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Chapter1 サイバネティック・オーガニズム

Chapter1-3 腐った組織を浄化せよ!

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 リンク長官であるミナ・レインデルス直々のスカウトに対し、目の前の男がとったリアクションはミナの期待を裏切るものであった。

「なあおい、またその話かい?」

 ポスターは眉を顰めて言った。

「悪いけど、それについては何度も断ったはずだろ」

「なによ、悪いと思うなら戻ってきなさいよ」

「そうもいかないよ。
 僕はもうリンクには戻らないと決めたんだ」

「……」

 取り付く島もないポスターの様子にミナは不服そうに腕を組み口をしかめる。
 それからややあって、彼女はまた口を開いた。

「ねえポスター。
 真面目なハナシ、この世界が問題だらけだってことわかってるでしょう?
 ごく限られた範囲の都市は武装を尽くした車両で結ばれているけれど、それ以外の街は分断された状態。
 城壁を一歩踏み出せば、そこは訓練を積んだ人間しか踏破できない山脈と、グールのうろつく危険地帯!
 開拓は一朝一夕に進むものではないし、物理的に隔たりのあるコロニーを誰かが繋いでおかないといけないのよ」

「そんなこと僕だってわかってる。
 リンクという組織が担う役割の重要さも、君たちが必死にそれに取り組んでくれていることもね……その点については君と議論する気もないよ」

「そのリンクが常に人手不足なのも知っているわよね?
 使える人材を野に放っておくなんてことはできないの。
 特にそれが、猫の手なんてものじゃなきゃなおさらね」

「……ごろごろごろ」

 ポスターは手先を丸めて”こまねき”し、茶化すような仕草をとった。
 ミナはその様子をじとっとした視線で流し、溜息をついた。

「……あなたがリンクという組織に対して不信感を持っているのも知っている。
 当時の状況を私が把握しきれず、あなたをあそこまで失望させてしまったのも、申し訳なく思ってるわ」

 ミナは組んでいた腕を解いて、身を屈めるようにして言う。

「あなたは孤立してしまった人々を繋ぐために、精一杯のことをしてくれていた。
 けれど、リンクの幹部メンバーの中には、そんなあなたを利用する者がいて。
 街同士が断絶された状況で、恣意的な優先で物資を届けることができたなら、それはとんでもない価値を生む──あなたはそんな小狡いシステムに知らない内に組み込まれてしまっていた」

 ポスターは淡々と語るミナの様子を黙って見つめ、しばらくしてから茶化すように上げていた腕を下ろした。
 嫌な思い出を強引に流すように、彼はグラスの飲み物を一息に飲み干した。

「僕がお偉方の嗜好品を運ぶ陰で、いったいどれだけの街が物資の搬入を後回しにされたんだ?
 ああ、まったく、やりきれない。
 薄汚いサイアクな連中さ。
 そして、それに気づかなかった僕は宇宙一の愚か者だ」

「いいえ! 決してあなたの責任じゃない」

 悔やむようなポスターの言葉を、ミナは否定して言った。
 それからしばらくの間二人の間に言葉は無く、無言の時間が流れた。

「……あなたを落胆させてリンクを見限らせてしまったこと、を悔やまない日は無かった。本当にね。
 だから私は、私の全力でリンクを徹底的に”浄化”したわ。
 知ってる? 今じゃあ私と廊下ですれ違う人間が取る行動はたったの2種類。
 緊張して強張った顔で挨拶をするか、何かを誤魔化す笑顔で挨拶をするかよ」

 ミナはそう言って自嘲気味に笑った。
 余程の恐怖政治を敷いているのだろうか、とポスターはリンク本部の様子をぼんやりと想像した。

「君は、本当は世話焼きというか、皆と仲良くしたがるタイプの人間なのになあ」

「そう!そうなの!
 さすが幼馴染、よくわかってるじゃない。
 あああ、目的までの最短ルートを考えて行動した結果こうなるのはわかっていたけどね?
 やっぱり何も後ろ暗いところのない子たちにまで緊張を強いるのはこう、精神的にクるものがね……?」

「慰めてやろうか?
 ──君の周りの人間は、たいたいこれまでもそんな感じだったよ」

「ぐっ、トドメを刺された気分だわ……」

 ミナはがっくりと肩を落とし、額をテーブルに打ち付けた。
 その様子にポスターは苦笑する。

「組織浄化のために行ったことが、必ずしも君の評価を左右しているわけじゃないってことさ。
 大方、初対面のプレッシャーや風聞で君という人間にアタリをつけているだけだろう。
 時間が経てば慣れる──僕みたいにね。
 まあそういうものさ」

 ポスターがそう言うと、ミナはテーブルから顔をあげ、縋るような表情をした。

「ありがとう…! ポスター。
 それじゃあリンクに戻ってきてくれるのね?」

「あ、それはフツーに無理」

「ええええ!? なんでよー!?」

 先ほどまで慈愛の気すら向けていたポスターの表情は一変冷めきったものであった。
 まったく雪解けを感じさせない返事にミナは思わず声をあげるしかなかった。
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