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序
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例えば、世界的に有名で、書いた論文や研究が全て大絶賛されている科学者がいたとしよう。その人は宇宙について調べていて、今度はなんとダークマターの正体を突き止めてしまった。
でも、それがどこから始まっているのかまでは分からない。
例が極端過ぎた。今俺が持っている物、シャーペンならどうだろう。シャーペンも会社によって違うから、シャー芯だ。シャー芯の主原料は黒鉛。黒鉛は炭素原子が共有結合で六角形網面構造を作り、ファンデルワールス力で層状に積み重なっている構造をしている。とにかく、シャー芯は黒鉛、黒鉛は炭素だということは誰もが知っている常識だ。
では、その先は?
炭素原子にはまず原子核中に陽子と中性子が六つずつ、その周りに電子が六つ、これが基本だろう。陽子と中性子はクォークという素粒子からなる。電子はそれ自体が素粒子だ。その先は……?
この問答に終わりはあるのだろうか。俺はたまに思う。終わりがあるからこそ、俺達は始まったのだろうが、なんだか知ってはいけないような気がしてくるのだ。人はそこにある結果をいじくりまわしている方がお似合いだと。そんな無駄なことばかりしていないで、もっと世のため人のためになることをするべきだと。たかが一高校生が言ったところで、誰も耳は貸さないだろうが、最近は特にそう思っていた。
心もだ。
なんの冗談か、人の発達してしまったものの一つであるそれは、見たり触ったりできないくせに嫌な時ほどその存在をよく感じる。ーー別に、俺は機嫌が悪いわけじゃない。それどころか、超ハッピーだ。ただ、こうして考えていると色々思うところがあるだけなんだ。それで、その心だが、それも起源の分からないものの一つになる。でも、それが解明されてしまったら、俺達はすぐに相手の事が分かるようになるだろう。同時に、俺達は心の内を全てさらけ出すことになる。どうだろうか?ちなみに俺は無理だ。理解者はいてもたった数人、それも特に親しい間柄の人間だけがいい。いや、それさえも許せないかもしれない。
魔追くんはその例外の一人だ。
親の仕事の都合で世界中を引っ越し回っていた俺は、珍しく長居した日本で初めてと言ってもいいかもしれない親友を手に入れた。まるで最初から決まっていたかのように、俺と魔追くんはぴたっとはまって、すぐに仲良しになった。
そして、あっという間に俺の世界は変わっていった。
インドの神々への讃歌集『リグ・ヴェーダ』にこんな言葉がある。
ーーいつから被造物は存在するのだろう。これらは創造されたものなのか、ひとりでできたものなのか。天の高みからこれを見下ろす者だけが知っているーーいや、彼でさえも知らないのだろうか。
知らないままでいいと思う。結果だってまだまだ知らないことだらけなのだ。俺がすべきことはまずそれらを吸収し、今度は俺が世界を変えていくことだ。そして、願え。強く強く、誰よりも願えば、それだけのイマジネーションが俺に味方してくれる。
さて、鬼が出るか仏が出るか。鬼は本当にいそうだからいやだな。れい子さんみたいに優しくて、面白くて、素敵な人ならいいけど。それでも、進んでいこう。いつか魔追くんと同じ景色を見るために。
魔追くんも同じこと思ってたりして。
「…………」
シャーペンを置くと、俺は窓の外を見た。快晴。真っ青だ。
途端にあの赤が恋しくなった。
でも、それがどこから始まっているのかまでは分からない。
例が極端過ぎた。今俺が持っている物、シャーペンならどうだろう。シャーペンも会社によって違うから、シャー芯だ。シャー芯の主原料は黒鉛。黒鉛は炭素原子が共有結合で六角形網面構造を作り、ファンデルワールス力で層状に積み重なっている構造をしている。とにかく、シャー芯は黒鉛、黒鉛は炭素だということは誰もが知っている常識だ。
では、その先は?
炭素原子にはまず原子核中に陽子と中性子が六つずつ、その周りに電子が六つ、これが基本だろう。陽子と中性子はクォークという素粒子からなる。電子はそれ自体が素粒子だ。その先は……?
この問答に終わりはあるのだろうか。俺はたまに思う。終わりがあるからこそ、俺達は始まったのだろうが、なんだか知ってはいけないような気がしてくるのだ。人はそこにある結果をいじくりまわしている方がお似合いだと。そんな無駄なことばかりしていないで、もっと世のため人のためになることをするべきだと。たかが一高校生が言ったところで、誰も耳は貸さないだろうが、最近は特にそう思っていた。
心もだ。
なんの冗談か、人の発達してしまったものの一つであるそれは、見たり触ったりできないくせに嫌な時ほどその存在をよく感じる。ーー別に、俺は機嫌が悪いわけじゃない。それどころか、超ハッピーだ。ただ、こうして考えていると色々思うところがあるだけなんだ。それで、その心だが、それも起源の分からないものの一つになる。でも、それが解明されてしまったら、俺達はすぐに相手の事が分かるようになるだろう。同時に、俺達は心の内を全てさらけ出すことになる。どうだろうか?ちなみに俺は無理だ。理解者はいてもたった数人、それも特に親しい間柄の人間だけがいい。いや、それさえも許せないかもしれない。
魔追くんはその例外の一人だ。
親の仕事の都合で世界中を引っ越し回っていた俺は、珍しく長居した日本で初めてと言ってもいいかもしれない親友を手に入れた。まるで最初から決まっていたかのように、俺と魔追くんはぴたっとはまって、すぐに仲良しになった。
そして、あっという間に俺の世界は変わっていった。
インドの神々への讃歌集『リグ・ヴェーダ』にこんな言葉がある。
ーーいつから被造物は存在するのだろう。これらは創造されたものなのか、ひとりでできたものなのか。天の高みからこれを見下ろす者だけが知っているーーいや、彼でさえも知らないのだろうか。
知らないままでいいと思う。結果だってまだまだ知らないことだらけなのだ。俺がすべきことはまずそれらを吸収し、今度は俺が世界を変えていくことだ。そして、願え。強く強く、誰よりも願えば、それだけのイマジネーションが俺に味方してくれる。
さて、鬼が出るか仏が出るか。鬼は本当にいそうだからいやだな。れい子さんみたいに優しくて、面白くて、素敵な人ならいいけど。それでも、進んでいこう。いつか魔追くんと同じ景色を見るために。
魔追くんも同じこと思ってたりして。
「…………」
シャーペンを置くと、俺は窓の外を見た。快晴。真っ青だ。
途端にあの赤が恋しくなった。
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