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第二章 葬送
第六節 duel
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異例の闘争が、行なわれようとしていた。
平和の都と言っても敵がおり、攻め入られる危険があるとすれば、自然と故郷を守る為の戦士たちが生まれ、彼らを育成するシステムが作り上げられる。
その為の場所も建設される事になり、中央神殿のすぐ横、少しばかり背の低い神殿の中に、訓練場が造られていた。
面積で言えば、会合の間よりもずっと広く、天井も高い。複数人の戦士が訓練を積む場所であるから当然だ。天井は一部を取り外す事が出来、そこから太陽の光と風が入り込んで来る。
訓練場の中央には、オウマとマモラが向かい合っていた。その二人を、長老ワカフ、二人の司祭、残る二人の戦士長、そしてアーヴァンやシュメらを含めた厳選された戦士たちが、見守っている。
「申し訳ありません、あのような弟で……」
シュメはワカフや、司祭たち、ドゥギャ、ガムラなどに頭を下げて回っていた。
ガムラはシュメの謝罪を受けて、いや、と首を横に振った。
「若しかすると、オウマの言っている事は、間違いではないのかもしれない。我々もただ、周辺部族に好き勝手やられているままでは、いられないのかもしれないと、私も考えていた所だった」
父の考えを、アーヴァンは初めて知った。自分に輪を掛けて寡黙な父が、周辺部族によって危険に晒されている自分たちの砦がどのように変わってゆくか、それについて考えている事に少しく驚いた。仮にこうした変革を言い出したのがオウマではなく、自分や死んだトゥケィであれば、ガムラはもっと早くワカフに話を通そうとしたかもしれないと思った。
「莫迦な子供だ……」
マモラは、ヴォルギーンを肩に担ぐようにしているオウマを見下ろして、言った。
マモラはすらりとした手足の長い男で、両手と両足に木を削って作った薄い鎧を括り付けている。胴体には、丈夫な植物を何層にも編み込んだ防具があった。腰からは二本の棍棒を吊り下げている。
「お前のような浅はかな子供の意見を、通す訳にはいかないのだ」
マモラは一対の棍棒を引き抜くと、両手で構えた。利き手の左手を手前に引き、右手に握った棍棒を前に突き出している。マモラお得意の戦法だった。
「古いんだよな、てめぇらは……」
オウマは呆れたように言った。
「伝統、平穏、生活、文化……そんなもの、他所の連中には何の価値もないって事が分からないのか。俺たちがディバーダ族の殺戮を許容しないように、奴らだって俺たちが掲げている平和にはどんな価値も見出してはいない事だろうぜ。俺たちが和平の使者を名乗って武器を捨てても、奴らはこれ幸いと攻め込んで来るだけだ。そうして滅ぼされるのが嫌なら、戦うっきゃねぇだろうが!」
オウマはヴォルギーンの切っ先を前に突き出して構えた。
アーヴァンはオウマの穂先に、いつも以上の強い気迫を感じている。どうやら彼は本当に、心底、ヴァーマ・ドゥエルの事を思って、敢えて強い言葉で長老たちを挑発しているようだった。
オウマの気迫が、一同に響いていた。ざわざわとさざめきが起こり、マモラとオウマ、どちらの考えが正しいのか吟味し合っている。
ぴりぴりとした二人の間を取り持つようにして、ドゥギャが歩み出た。
ドゥギャは二人の事をそれぞれ見回すと、
「オウマ、長老は、君がこの決闘で勝利を収めた暁には、君を我ら三大戦士長の一人として迎え入れる事を決めている。マモラ、その時は君は、戦士長の座から外れて貰う……」
「分かっている」
ドゥギャの言葉に、マモラが頷いた。
ここでオウマ如きに敗けるようならば、戦士長としての資格はない。
