裸日本本土決戦 

ボンジャー

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第三話 心配することは無い へっへっへ

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 瀬野尾太郎(7)は軍国少年だ。



 うん、そーだよ。いま日本は、きちくべーえーとせんそーしてるんだ。なんでって、先生たちが言ってたけど、全アジアをかいほーするせーせんなんだって。

 

 かいほーしたらみんなが、てんのーへいかのおーみいつのもと一つになるんだって。はっこーいちうって言うんだよ、しっててえらいだろ。そしたらバナナでもパインアップルでも、はらいっぱいたべられるって先生がいってた。

 おれもいまはちびだけど、大きくなったら、りっぱなへーたいさんになって、てんのーへいかのために、たたかうんだ。

 

 てんのーへいかとはなんだって?えーしらないの、じゃあ、おしえてあげる、てんのへーかはすごーくえらくて、かみさまなんだ、にほんじんはぜーんぶてんのーへいか(せきし)なんだよ。



 せきしとはなにか?ほんとうになんにもしらないんだね、あかちゃんっていみさ!



 繰り返すが、彼は国民学校にはいったばかりの、この時代ならばどこにでもいる軍国少年の一人だ。



 

  その存在は感動に打ち震えていた。



 「この脆弱なる群れは、その未熟なる精神で大いなる統合への道を進もうとしている!」



 集合意識生命にして銀河に広がるオーバーマインドは口があればそのように叫んだだろう。彼の感動は亜空間ネットワーク通して全銀河に広がった。

 

「我々はこの無慈悲なる銀河で孤独ではなかった、この星には我らの同胞が生まれようとしている!我らは新しき群れの誕生を祝福しなければならない」



 オーバーマインドの内側で彼を構成する意識達が声なき同意の声をあげた。



 同胞たる集合意識生命を探すため伸ばした無数の触手の一つがが偶然にもたどり着いた惑星、諦めにも似た諦観の中、餌を探していた原始生命の一匹の精神に触れたとき彼が語った言葉はオーバーマインドの受けた衝撃はそれほどのものであった。

 

 それが全くの誤解であったとしても、誕生より幾億年の孤独は彼を狂喜させるに十分であった



 「この個体と群れはどうやら活動するための熱量が欠乏しているらしい」

 

 「肉体に囚われている物の悲しさ、その苦しみ取り除いてやろう」

 

 「まて、この種族は脆弱きわまる簡単に死んでしまうその要因取り除くのが先だ」

 

 「まさか老いるだと、そのようなこと許されん」

 

 「まてまて、どうやら他の群れと縄張り争いをしているようだ、その群れを取り除こう」

 

 「馬鹿者、生命は時に試練も必要だ」

 

 「では、爪に牙かたい皮膚を与えたらどうだ」

 

 「この群れは、原始的な機械を使って争っている、それでは歯が立つまい」

 

 「では、先ほど意見も併せて単純に大きく強くしてやろう、この個体も大きくなれば戦闘個体になりたいと言っていた」

 

 「惑星の環境変化で滅んでは困る適応性をあげてやろう」

 

 「宙に行くとの事も忘れるなよ、超新星の爆発に巻き込まれて燃えたは笑えん」



 声たちはオーバーマインドの内側で口々に、新しい群れに施す祝福を叫びだした。この様に楽しいのはいつぶりであろうか。



 この様な事情で日本人の全くあずかり知らぬ場所で日本人大改造計画は進んでいった。



 時に1945年五月三日、異様なる御前会議の二か月前のことであるこの日より日本全土は大混乱の渦に巻き込まれる事となる。

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