飽食戦線

ボンジャー

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真夏のお供

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 タイタニック号の悲劇は世界的有名である。映画、小説、ラジオ番組、アニメに演劇と色々な媒体で繰り返し、演ぜられる、一大悲劇だ。



 タイタニック号と乗り合わせた不幸な人々、寝取られ男に寝取り男、真実の恋で頭が良い感じに舞い上がった女性、酔っ払って生還したパン焼き職人等、彼ら彼女らの、数限りない悲劇の運命は歴史に残る大事件である。



 タイタニック号が沈んだ要因は多くある。



 杜撰な建造計画、前方不注意、予算不足に過密スケジュールと、多くの要因が一遍に火を噴いてかの船は海のモズク、、、藻屑と化した。



 だが最大の要因はぶつかった相手であろう。



 三十メートルを超え、何百万トンの重さを持つ氷山である。



 氷山である。



 氷の塊である。



 固く重くデカい氷の塊。



 氷の塊で出来る事は、アレでも可能ではないだろうか?



 夏のお供、堅くて歯がかけ、甘くて美味しいアレ。



 今、サイパン島攻略部隊を襲っているのはそれだ。









 「左舷注水急げ!」「隔壁閉めろ!」「まだ中に人が!」「機関浸水!電源喪失!」



 



 「罠か・・・・だがなぁ・・・これはなあ・・・・」



 レイモンド・スプルーアンス大将は、驚きを通り越し、呆れをを含んだ声で座乗艦インディアナポリスの艦橋で呟いた。



 自分も含め負傷者多数、艦隊は壊滅、、、、、と言っていいので有れば壊滅の危機に有る。少なくも上陸部隊の輸送船団は酷い有様である。









 1944年6月13日 先日の、ミッチャー提督率いる第58任務部隊による、延べ千機を超える大空襲で日本軍の抵抗は尽き果てたようで、リー中将率いる高速戦艦部隊の艦砲射撃は順調にサイパン島を削り取りつつあった。



 其のはずであった。



 大日本帝国ご自慢の連合艦隊は、石油不足かフィリピン方面での終結に手間取っている様で、少なくとも、あと二週間は纏まった行動をとれないで有ろう事が分かっている。



 「日本海軍が駆けつける前に落ちるサイパンは落ちる」



 米軍諸将は幾分か楽観的な気持ちでこの戦いに挑んでいた。



 勿論、日本軍がサイパンを、まるで放棄する様に黙っている事を訝しむ声はあるし、上陸部隊はこれから始まる地獄の激戦に楽観等はしていない。



 だが、こうして楽々戦艦が射撃位置に陣取り、観測機が自由に飛び回る中、サイパン島を地上から消すが如き攻撃の雨を見ていると、この島の陥落は時間の問題で有ると思えてならない。



 「本当に来ないのか?日本軍は?不気味だ、幾らなんでも不気味過ぎる。サイパンを取られたらどうなるか位分かるだろうに?」



 鉄の豪雨を島に降らせる新鋭戦艦アイオワの艦橋で、リー提督は独り言ちた。



 「日本軍は大陸で攻勢を続けています。先ずはインドを落として後背を安定させる腹なのでは?二正面での攻勢はあの国にはできないでしょう。」



 轟音の中でも耳ざとく聞きつけた副官は答える。



 「だがなぁ、本土を直撃されては意味が、、、、、、な!!!!」



 リー提督が尚も心中で燻る不安を口に出そうとした時それは来た。



 下から突き上げる様な、、、いや突き上げられている!



 何かがアイオワを持ち上げようとしている!



 魚雷?触雷?海の上で地震が?なんだ?何があった。



 艦橋要員がふっとばされ転がる中で、同じく床に叩きつけられてた、リー提督が見たのは高速艦隊の周りにそそり立つ、あずき色の壁であった。



 被害はこれに留まらない後方に待機していた艦隊の周りにも、突如として壁、、、氷山だ、巨大な氷山が表れ襲い掛かる。



 運の悪い艦などは氷山に押し上げられ横倒しになって行く、運が良くても回りは囲まれ超質量の物体にぶつかる!押しつぶされる!サイパン島周辺は突如として南極かグリーンランドと化していく。



 



 サイパン島守備隊司令部



 「これは嫌だねぇホントに嫌だ。私はこんな死に方したくない。でもねぇ戦争だからねぇ」



 「ですねぇ。提督は海軍さんですから、特にそうお思いでしょう」



 タブレットに映る惨劇を見ながら、陸軍サイパン島守備隊司令の斎藤 義次は、名ばかりとなっている中部太平洋方面艦隊司令長官である南雲忠一の何ともやる気のない言葉に答えた。



 あずきバーを舐めながら。



 「これでも人は死ぬんだねぇ、、、、ああ嫌だ、、、でもまぁ勝ったなら良いか」



 陸軍から「水際防御に拘るなら、その陣地は熱い汁粉に沈むぞ。餅になりたくないなら陣地を放棄せよ」と言われた時は。



 「陸軍の奴ら気でも狂ったか?」



 と思ったがこの有様を見れば納得だ。もし敵が上陸すればこいつ等は容赦なく我々事、陣地を汁粉に沈めただろう。



 舐めていたあずきバーをシミジミみながら南雲は思う。



 陸軍から、動かせる船を全て動員して、サイパン島周辺に砂の詰まったカン空を撒く手伝いをしろと言われたがこの為だったのだろう。



 再度、タブレットに目を移せば流氷に、、、、超巨大あずきバーに乗り上げた空母が自重で軋みを上げている。



 「はぁ、嫌だ、嫌だ、米軍さんご愁傷さま、、、、私の気持ちわかってくれたか?これで御仲間だねぇ、、ざまぁ見ろ」



 嫌だ、嫌だと言いながらも、敵空母が沈む?のには喜びを隠せない南雲提督は、暗い喜びをボソリと呟いた。







 二週間後、悠々と来援した小沢艦隊、そして大和、武蔵を含む戦艦部隊にサイパン島攻略部隊は貴重な訓練目標として撃滅された。



 死者23,811人、降伏し鹵獲された艦は、インディアナ、サウスダコタ、ワシントン、他多数。



 甘く少し塩味の効いた流氷の海に米艦隊は壊滅した。
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