裸日本本土決戦 

ボンジャー

文字の大きさ
4 / 25

第四話 おどりゃー町内会長 おどれも家族じゃ

しおりを挟む
 1945年5月6日 広島県広島市 某所

 

 その男は追い詰められていた。

 

 生まれてこの方これほど全力で走ったことなど無い。息は切れ眩暈はする、それでも捕まるわけにはいかない、何なんだあの化け物どもは、いや、あの化け物ども顔はよーくしっている。あのいけ好かない下駄職人の子せがれどもだ。



 どうにか配給米の保管されている倉庫に逃げ込んだ男はへたりこみながら今自分を追いかけている化け物どもと今朝からの出来事を思い返した。

 

 そう今朝から世界の全てがおかしくなった、町内で行う昼の竹やり訓練の用意をしているとき、ラジオから突然臨時放送が流れ、東京に戒厳令が敷かれたとの放送を最後にラジオ放送はすべて止まった。

 

 昼には町中に憲兵隊が走り回り、広島市全体が封鎖されるとの噂が広がり始めた、中には東京に米軍が上陸してきたとか、新型爆弾で東京が吹き飛んだと言うやつまで現れた。

 

 自分も不安であったが、町内会長の自分が訓練を急に止める訳にもいかず国民学校の校庭に皆と集まった。そして点呼の最中あいつが現れた。



 あの下駄職人だ、反戦思想で特高に引っ張られた非国民が、また性懲りもなく生意気な口を聞くかと怒鳴りつけてやろうとした時、あいつはこっちに話しかけてきた。

 

 「いや、町内会長さん、わしゃー今度のことで心を入れ替えた、許してつかーさい、このとーりじゃ」



 ふんっ、いまごろになって遅いわと言おうとした時おかしなことことに気付いた、こいつ特高でかなり痛めつけられたと聞いていたのにやたらと元気そうだ、それにこいつここまで体がでかいやつだったか?

 そう思って声が出せないでいると、さらに変なことを言い出し始めた。



 「わしは今まで自分の考えが分からない奴は馬鹿じゃと思うとった、戦争に賛成する奴は皆、馬鹿野郎で特にあんたみたいに虎の威を借りる人間は好かんかった」



 この野郎、謝るふりをして喧嘩を売りに来やがった、そう思ってこいつをつまみだすように言い、周りの人間が掴みかかろうとした時それは起こった。



 「でも、今はそんなもん小さいことじゃけん、わしらは家族じゃ、日本人いや帝国臣民は上から下までみーんな家族じゃ、わしゃ、いや 我々は一つの命だ」



 言うや否や、あいつは突然目の前から消え、私の隣にいた在郷軍人があいつに押し倒された、引きはがそうと皆が駆け寄るまもなく、あいつは在郷軍人の首筋に嚙みついた。

 

絶叫があたりに響きわたり、皆が余りのことに呆然とすると、あいつはすぐに軍人の上から掻き消え、駆け寄ろうとした人間の喉元に食らいついた。

 

 周りの一人が持っていた竹やりで突きかかるが竹やりは空を切る、私も皆も恐怖のあまり、校舎へ逃げ込もうとすると、別の方向から叫び声が上がった、見ると先ほど噛みつかれていた軍人が、他の人間を押し倒しその喉元噛みついているではないか、それを見るや私は無我夢中でその場を逃げ出した。



 その後は、もう無茶苦茶だ。町中のいたるところで叫び声がきこえ、銃声まで響きだした。



 逃げる途中あの化け物どもに見つかり今はここで息を潜める事となった。いったい広島はどうなってしまったんだ。いくら戦争中でもこれはないだろう。



 「どこじゃー、町内会長ー、おどれも家族に加えてやるから出てこんかい」



 「そうじゃ、そうじゃ、あんちゃんの言うととおり、諦めんかい」

 

 あいつらが、わたしを探している、身がすくみ、自分が失禁していることに今更気が付いた。



 「あんちゃん、あんまり遊んでもかわいそうじゃし、そろそろ終わらせようや」



 「そうじゃのー、どうせ家族になるんじゃ、自分で自分をいじめる様なもんじゃからの」



 外からそんな声が聞こえた。瞬間、倉庫の壁をぶち破りあいつの手が私の体を掴んだ。あいつの指は国民服を突き破り私の体に食い込んでいく。ああ、なにかが体の中に流れ込んで・・・



 「町内会長、おどれも家族じゃ」



 その声が私という個人がきいた最後の声となった。私が広がっていく、全てが一つになる。私たちは家族だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...