。



 「あいつ等もしかしてやるつもりなのか?」



 「おお!遂にごすずんは立ち上がられるのか!」



 反応は様々だが世界に衝撃が走ったことは間違いない。



 



 1981年 4月30日 それは起こった。



 大日本帝国からの輸送がストップしたのだ。



 

 幾ら気に食わないからと言って、突然止める事は無いだろう!





 各国ともに大使を呼びだそうとしても大使館は蛻の空。



 どうした?何で居ないの?出国記録は?無い?どうして?



 

 大東亜連合加盟国には連絡が付いた為、何が起ったか確認を取るが分からずじまい。



 本国に連絡を取ってみますと言ったきり。



 何が起った?



 日本本土への連絡も通信途絶、駐在大使は簀巻きで本国に放りだされている所を発見される。



 皆一様に、突然大使館に乱入してきた日本軍に捕まり、気づいたらここにいましたと訳の分からない事を宣い始める。



 連絡便は無人の空港に着陸して戻ってくる。



 船便もまた付いた港は無人ですと連絡を寄越す。



 



 何だ?何が起ってるんだ?またあいつ等頓智機を始めたな!



 

 列強はふざけんな!済むかもしれないが、加盟国はたまったものでは無い。



 自分たちが生きていけるのは宗主国から来る物資のお陰なのだ。



 中華民国なぞ8億を超える国民を抱えている。



 急ぎ南京の総統府に駆け込んでみたが、そこに有ったのは物言わぬ抜け殻と化した元蒋介石だけ。





 

 えらいこっちゃ!



 どうすんだ!どうすべぇ!今まで暖衣飽食の日々を送っていた人々にはなすすべがない。



 農地?全部潰してタワーマンションだよ!



 工場?家に有るのはショッピングモールだけだよ!



 食い物が無い!薬が無い!着る服もない!



 有るのは、、、、



 





「首相閣下!ご決断を!」



 カリフォルニア連邦首相マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは詰め寄る閣僚に頭を抱えていた。



 宗主国との連絡が途絶えて早二週間、連邦の備蓄は減り続けている。



 山と積まれていた居たおかげで切り詰めれば半年は持つだろうが、それでも次の冬は越せそうもない。



 どうしたら良いんだ!



 「だが君、そんな事をすればドイツが黙ってはいないぞ!本気で彼ら反撃してくれば我が国はどうなる?」



 こいつら分かっていない。補給が無いんだぞ。確かに今なら勝てるが後はどうする?



 「半年は十分に暴れてご覧にいれます。其れまでに穀倉地帯を奪えなければ我々は飢え死にです。閣下!ご決断を!」



 「だが、君、、、」



 「いざとなれば核があります。日本が我が国に置いていた核は三千発あるのです!ドイツとて易々とは、我が国に攻撃を仕掛けられません!」



 それしかないのか、、神よお救いください。俯く首相は、執務室に押しかけて来た閣僚の女性たちが薄ら笑いを浮かべている事に気付かなかった。









 



「どうしたら良いんだ母さん!」



 大ドイツの支配者、金髪碧眼、眉目秀麗、身長190センチメートル、体重130キロのはち切れんばかりの筋肉の鎧を纏う理想的ゲルマン人。



 父から一時は本当に自分の子か?



 と疑念を抱かれ男は、愛する母に泣きついていた。



 涎を垂らした狂犬、ポーランド王国とシオン共和国はロシアを手に入れんと全力で殴りかかってきていた。



 長い平和で治安任務が主な警備部隊は各地で敗走、敵の魔の手はウクライナに迫りつつある。



 放射能でチョッピリ汚染されていても穀倉地帯で有る事には変わりがない。



 日本からの輸送が途絶えた今かの地を失う事は致命傷になる。



 「しっかりしなさい。ジーク。貴方たはあの人と私の子供でしょう。貴方は強い子よ。この国は貴方の物なの、貴方の決断を皆が待ってるわ。戦いなさい!貴方ならできるわ」



 「そうか、、そうだよね!有り難う母さん!誰か!狼の巣へ向かう!将軍達を集めろ!戦争の時間だ!」



 生来の弱気の虫を振り払い、全ドイツ人が敬愛する総統の仮面を被りなおした男は颯爽と、己の戦場へ向かった行った。



 「良い子に育ってくれましたねジーク。母は嬉しく思います、、、本当に愚かな子。そうですね、可哀そうですので、特別に、あの人と一緒に日本人として生まれ変わらせてあげます。今度は三人仲良く家族として暮らしましょうね。母は待ってますよ」



 それを見送った。エーファ婦人、メイドは酷薄な笑みを浮かべた。日本人としてなら本気で愛してあげましょう可愛い坊や。



 

 



 1980年 十月二十三日日 午前十二時三分 誰が撃ったか、もう分からないが、誰かが押した。



 今度は誰も踏みとどまれなかった。



 だってしょうがないじゃないか。



 誰も悪くない。誰も恨めない。



 誰も憎めない。



 憎むべきは彼女なのだ。



 済まない。



 本当に御免なさい、、、、











 「日本人の皆さま。ようこそ御出で頂きました。私はここ楽園の管理AIリリスと申します。核戦争の恐怖は過去の物です。どうぞここで心行くまでお楽しみください、、、、、永遠に」
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