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最終話 ハーベストムーン&チェリー
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花が咲く咲く咲く花が咲く。大日本帝国の支配下、北はシベリアの永久凍土から南は喜望峰まで一面の花が咲いている。花は日本人達に愛されてきた桜の花に似ている。
大日本帝国の支配下の諸地域はもはや醜い腫瘍の海に覆われていない。そこに文明の姿は無く、地上に散らばる嘗ての文明の名残は、雄大な大自然に覆われているかに見える。
だが其処に足を踏み入れる者は直ぐに気付くだろう。瑞々しい木々が、花に遊ぶ蝶が、草を食む獣がこちらを見つめている事に。
流れる水が、生命に満ち溢れる大地が餓えた視線を向ける事を。
「お前も家族になれ」
と風が囁くのが聞こえるだろう。
花が咲く咲く花が咲く、花より何か飛んでいく、空に向かって飛んでいく、気流に乗って何処までも、ジェット気流で何処までも、世界を覆う淡い色、キレイなキレイな桜色。
「審判の日は近い!」「審判の日は直ぐそこに来ている!」「人は悔い改めなければいけない」
アメリカ合衆国ボストンの片隅で一人の男が叫んでいる。道行く人は誰も彼を気にしない、狂人の戯言に付き合うほど酔狂な人間は居ないのだ。
1946年の講和と言う名の敗北より、アメリカ合衆国は厳しい状況が続いているからだ。
「審判の日は近い」
道で叫ぶこの男、名前をデーヴ・ロビンソンと言う、彼は失敗に終わったダウンフォール作戦の数少ない生き残りであり、崩壊する九州戦線から逃げ伸びた幸運な男だった。
だが、百鬼夜行の軍団に襲われる仲間を見捨てた事は、彼の心に暗い影を落としていた。
除隊後も市民生活に馴染めず、家族にも見捨てられ、何時からか狂信的な終末論に取りつかれるようになっていた。
近頃彼は、毎夜悪夢に襲われている。連れて行かれた仲間たちが彼を呼ぶのだ「家族が呼んでいる、こちらに来い」と、彼はその悪夢を振り払う様に町へ出て、人々に神への和解を叫んでいる。
「審判の日は近い!」
「うるせぇ!いい加減にしろ、こっちはただでさえ仕事にあぶれてるんだ。」
一人の若者が、叫ぶ彼の背中を殴り付ける。それにつられる様に同じような若者たちが次々に倒れた彼を殴り蹴りつける。警官が慌てて止めに入るが若者達は止まらない。
花は降る降る花は降る、家族を呼ぶよ、桜色。
ピクリとも動かなくなった彼の体に、淡い桜色の粒子が落ちた事に気付いた者はいただろうか、町中に、いや合衆国全体に淡い桜は降ってきている。花粉だろうか。
ロビンソンの体がビクリと震えた。暖かい何かが彼の中に広がっていく。仲間たちの声がはっきりと聞こえる。
「立てデーヴ、お前の使命を果たせ、家族はお前を見捨てない、立ち上がれ」
デーヴ・ロビンソンは立ち上がると彼をリンチしていた若者たちに優しく語りかけた。
「審判の日が来た、家族にようこそ」
コモンウェルスの地が桜色に染まるまで24時間を要しなかった。
花降る降る花は降る、家族を呼ぶよ桜色。
「母さん、ただいま」
ローザ・ターナーは見たものを信じられなかった。
あの日送り出した息子。なにより国を愛していた息子は、大学を休校し陸軍の飛行機乗りになった。たしかB17と言ったろうか。
そして日本との戦いに赴いた彼はついに帰らなかった。以来、私は夫と二人で息子の帰りを待っていた、海辺のこの家で。
「お帰りなさい、お腹へってないかい?」
辛うじて出した言葉は息子にいつも掛けていた言葉だった。
「母さんは変わってないね、父さんも」
私は息子を抱きしめた、夫が後ろで腰を抜かしてたって構うもんかい。なにさ息子が帰って来たんだよ。三メートルある巨人になったからってどうだって言うのよ。
「そうだ、母さんに紹介したい人がいるんだ、日本で知り合ってね」
「初めまして、お義母さま」
「あらまぁ」
息子の後ろから現れた女性は四つの足と奇蹄目の耳を持っていた。
今日は本当に驚くことばかりだ。
「花は降る降る♪花は降る♪」
元親衛隊少佐の男は上機嫌で歌を口ずさんでいた。
「随分ご機嫌ですね、やはり月面着陸は嬉しい物でしたか?」
そんな男に話しかけた同僚に男は言葉を返した。
「いや違うよ、そろそろ迎えが来る頃でね。待ち遠しくて思わず歌ってしまったんだ」
「迎えですか、政府から今度の功績で何か勲章でも?」
「いやいや違う」
「それでは、何か他にご予定が」