「決闘とは言っても、マモラもオウマも、我々の貴重な戦力だ。決して殺し合う事なく決着を付け給え」
ドゥギャは短く告げると、長老ワカフの傍に戻ってゆく。
オウマとマモラはきっと睨み合い、互いに闘気を迸らせた。二人の間合いに別の人間が入った瞬間、稲妻に撃たれてしまいそうなくらいの、強い意志のぶつかり合いだった。
その闘気の磁場に押されて、さっきまでざわついていた一同が押し黙った。
シュメはその体躯に見合わぬ乙女の祈りの姿勢で、弟のこれからを思った。彼が勝利すれば、ヴァーマ・ドゥエルは他の部族と同じ戦闘民族に成り代わってしまうかもしれない。だが、三大戦士の一人であるマモラと戦って敗ければ、無事では済まないような心配もある。
アーヴァンは、オウマの闘気がみるみる冷えてゆくのを感じていた。ヒートアップしていた彼の頭の中が、冷静になっているのだ。冷静なオウマの冷酷な戦いを、アーヴァンは何度となく目撃している。例え三大戦士のマモラと言っても、苦戦は必至だろう。
どちらともなく、二人は前に足を踏み出した。
間合いで言えば、オウマの方が長い。槍と石突の連携をオウマはものにしていた。ヴォルギーンは当然、そのリーチを生かした棍棒として使う事も可能だ。
しかし手数の多さや技の発動は、マモラの方が速い筈だ。マモラの武器は一対の棍棒、片方を防御に使い、もう片方で打つのが基本戦術だ。しかも、剣と盾を装備するのではなく、どちらの棍棒も剣と盾の役割を兼任する。二本の棒の持つシンプルながらも変幻自在さは、ヴォルギーンにも劣る所ではない。
二人はお互いの間合いに入らないまま、立ち止まり、睨み合った。闘気をぶつけ合って牽制し、相手がミスをするのを誘っている。下手に踏み込めば、容易に逆襲を許す。
「……ぃぃぃぃぃぃ……」
先に痺れを切らしたのは、オウマだった――ように見えた。
唇から小さな呻き声のような音を鳴らしたかと思うと、かっと眼を見開いて、全身にたわめた力を一挙に解放するべく、大声を上げながら飛び掛かった。
「きぃぃぃぃええええ――ッ!」
オウマのいつもの戦法だ。怪鳥音を発して相手を威嚇し、怯んだ隙にヴォルギーンを叩き込む。
だが、マモラは嘘でも戦士長。そんなコケ脅しではどうようなどしようもない。
ヴォルギーンを頭上に掲げたオウマの懐に飛び込んで、右の棍棒を打ち付けようとした。
腹に向かって突き進む棍棒を、オウマは石突きで打ち落とした。
マモラは左から後ろに半回転して、裏拳の要領で左手の棍棒を横薙ぎに振るう。
オウマがヴォルギーンを身体の横にひたりとくっつけながら、全身を急降下させた。そして間髪入れず、撓めた膝を解き放つ力で、ヴォルギーンの穂先を相手の喉元目掛けて突き出した。
マモラが頸を右に傾けて、槍をやり過ごす。頬肉をぶっつりと割いた槍に対して、マモラは逃れずに寧ろ接近した。ヴォルギーンを抱え込んでしまえば、オウマはもう攻撃出来ない。
しかしマモラは、近付いたオウマの顔を見て焦りを覚えた。オウマは不敵に笑みを浮かべている。
オウマが右手を手前に引く。手に握っていたのは、長柄に巻き付いていた蔓だ。すると穂先を取り付けた部分が手前に折れて、死神の鎌のように曲がって、マモラのうなじを捉えようとした。
「くっ」
マモラが頭を下げる。そのまま地面を蹴って、後ろに飛んだ。
オウマは横に回転しながら接近し、石突をぶち込もうとした。
マモラは棍棒を交差させて、ヴォルギーンを受け止める。そのまま腰を左側にひねって、オウマのバランスを崩させようとした。
オウマはしかし、ヴォルギーンを引かれる勢いを利用して跳ね、走高跳――の文化はヴァーマ・ドゥエルにはないが――のように身体を天井に向け、振り出した脛でマモラの側頭部を蹴り付けた。
