飽食戦線

ボンジャー

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悲惨!尊厳凌辱の裏技! 乳と蜜が噴出する地への脱出

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 塩の大地を行く、幾つもの人の群れが見える。



 遥か古代に、彼らと似たような人々が、強大な帝国から逃げた様に。強大な国家から逃げているのだ。



 現代を行くこの人の群れと古代の難民との間には。多くの共通点と大きな相違点がある。



 共通点一 逆らいようのない人知を超えるパゥアーを持つ存在より逃げろと言われた。



 相違点一 少なくとも古代人は己の神から指示を受けたが、この人々を御尋ね者にしたのは邪悪な帝国である。



 共通点二 どちらも元居た土地で盛大にやらかした。



 相違点二 古代の方は首謀者は神なので、逃げ出した古代人は被害者とも言える。悪の帝国は手段だけ渡して自分の手を汚さななかった。



 共通点三 もと居た土地は純然たる被害者である。方や合法奴隷突然のスタンピート、方や背後からの一撃。



 相違点三 古代エジプト第19王朝は奴隷相手に戦争なんかしていない。アメリカ合衆国は絶滅戦争に片足を突っ込んだ戦争中。



 最大の共通点 逆らいようは人の身に出来ようもない。逆らえば自分はおろか家族も死ぬ。



 最大の相違点 前者は神が相手なので諦めようもあるが、後者は恨んでも恨み切れない程憎たらしい帝国である。



 酷い話だ。一つ幸いな話があるとすれば、天なる御方は禁止事項を書いた石板しか渡さなかった上に、荒野を彷徨わせたが、邪悪で、悪辣で、冷酷で、行きあたりバッタリな大日本帝国は、食い物の湧き出るタブレット(石板)を押し付けている。



 マッチポンプも甚だしいが、そのお陰で塩の大地を行くテロリスト達は飢え死にはしない。





 「死んだ方がましだ」



 生粋のボストンっ子であるモーティマー氏は冷えたコーラを飲みながら呟いた。



 そうだ死んだ方が良い。国家の裏切り者である自分は死ぬべきなのだ。



 自分一人だったらばの話であるが。



 三児を抱える自分にはその自由は無い。上から七歳、五歳、三歳の三姉妹を残して死ぬ自由は、自分と妻には無い。



 そんな人間を狙って、あの悪魔の帝国は誘惑を掛けてきたのだ。



 業務上の事故で、輪転機に右腕を持って行かれた自分は、御国の求めにも応じられず肩身の狭い生活を送っていた。



 少し前なら、妻と二人勤勉に働き、少ない給料から戦時国債を買う事をアピールする事で何とかなっていたが、この一年で状況は大きく変わってしまった。



 遂に市街地にまで落ちて来る様になった迷惑な贈り物のせいで、男は軒並み駆り出されている。



 殺気立った人々、少なくなって行く配給、腹が空いたと泣く我が子。



 肩腕の無い自分は満足な復興作業も出来ず、肩身はドンドン狭くなる、苦労の掛け通しの妻も寝込みがちとなった。



 「そこにあの誘惑だ」



 





 「初めましてご主人。ずっと見てましたよ。おや可哀そうに、お子さん随分と痩せられましたねぇ」



 俺だって恥くらい持っている。一度は誘惑を跳ねのけて、テメェを通報してやると言ったさ。



 だがそんな強がりも一度限りだ。



 やっと有りつけた仕事場が押しつぶされて、一家揃って飢え死にする事態に追い込まれれば誰だって悪魔と取引する。



 「はいはい、分かってますよ。お恥ずかしがらずに、みーんなやってる事ですよ。さあ貴方もこれからは御上の赤子です。登録は簡単!チョット指紋と顔を取らせて頂くだけ!」



 何が簡単なモノか!逆らったら殺されるに決まっている。



 しかし、あの時はそうするしかなかった。栄養不良で寝込んでいた妻も起き上がれる様になった。



 だが後が行けない。七歳になる長女が口を滑らせたのだ。



 「今日はねぇ。クランベリーソースを掛けた鳥さんを食べたの!」



 隣の婆さんにだ。あの婆!密告しやがった!



 ただでさえ家の子供が一人も破裂してないのを怪しんでいた連中は、直ぐに家のアパートを囲みやがった!