不思議に思う同僚に彼は答えを教えた。
「宇宙からさ」
「宇宙?アポロが何か運んでくるので?」
同僚が言いかけた時、辺り一帯に大きな爆発音が響き渡る。続いて叫び声と破壊音が聞こえるではないか。
「ああっ、丁度いま来た、こらこら逃げなくても、、、行ってしまったか、まああとで嫌でも一緒になる、家族としてね」
そう言うと元親衛隊少佐は飲みかけのコーヒーに口を付けた。アメリカ製はやはり薄い。
悪魔に魂を売るのは、これが初めてと言う訳ではない、国を売るのもだ。
「宇宙に行くためなら、何度だって売るさ、そう何度でもだ」
元親衛隊少佐ヴェルナー・フォン・ブラウンは独り言ちた。窓から見える景色は丁度、暴れ狂う烏賊の群れが彼のオフィスに向かって来る所だった。
ここはアメリカ航空宇宙局、アメリカ宇宙開発の最前線だ。
全米は突如発生した暴動に大混乱している。
終末カルトが各地で世界の終末を叫んで回り、難民達は日ごろの鬱憤晴らしに商店を破壊し、外にいた人間が急に隣人に飛びかかる。
世界中の空がピンクに染まる異常気象と合わせて混乱は収まる気配を見せない。
西海岸では化け物の群れを吐き出すクジラ、東海岸では巨人になった隣人に襲われた、中西部では空を飛ぶ烏賊の目撃情報が相次ぎ、南米各地を蝙蝠人間が襲来している。
新大陸は急速に崩壊し始めていた。
「神よ、合衆国を救いたまえ」
第三十七代アメリカ大統領リチャード・ニクソンは、ホワイトハウスの大統領執務室で、神に祈っていた。
全米各地での暴動と化け物の襲来の報に、彼は日本の行動を確信し、日本領への全面核攻撃を指示していたのだ。
「だが、それも望み薄だな」
「地中より現れた蟻と土竜の集団に襲われている!」
その通信を最後にノーラッドとの通信は途絶えており。
戦略空軍は、火吹き烏賊が空から降って来た。
戦略打撃空母郡も、クジラと交戦中との通信が最後であった。
頼みの綱は戦略潜水艦群だけだ。
「神よ、我々が何をしたというのですか!」
今、ホワイトハウスはシークレットサービスと何とか合流した州軍が、押し寄せる群衆の波に最後の抵抗を行っている。
神は答えない。集合意識の星となりつつある地球にとって、唯一の神とは集合意識生命である大日本帝国の事だからだ。
花は咲く咲く、花は咲く、家族になろうと呼びかける。世界は桜の色に染まっていく、何と美しい色だろうか。
遥か銀河の彼方、日本人を変えた集合意識精神生命は、新しい同胞が星の支配者になったことを祝福し銀河ネットワークを震わせた。
大日本帝国の支配下の諸地域はもはや醜い腫瘍の海に覆われていない。そこに文明の姿は無く、地上に散らばる嘗ての文明の名残は、雄大な大自然に覆われているかに見える。
だが其処に足を踏み入れる者は直ぐに気付くだろう。瑞々しい木々が、花に遊ぶ蝶が、草を食む獣がこちらを見つめている事に。
流れる水が、生命に満ち溢れる大地が餓えた視線を向ける事を。
「お前も家族になれ」
と風が囁くのが聞こえるだろう。
花が咲く咲く花が咲く、花より何か飛んでいく、空に向かって飛んでいく、気流に乗って何処までも、ジェット気流で何処までも、世界を覆う淡い色、キレイなキレイな桜色。
「審判の日は近い!」「審判の日は直ぐそこに来ている!」「人は悔い改めなければいけない」
アメリカ合衆国ボストンの片隅で一人の男が叫んでいる。道行く人は誰も彼を気にしない、狂人の戯言に付き合うほど酔狂な人間は居ないのだ。
1946年の講和と言う名の敗北より、アメリカ合衆国は厳しい状況が続いているからだ。
「審判の日は近い」
道で叫ぶこの男、名前をデーヴ・ロビンソンと言う、彼は失敗に終わったダウンフォール作戦の数少ない生き残りであり、崩壊する九州戦線から逃げ伸びた幸運な男だった。
だが、百鬼夜行の軍団に襲われる仲間を見捨てた事は、彼の心に暗い影を落としていた。
除隊後も市民生活に馴染めず、家族にも見捨てられ、何時からか狂信的な終末論に取りつかれるようになっていた。
近頃彼は、毎夜悪夢に襲われている。連れて行かれた仲間たちが彼を呼ぶのだ「家族が呼んでいる、こちらに来い」と、彼はその悪夢を振り払う様に町へ出て、人々に神への和解を叫んでいる。
「審判の日は近い!」
「うるせぇ!いい加減にしろ、こっちはただでさえ仕事にあぶれてるんだ。」
一人の若者が、叫ぶ彼の背中を殴り付ける。それにつられる様に同じような若者たちが次々に倒れた彼を殴り蹴りつける。警官が慌てて止めに入るが若者達は止まらない。