へ――と、唇に笑みを浮かべたオウマだったが、蹴りの威力が足りなかったのか、マモラはすぐに反撃に出た。棍棒を握ったままの拳で、中空のオウマを殴打すると、もう片方の手で彼の服を掴み、床に投げ落とした。
オウマはヴォルギーンを手から取りこぼし、二、三回床の上を跳ねて、転がった。
「オウマ!」
シュメが声を上げるが、それより早くオウマは立ち上がっている。
ヴォルギーンは手放したが、オウマは構わずにマモラに立ち向かった。
オウマの眼は血走って、唇は耳まで吊り上がったように見え、それは大層、悪魔的な表情に感じられた。
マモラはオウマが拳を振り上げた瞬間、言いようのない殺気に恐怖を覚え、右の棍棒で彼の胴体を強く突くと共に、左の棍棒で頭を斜めから打ち下ろした。
オウマのこめかみから少し上の皮膚が、べろりと捲れ返って血が飛んだ。オウマは痛みを堪えて、マモラの腹部に向けて下から拳を突き上げようとする。
拳が炸裂する前に、マモラは蹴りを使ってオウマを押し飛ばした。
オウマは床を転がると、何度も咳き込んだ。
「決着は付いたな……」
薄っすらと汗を掻いたマモラが、静かに言った。ドゥギャの方へ眼をやると、彼も頷いている。
しかし、床に倒れ込んで痛みにもがいていたオウマが、咳ではなく笑い声を上げているのに一同は気付いた。アーヴァンがオウマに歩み寄って、手を差し出して立ち上がらせた。
「何がおかしい?」
ドゥギャが訊いた。
「戦士長マモラ……あんたの敗けだぜ」
不敵に笑って、オウマは宣言した。
すると、訓練場に、息を切らした男が駆け込んで来た。櫓で見張りをやっている男だった。
「こちらにおられましたか――大変です、ドドラグラ族が襲って来ました!」
グェルヴァ――
大きく陥没した地面には、底が見えないよう、大量の骸が重ねられている。
ルマ・カーラ・ウシュは一人、その場で戦士たちの死後の世界での安寧を祈っていた。
頬から伝う涙は、地面に落ち、窪みを滑って、死骸へ向かって染み込んでゆく。
骸の山が小さく動いたのに、カーラは気付かなかった。襲撃を知らせる角笛が鳴り響いたのだ。
平和の都と言っても敵がおり、攻め入られる危険があるとすれば、自然と故郷を守る為の戦士たちが生まれ、彼らを育成するシステムが作り上げられる。
その為の場所も建設される事になり、中央神殿のすぐ横、少しばかり背の低い神殿の中に、訓練場が造られていた。
面積で言えば、会合の間よりもずっと広く、天井も高い。複数人の戦士が訓練を積む場所であるから当然だ。天井は一部を取り外す事が出来、そこから太陽の光と風が入り込んで来る。
訓練場の中央には、オウマとマモラが向かい合っていた。その二人を、長老ワカフ、二人の司祭、残る二人の戦士長、そしてアーヴァンやシュメらを含めた厳選された戦士たちが、見守っている。
「申し訳ありません、あのような弟で……」
シュメはワカフや、司祭たち、ドゥギャ、ガムラなどに頭を下げて回っていた。
ガムラはシュメの謝罪を受けて、いや、と首を横に振った。
「若しかすると、オウマの言っている事は、間違いではないのかもしれない。我々もただ、周辺部族に好き勝手やられているままでは、いられないのかもしれないと、私も考えていた所だった」
父の考えを、アーヴァンは初めて知った。自分に輪を掛けて寡黙な父が、周辺部族によって危険に晒されている自分たちの砦がどのように変わってゆくか、それについて考えている事に少しく驚いた。仮にこうした変革を言い出したのがオウマではなく、自分や死んだトゥケィであれば、ガムラはもっと早くワカフに話を通そうとしたかもしれないと思った。
「莫迦な子供だ……」
マモラは、ヴォルギーンを肩に担ぐようにしているオウマを見下ろして、言った。
マモラはすらりとした手足の長い男で、両手と両足に木を削って作った薄い鎧を括り付けている。胴体には、丈夫な植物を何層にも編み込んだ防具があった。腰からは二本の棍棒を吊り下げている。
