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『モテない男』
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デパートの仕立てスーツ&ワイシャツ売場に、花束と洋菓子を手にした見慣れない熟年男性が現れた。
男は華やかな生地が並ぶ棚をキョロキョロしたあと、
安い価格の紺色スーツ用と白色ワイシャツ用の生地を指さし
「これで、格好いい形のスーツとシャツを仕立てて欲しい」と言う。
「お好みに沿いますが、ご年齢と少し離れた印象のスーツになってはしまいますが、、」
仕立て慣れていないと気づきながらも一応の助言をする。
「いや、そういうのを着たいんで」と、かまわない様子。
「もっと、ウエストを細くして」採寸で男の体はキツいと訴えていたが、そう言う。
「ありがとう、出来上がりを楽しみにしてるよ」。
店員は男を見送ったあと、ささやき合う。
「あの花束を持った男は、Y体型を指定しさらに細くしてと言うけど無理だよなー。
格好いい細くって、若づくり計画だよねぇ。
熟年の男は、急に女性にモテたくなったり、惚れたのができるとあぁなる。
花束と派手な洋菓子もって、きっと熱心に通っている夜の店があるのさ」
仕上り日、男は仕上がった紺スーツとシャツを着る。手には新しい花束と洋菓子袋。
少しでも動くとシャツのボタンがはじけてしまい、
下腹部の肌着が見えてしまう状態のまま頬を紅潮させ店を出る。
夜のネオンまぶしい艶めかしい街。
男は通りをどこまでもずんずんと歩いていく。
突然、ある交差点脇で立ち止まった。傍らに花束と洋菓子をそっと置く。
「碧(あお)、、」
じつは、男には碧という名前の一人息子がいた。
妻を病気で亡くし、苦労しながらも男手一つで碧を育てあげた。
碧は名のとおり持ち物は青系色を好み、勉強や部活に励む優しい素直な性格であった。
新卒での入社式の夜、ささやかなお祝いを天ぷら店で父子でやろうと待ち合わせをしていた交差点で不慮の交通事故に会い早逝した。
「ごめんよ、待ち合わせの約束をこの交差点でしたばっかりに、父さんのせいだ、、」
とめどなく涙がながれ、むせてしまう。
「父さんは、生きてる意味がもう持てないんだよ。
せめて、新人用みたいなスーツを着て今もお前が頑張っているみたいにさせておくれ。
スーツ着たとき本当に嬉しかった、お前が生きているみたいだ。
しばらくだけ、こうさせて欲しい」
父は目をとじ軽い一礼をしたあと、やがて静かに駅の方向へ消えていった。
男は華やかな生地が並ぶ棚をキョロキョロしたあと、
安い価格の紺色スーツ用と白色ワイシャツ用の生地を指さし
「これで、格好いい形のスーツとシャツを仕立てて欲しい」と言う。
「お好みに沿いますが、ご年齢と少し離れた印象のスーツになってはしまいますが、、」
仕立て慣れていないと気づきながらも一応の助言をする。
「いや、そういうのを着たいんで」と、かまわない様子。
「もっと、ウエストを細くして」採寸で男の体はキツいと訴えていたが、そう言う。
「ありがとう、出来上がりを楽しみにしてるよ」。
店員は男を見送ったあと、ささやき合う。
「あの花束を持った男は、Y体型を指定しさらに細くしてと言うけど無理だよなー。
格好いい細くって、若づくり計画だよねぇ。
熟年の男は、急に女性にモテたくなったり、惚れたのができるとあぁなる。
花束と派手な洋菓子もって、きっと熱心に通っている夜の店があるのさ」
仕上り日、男は仕上がった紺スーツとシャツを着る。手には新しい花束と洋菓子袋。
少しでも動くとシャツのボタンがはじけてしまい、
下腹部の肌着が見えてしまう状態のまま頬を紅潮させ店を出る。
夜のネオンまぶしい艶めかしい街。
男は通りをどこまでもずんずんと歩いていく。
突然、ある交差点脇で立ち止まった。傍らに花束と洋菓子をそっと置く。
「碧(あお)、、」
じつは、男には碧という名前の一人息子がいた。
妻を病気で亡くし、苦労しながらも男手一つで碧を育てあげた。
碧は名のとおり持ち物は青系色を好み、勉強や部活に励む優しい素直な性格であった。
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「ごめんよ、待ち合わせの約束をこの交差点でしたばっかりに、父さんのせいだ、、」
とめどなく涙がながれ、むせてしまう。
「父さんは、生きてる意味がもう持てないんだよ。
せめて、新人用みたいなスーツを着て今もお前が頑張っているみたいにさせておくれ。
スーツ着たとき本当に嬉しかった、お前が生きているみたいだ。
しばらくだけ、こうさせて欲しい」
父は目をとじ軽い一礼をしたあと、やがて静かに駅の方向へ消えていった。
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