 どうしろと言うんだ!俺たちの飢え死にしろと?俺一人ならやってやるさ!だが妻と子供をそんな目に合わせてたまる物か!



 ぶち破られ様としている安アパートの扉を抑えつけながら、俺は神を呪った。



 そして魂を売ったのだテンノーに。



 「おやまぁ!大変だこと!どうです?助けて欲しいですか?それとも誇りある市民として火刑にされます?」



 あのニヤニヤ眼鏡!ジャップ!ニップ!出っ歯野郎!何が臣民リクルート係だ!憲兵曹長だとか名乗ったが、テメェは二等兵も務まるか!



 「良いから助けろ!どうにか出来るんだろ!言ってやるさ!テンノーへ―カバンザイ!ダイニホンテーコクバンザイ!早くどうにかしろ!」



 「はい合格!ですが声が小さいですね、もっと大きく!家族皆さんご一緒に!」



 屈辱だ!ふざけんな!俺は、、家族は、、、ご先祖さまの代からアメリカ市民なんだ!俺の爺さんはアンティータムで死に、親父はベロー・ウッドで死んだんだ!



 「「テンノーへ―カバンザイ!」」



 妻の声、訳も分からず真似をする子供たちの声が後ろからした。俺だけでなく家族も悪魔に魂を売ったのだ。



 「大変結構!ではポチっとな」



 効果は抜群だったよ。魔女狩り連中、、ここはボストンでセイラムじゃねぇ、、はみーんな口から噴水を吹き出して倒れた。



 「後はご自分でどうぞ。ここね、地図に光点が見えるでしょ?そこを丸書いてチョンと触れるだけです。では帝国臣民よ!健闘を祈ります、、、逃げるなら西にお逃げなさいね?東海岸はドイツが上陸予定ですから、貴方たちユダヤ系でしょ?」



 出っ歯眼鏡はそう言って消えた。後は酷いもんだ。



 俺とカミさんは子供抱え、奪った車でカーチェイス。



 追っかけて来た奴らを全部噴水に変えながらだ。



 道すがらも最低だった。ガソリンが切れれば、そこいらの車を奪いながら逃げるんだからな。



 良く死なかったもんだ。まあ、抵抗するなら噴水に変えたし、最後、、この塩の大地に辿り着く頃には、問答無用で人様の家を襲って車を奪うのも慣れたが。



 此処に辿り着いた頃には仲間も増えた。



 黒人、ユダヤ人、チャイニーズ、日系人、インディアンにルンペンまで。



 肌の色なんか気にしていられるか!全員国家の裏切り者で、お尋ね者なんだ!



 どいつもこいつも我が身可愛さに、、勿論家族可愛さもある、、盛大に暴れて西を目指している。



 



 

 「だが逃げ出した先は本当に乳と蜜が流れているのか?」



 飲み終わったコーラの瓶を投げ捨てたモーティマー氏は、先の不安を口出した。



 「モーセもこんな気持ちだったのか?不安で心細くて?」



 そして遥か古代のご先祖様を思う。そして彼に率いられた民族が辿り着いた地で行った行為にも。



 「奪うしかないのか?同じ国民を裏切って?」



 



 そうだ。そうだよモーティマー!



 君は帝国に魂を売ったのだ!君も君の家族も既に大日本帝国の物だ!



 逆らうなら乳と蜜をたっぷりとご馳走してやれば良い!



 君の目指すのは約束のカナーンだ!



 それは君の、君の属する邪悪で、帝国主義的で、前時代的で、しかも己の制度にのた打ち回る現代のバビロン帝國が求める土地だ!



 有望なる臣民よ!帝国の先駆けとなり奪うのだ!君達にはそれが出来る!



 モーティマー氏は、己の内で悪魔が囁くのが聞こえた様な気がした。喧しい声だ、誘惑と言うより要求に近い。



 

 「そうだよな。死ぬことも出来ないなら、いっそ、、、」



 見渡せば、疲れ果ててはいるが、栄養状態は完璧な家族が、仲間が見える。



 その全てが覚悟をしている。



 崩れ行き、自業自得とは言え、自分たちの死を願う祖国に付く位なら、バビロニアの二級市民の方がましだと。



 
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