「お前のような浅はかな子供の意見を、通す訳にはいかないのだ」
マモラは一対の棍棒を引き抜くと、両手で構えた。利き手の左手を手前に引き、右手に握った棍棒を前に突き出している。マモラお得意の戦法だった。
「古いんだよな、てめぇらは……」
オウマは呆れたように言った。
「伝統、平穏、生活、文化……そんなもの、他所の連中には何の価値もないって事が分からないのか。俺たちがディバーダ族の殺戮を許容しないように、奴らだって俺たちが掲げている平和にはどんな価値も見出してはいない事だろうぜ。俺たちが和平の使者を名乗って武器を捨てても、奴らはこれ幸いと攻め込んで来るだけだ。そうして滅ぼされるのが嫌なら、戦うっきゃねぇだろうが!」
オウマはヴォルギーンの切っ先を前に突き出して構えた。
アーヴァンはオウマの穂先に、いつも以上の強い気迫を感じている。どうやら彼は本当に、心底、ヴァーマ・ドゥエルの事を思って、敢えて強い言葉で長老たちを挑発しているようだった。
オウマの気迫が、一同に響いていた。ざわざわとさざめきが起こり、マモラとオウマ、どちらの考えが正しいのか吟味し合っている。
ぴりぴりとした二人の間を取り持つようにして、ドゥギャが歩み出た。
ドゥギャは二人の事をそれぞれ見回すと、
「オウマ、長老は、君がこの決闘で勝利を収めた暁には、君を我ら三大戦士長の一人として迎え入れる事を決めている。マモラ、その時は君は、戦士長の座から外れて貰う……」
「分かっている」
ドゥギャの言葉に、マモラが頷いた。
ここでオウマ如きに敗けるようならば、戦士長としての資格はない。
「決闘とは言っても、マモラもオウマも、我々の貴重な戦力だ。決して殺し合う事なく決着を付け給え」
ドゥギャは短く告げると、長老ワカフの傍に戻ってゆく。
オウマとマモラはきっと睨み合い、互いに闘気を迸らせた。二人の間合いに別の人間が入った瞬間、稲妻に撃たれてしまいそうなくらいの、強い意志のぶつかり合いだった。
その闘気の磁場に押されて、さっきまでざわついていた一同が押し黙った。
シュメはその体躯に見合わぬ乙女の祈りの姿勢で、弟のこれからを思った。彼が勝利すれば、ヴァーマ・ドゥエルは他の部族と同じ戦闘民族に成り代わってしまうかもしれない。だが、三大戦士の一人であるマモラと戦って敗ければ、無事では済まないような心配もある。
アーヴァンは、オウマの闘気がみるみる冷えてゆくのを感じていた。ヒートアップしていた彼の頭の中が、冷静になっているのだ。冷静なオウマの冷酷な戦いを、アーヴァンは何度となく目撃している。例え三大戦士のマモラと言っても、苦戦は必至だろう。
どちらともなく、二人は前に足を踏み出した。
間合いで言えば、オウマの方が長い。槍と石突の連携をオウマはものにしていた。ヴォルギーンは当然、そのリーチを生かした棍棒として使う事も可能だ。
しかし手数の多さや技の発動は、マモラの方が速い筈だ。マモラの武器は一対の棍棒、片方を防御に使い、もう片方で打つのが基本戦術だ。しかも、剣と盾を装備するのではなく、どちらの棍棒も剣と盾の役割を兼任する。二本の棒の持つシンプルながらも変幻自在さは、ヴォルギーンにも劣る所ではない。
二人はお互いの間合いに入らないまま、立ち止まり、睨み合った。闘気をぶつけ合って牽制し、相手がミスをするのを誘っている。下手に踏み込めば、容易に逆襲を許す。
「……ぃぃぃぃぃぃ……」
先に痺れを切らしたのは、オウマだった――ように見えた。
唇から小さな呻き声のような音を鳴らしたかと思うと、かっと眼を見開いて、全身にたわめた力を一挙に解放するべく、大声を上げながら飛び掛かった。
「きぃぃぃぃええええ――ッ!」
