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第三章 復活
第三節 promise
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砦の周囲を囲む壁の高さは、どうにか攀じ登れないという事はないものの、手を滑らせて落下すれば命の危険からは逃れられないくらいのものであった。
地上に、小さな扉が幾つかあり、その内の中央の扉が、ゆっくりと開き始めた。
現れたのは、二人の戦士長と一人の戦士だった。
戦士長ドゥギャは、すらりとした長身の男だ。
戦士長ガムラは、背こそ高くないががっしりとした体格の男である。
そして戦士アーヴァンは身長も体格も頭一つか二つ分抜けており、腰には例の石鉈を下げている。
更にその後ろから、槍や弓で武装した戦士たちがやって来る。長くて丈夫な木の枝の先に、石を尖らせた刃物を括り付けているのがヴォール、しならせた枝の両端に蔓を結んだ簡単なンマに、同じく枝を尖らせた矢をつがえている。
「決闘には応じて頂けるのかな、ヴァーマ・ドゥエルの諸君」
バラドは言った。
弓矢を持った戦士の一人が、ドゥギャたちにバラドの言葉を通訳する。
「私の名は、バラド=ドラグーラ。ドラグールの行動隊長にして、戦闘侯爵の異名を持つ偉大なる騎士。我は龍の息子である」
ドラグールが龍を意味し、その語尾に母音の初めを意味する音を入れた事で、“龍の息子”と呼んでいる。
この通訳を受けたドゥギャが、
「私はヴァーマ・ドゥエルの戦士長、ドゥギャ。貴公の考えをお聞きしたい」
と、伝えさせた。
バラド=ドラグーラはヴァーマ・ドゥエルの言葉を理解しているようであった。
以降の会話のヴァーマ・ドゥエル側の発言は、全て通訳を介したものである。
「諸君らの意外なる奮闘により、我らの軍は思わぬ打撃を負った。このまま本部に戻るのもやむなしと考えはしたのだが、偉大なる騎士である私としては、侵略は好む所ではない。よって諸君の内から一人、代表を選出し、私と一対一で決闘を行ない、その勝敗によってこの戦いの決着としようではないか。私が勝利した場合、諸君らのこの見事な砦は我らドラグールの植民地とするが、諸君らが余計な抵抗を行なわぬ限り、我らは諸君らの民の一人たりとも、一滴の血も啜らぬ事を約束する。」
「犠牲者を少なく出来る可能性があるのならば、平和の都の戦士としてその提案に断る理由はないように思う。だが、貴公らが敗北した場合でも、その決闘の結果を反故するような事がないと約束する事を信じても良いのか分かりかねる所だ」
「無論、信頼して頂いて良いものとする、さよう、私の侯爵の地位に懸けて、だ。これより太陽が五つ傾いた後、武装を解除した私の部下を五人、この場所へ連れて来る。諸君らは彼を人質として、私との決闘に応じて頂きたい。仮に私が敗北した場合、私の率いるドラグールは全て、ヴァーマ・ドゥエルの軍門に下ろう。我らが使用している人員、武器、領土、全てを諸君らに明け渡す心算だ。……尤も、私が敗ける訳がないが」
そういう事になった。
ヴァーマ・ドゥエルでは、戦士長ドゥギャとガムラが長老ワカフとルマ・サイーバ、フルマ・サイーバの三名に伺いを立て、バラド侯爵は宣言通り、武装解除させた部下の一人を拘束して再び門の前に連れて来た。
その間に、オウマは崖の上でアーヴァンと会い、話をした。
「長老は、奴の条件を呑む心算でいるのか?」
「そのようだ」
「信じられんな……」
「しかし、これ以上にはない解決策だ。それに、彼らが仲間になってくれるのなら良いじゃないか」
オウマはアーヴァンの言葉にむっとした。
「仲間だと? お前、奴らが俺たちの仲間になるなどと、何処で聞いた? 誰がそんな事を言った? 俺たちが勝ったなら奴らは俺たちの奴隷だ、そして俺たちが敗けたなら俺たちは奴らの奴婢になるんだぞ!」
「そうだろうか? ドドラグラ族の総数は俺たちよりも少ない。俺たちはドドラグラ族よりも戦力で劣る。二つの集落が一緒になって力を合わせれば、集落がより大きくなって、他の部族たちもなかなか手を出せなくなるんじゃないのかな」