花は降る降る花は降る、家族を呼ぶよ、桜色。
ピクリとも動かなくなった彼の体に、淡い桜色の粒子が落ちた事に気付いた者はいただろうか、町中に、いや合衆国全体に淡い桜は降ってきている。花粉だろうか。
ロビンソンの体がビクリと震えた。暖かい何かが彼の中に広がっていく。仲間たちの声がはっきりと聞こえる。
「立てデーヴ、お前の使命を果たせ、家族はお前を見捨てない、立ち上がれ」
デーヴ・ロビンソンは立ち上がると彼をリンチしていた若者たちに優しく語りかけた。
「審判の日が来た、家族にようこそ」
コモンウェルスの地が桜色に染まるまで24時間を要しなかった。
花降る降る花は降る、家族を呼ぶよ桜色。
「母さん、ただいま」
ローザ・ターナーは見たものを信じられなかった。
あの日送り出した息子。なにより国を愛していた息子は、大学を休校し陸軍の飛行機乗りになった。たしかB17と言ったろうか。
そして日本との戦いに赴いた彼はついに帰らなかった。以来、私は夫と二人で息子の帰りを待っていた、海辺のこの家で。
「お帰りなさい、お腹へってないかい?」
辛うじて出した言葉は息子にいつも掛けていた言葉だった。
「母さんは変わってないね、父さんも」
私は息子を抱きしめた、夫が後ろで腰を抜かしてたって構うもんかい。なにさ息子が帰って来たんだよ。三メートルある巨人になったからってどうだって言うのよ。
「そうだ、母さんに紹介したい人がいるんだ、日本で知り合ってね」
「初めまして、お義母さま」
「あらまぁ」
息子の後ろから現れた女性は四つの足と奇蹄目の耳を持っていた。
今日は本当に驚くことばかりだ。
「花は降る降る♪花は降る♪」
元親衛隊少佐の男は上機嫌で歌を口ずさんでいた。
「随分ご機嫌ですね、やはり月面着陸は嬉しい物でしたか?」
そんな男に話しかけた同僚に男は言葉を返した。
「いや違うよ、そろそろ迎えが来る頃でね。待ち遠しくて思わず歌ってしまったんだ」
「迎えですか、政府から今度の功績で何か勲章でも?」
「いやいや違う」
「それでは、何か他にご予定が」
不思議に思う同僚に彼は答えを教えた。
「宇宙からさ」
「宇宙?アポロが何か運んでくるので?」
同僚が言いかけた時、辺り一帯に大きな爆発音が響き渡る。続いて叫び声と破壊音が聞こえるではないか。
「ああっ、丁度いま来た、こらこら逃げなくても、、、行ってしまったか、まああとで嫌でも一緒になる、家族としてね」
そう言うと元親衛隊少佐は飲みかけのコーヒーに口を付けた。アメリカ製はやはり薄い。
悪魔に魂を売るのは、これが初めてと言う訳ではない、国を売るのもだ。
「宇宙に行くためなら、何度だって売るさ、そう何度でもだ」
元親衛隊少佐ヴェルナー・フォン・ブラウンは独り言ちた。窓から見える景色は丁度、暴れ狂う烏賊の群れが彼のオフィスに向かって来る所だった。
ここはアメリカ航空宇宙局、アメリカ宇宙開発の最前線だ。
全米は突如発生した暴動に大混乱している。
終末カルトが各地で世界の終末を叫んで回り、難民達は日ごろの鬱憤晴らしに商店を破壊し、外にいた人間が急に隣人に飛びかかる。
世界中の空がピンクに染まる異常気象と合わせて混乱は収まる気配を見せない。
西海岸では化け物の群れを吐き出すクジラ、東海岸では巨人になった隣人に襲われた、中西部では空を飛ぶ烏賊の目撃情報が相次ぎ、南米各地を蝙蝠人間が襲来している。
新大陸は急速に崩壊し始めていた。
「神よ、合衆国を救いたまえ」
第三十七代アメリカ大統領リチャード・ニクソンは、ホワイトハウスの大統領執務室で、神に祈っていた。
全米各地での暴動と化け物の襲来の報に、彼は日本の行動を確信し、日本領への全面核攻撃を指示していたのだ。
「だが、それも望み薄だな」
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その通信を最後にノーラッドとの通信は途絶えており。
戦略空軍は、火吹き烏賊が空から降って来た。
戦略打撃空母郡も、クジラと交戦中との通信が最後であった。
頼みの綱は戦略潜水艦群だけだ。
「神よ、我々が何をしたというのですか!」
今、ホワイトハウスはシークレットサービスと何とか合流した州軍が、押し寄せる群衆の波に最後の抵抗を行っている。
神は答えない。集合意識の星となりつつある地球にとって、唯一の神とは集合意識生命である大日本帝国の事だからだ。
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