オウマのいつもの戦法だ。怪鳥音を発して相手を威嚇し、怯んだ隙にヴォルギーンを叩き込む。
だが、マモラは嘘でも戦士長。そんなコケ脅しではどうようなどしようもない。
ヴォルギーンを頭上に掲げたオウマの懐に飛び込んで、右の棍棒を打ち付けようとした。
腹に向かって突き進む棍棒を、オウマは石突きで打ち落とした。
マモラは左から後ろに半回転して、裏拳の要領で左手の棍棒を横薙ぎに振るう。
オウマがヴォルギーンを身体の横にひたりとくっつけながら、全身を急降下させた。そして間髪入れず、撓めた膝を解き放つ力で、ヴォルギーンの穂先を相手の喉元目掛けて突き出した。
マモラが頸を右に傾けて、槍をやり過ごす。頬肉をぶっつりと割いた槍に対して、マモラは逃れずに寧ろ接近した。ヴォルギーンを抱え込んでしまえば、オウマはもう攻撃出来ない。
しかしマモラは、近付いたオウマの顔を見て焦りを覚えた。オウマは不敵に笑みを浮かべている。
オウマが右手を手前に引く。手に握っていたのは、長柄に巻き付いていた蔓だ。すると穂先を取り付けた部分が手前に折れて、死神の鎌のように曲がって、マモラのうなじを捉えようとした。
「くっ」
マモラが頭を下げる。そのまま地面を蹴って、後ろに飛んだ。
オウマは横に回転しながら接近し、石突をぶち込もうとした。
マモラは棍棒を交差させて、ヴォルギーンを受け止める。そのまま腰を左側にひねって、オウマのバランスを崩させようとした。
オウマはしかし、ヴォルギーンを引かれる勢いを利用して跳ね、走高跳――の文化はヴァーマ・ドゥエルにはないが――のように身体を天井に向け、振り出した脛でマモラの側頭部を蹴り付けた。
へ――と、唇に笑みを浮かべたオウマだったが、蹴りの威力が足りなかったのか、マモラはすぐに反撃に出た。棍棒を握ったままの拳で、中空のオウマを殴打すると、もう片方の手で彼の服を掴み、床に投げ落とした。
オウマはヴォルギーンを手から取りこぼし、二、三回床の上を跳ねて、転がった。
「オウマ!」
シュメが声を上げるが、それより早くオウマは立ち上がっている。
ヴォルギーンは手放したが、オウマは構わずにマモラに立ち向かった。
オウマの眼は血走って、唇は耳まで吊り上がったように見え、それは大層、悪魔的な表情に感じられた。
マモラはオウマが拳を振り上げた瞬間、言いようのない殺気に恐怖を覚え、右の棍棒で彼の胴体を強く突くと共に、左の棍棒で頭を斜めから打ち下ろした。
オウマのこめかみから少し上の皮膚が、べろりと捲れ返って血が飛んだ。オウマは痛みを堪えて、マモラの腹部に向けて下から拳を突き上げようとする。
拳が炸裂する前に、マモラは蹴りを使ってオウマを押し飛ばした。
オウマは床を転がると、何度も咳き込んだ。
「決着は付いたな……」
薄っすらと汗を掻いたマモラが、静かに言った。ドゥギャの方へ眼をやると、彼も頷いている。
しかし、床に倒れ込んで痛みにもがいていたオウマが、咳ではなく笑い声を上げているのに一同は気付いた。アーヴァンがオウマに歩み寄って、手を差し出して立ち上がらせた。
「何がおかしい?」
ドゥギャが訊いた。
「戦士長マモラ……あんたの敗けだぜ」
不敵に笑って、オウマは宣言した。
すると、訓練場に、息を切らした男が駆け込んで来た。櫓で見張りをやっている男だった。
「こちらにおられましたか――大変です、ドドラグラ族が襲って来ました!」
グェルヴァ――
大きく陥没した地面には、底が見えないよう、大量の骸が重ねられている。
ルマ・カーラ・ウシュは一人、その場で戦士たちの死後の世界での安寧を祈っていた。
頬から伝う涙は、地面に落ち、窪みを滑って、死骸へ向かって染み込んでゆく。
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