「この木偶の坊が! 俺たちが勝てばそうだろうさ。だがその時、奴らが自分たちで提示した条件を必ず実行するとは限らないだろう。奴らと俺たちの間に、どんな信頼があると言うんだ」
「信頼は……確かにないかもしれない。でもだからこそ、これから信頼し合えるように、互いに歩み寄るんじゃないのか? 始まり方は勝者と敗者かもしれない……でも、共に同じ場所で暮らしてゆく内に、わだかまりを薄れさせて仲良くなれるとは、考えないのか?」
「仲良くだとォ? 海の向こうの侵略者と、か?」
「ダヴェヌラとヌェズキだって、そうだった筈だ」
現地の人間であるヌェズキ、流浪の民であるダヴェヌラ――高度な技術を持った異なる人種ダヴェヌラを、ヌェズキは警戒した事だろう。しかしダヴェヌラがその技術をヌェズキたちの為に使用して砦を造り上げた事で、ヌェズキは彼らを信頼し、ヴァーマ・ドゥエルには一〇〇年の単位で平和が訪れた。
その歴史の中で、差別や争いがなかったとは言えない。実際、今だって子供たちの間では、異相を見せるマキアを迫害しようとする動きがある。
だが、マキアが誰かと子を成して彼女の特徴を備えた子孫を残し、その子供たちが更に新しい命を紡いでゆけば、やがて肌の色や顔立ちなど関係なく、同じ集落で生まれた仲間になれる。
アーヴァンはそう信じていた。そしてドドラグラ族の長であるバラド候の理知的な態度を見て、少なくとも彼らとは、分かり合う事が出来そうだとアーヴァンは思ったのだ。
「手痛いしっぺ返しを喰らわなければ良いがな……」
オウマは、普段寡黙なアーヴァンが、そんな理想を語るのに驚いた。そして皮肉っぽく吐き捨てる。
すると、崖の上にアーヴァンの父、戦士長ガムラがやって来た。
「父さん……」
「戦士アーヴァンよ」
ガムラは真剣な眼差しで、息子を見つめて告げた。
「お前が、決闘の戦士として選ばれた」
決闘は、砦の中の広場で行なわれる事になった。神殿に囲まれた平地で、地面は石畳を敷き詰めている。
正午には太陽を真上に戴く中央神殿の、頂上へと伸びる階段の中頃に、上から、
長老ワカフ、
ルマ・サイーバ、フルマ・サイーバ、
戦士長ドゥギャ、
という順番で並んでおり、階段の下では両手を後ろに回され、足枷を嵌められた、むくつけき裸体のドラグール兵たちが並んで座している。彼らの両脇には戦士長ガムラと戦士長マモラが立っていた。
広場の中央で、一〇人分の距離を開けて、アーヴァンとバラド候が向かい合っている。中央神殿に向かって左手にアーヴァン、向かって右手にバラドだ。
近くの家屋の内側や屋根の上から、ヴァーマ・ドゥエルの民たちが広場を見下ろしていた。初めて砦の中に足を踏み入れた異民族と、自らの部族が誇る戦士との決闘に、興味津々なのだ。
アーヴァンが勝てば、この日進撃して来た五〇名に加え、本拠地の残る一七三名のドドラグラ族の人間を、奴隷としてヴァーマ・ドゥエルが手に入れる。
バラドが勝てば、この巨大な石の城塞を築く技術力を、ドドラグラ族は我がものとする事が出来る。ヴァーマ・ドゥエルの民は他にも食事や薬草の知識に明るく、身体能力も優れており、本国に連れてゆけばドラグールの戦力と地位の向上も図れるだろう。
しかしこの決闘は、どう考えてもヴァーマ・ドゥエルに有利な条件であった。
仮にアーヴァンが敗けたとしても、この場にいる他の戦士たちでバラド候を打ち倒して、その首級を持って砦の外のドドラグラ族騎士たちに見せ付ければ、それで話が済む。目撃者である五人の人質にしても、捕虜をどのようにするかは勝者の自由であるから、殺してしまえばそれが真実になる。
それを承知で、バラドは決闘を挑んだ。どのような相手が立ちはだかっても勝利する自信があり、且つ、袋叩きにされないような自負を持っているという事である。
事実、兜を外したバラド侯爵の顔には、余裕さえ浮かべられていた。
髪が燃え立つように赤い。しかし肌は冷え切ったように白かった。色鮮やかな唇はV字に吊り上がり、鋭い犬歯を伸ばしている。高い鼻が見事であった。素晴らしいくらいの偉丈夫だ。
くすんだ灰色の光沢を持つ鎧を身に着けているが、右腕だけが火で炙られたように薄っすらと赤い光を湛えていた。その右腕の鎧は、他の部分と比べて巨大であったが、重量としてはまだ軽いくらいだ。その大きさに見合わぬ重量から繰り出される速度に、果たしてアーヴァンは気付いているだろうか。
腰には剣とナイフを一振りずつ吊り下げている。刃が分厚い剣は、敵を鎧ごと押し潰す為のものだ。先端に向かうに連れて刃が太くなるナイフは、戦闘ではなく、枝を払ったり、動物を捌いたりするものだろう。
一方のアーヴァン、武装と呼べるものは、遺跡から発掘された石鉈だけだ。腕と足には、木を削って作った板を包帯で括り付けているくらいで、胴体には刃を通さないように幾重にも布を巻き付けている。その上に貫頭衣を着ているだけだ。
それでも、発達した巨大な筋肉のお蔭で、通常のドラグール兵たちの金属の鎧にも敗けない姿である。天然の筋肉の鎧が、人工の装甲をぶち破ろうとしていた。
「――始めるか、少年」
兜を被り直したバラドが剣の柄に手を掛けた。
アーヴァンに彼の言葉は分からないが、何を言っているかは分かった。石鉈を引き抜くと、想像以上の重みが、手と言わず腕と言わず、全身に圧し掛かって来た。
オウマにはああ言ったが、集落の命運が自分の肩に懸かっているのだ。敗ける訳にはいかなかった。
バラドが剣を引き抜いた刹那、アーヴァンは石鉈を振り上げ、襲い掛かった。
地上に、小さな扉が幾つかあり、その内の中央の扉が、ゆっくりと開き始めた。
現れたのは、二人の戦士長と一人の戦士だった。
戦士長ドゥギャは、すらりとした長身の男だ。
戦士長ガムラは、背こそ高くないががっしりとした体格の男である。
そして戦士アーヴァンは身長も体格も頭一つか二つ分抜けており、腰には例の石鉈を下げている。
更にその後ろから、槍や弓で武装した戦士たちがやって来る。長くて丈夫な木の枝の先に、石を尖らせた刃物を括り付けているのがヴォール、しならせた枝の両端に蔓を結んだ簡単なンマに、同じく枝を尖らせた矢をつがえている。
「決闘には応じて頂けるのかな、ヴァーマ・ドゥエルの諸君」
バラドは言った。
弓矢を持った戦士の一人が、ドゥギャたちにバラドの言葉を通訳する。
「私の名は、バラド=ドラグーラ。ドラグールの行動隊長にして、戦闘侯爵の異名を持つ偉大なる騎士。我は龍の息子である」
ドラグールが龍を意味し、その語尾に母音の初めを意味する音を入れた事で、“龍の息子”と呼んでいる。
この通訳を受けたドゥギャが、
「私はヴァーマ・ドゥエルの戦士長、ドゥギャ。貴公の考えをお聞きしたい」
と、伝えさせた。
バラド=ドラグーラはヴァーマ・ドゥエルの言葉を理解しているようであった。
以降の会話のヴァーマ・ドゥエル側の発言は、全て通訳を介したものである。
「諸君らの意外なる奮闘により、我らの軍は思わぬ打撃を負った。このまま本部に戻るのもやむなしと考えはしたのだが、偉大なる騎士である私としては、侵略は好む所ではない。よって諸君の内から一人、代表を選出し、私と一対一で決闘を行ない、その勝敗によってこの戦いの決着としようではないか。私が勝利した場合、諸君らのこの見事な砦は我らドラグールの植民地とするが、諸君らが余計な抵抗を行なわぬ限り、我らは諸君らの民の一人たりとも、一滴の血も啜らぬ事を約束する。」
「犠牲者を少なく出来る可能性があるのならば、平和の都の戦士としてその提案に断る理由はないように思う。だが、貴公らが敗北した場合でも、その決闘の結果を反故するような事がないと約束する事を信じても良いのか分かりかねる所だ」
「無論、信頼して頂いて良いものとする、さよう、私の侯爵の地位に懸けて、だ。これより太陽が五つ傾いた後、武装を解除した私の部下を五人、この場所へ連れて来る。諸君らは彼を人質として、私との決闘に応じて頂きたい。仮に私が敗北した場合、私の率いるドラグールは全て、ヴァーマ・ドゥエルの軍門に下ろう。我らが使用している人員、武器、領土、全てを諸君らに明け渡す心算だ。……尤も、私が敗ける訳がないが」
そういう事になった。
ヴァーマ・ドゥエルでは、戦士長ドゥギャとガムラが長老ワカフとルマ・サイーバ、フルマ・サイーバの三名に伺いを立て、バラド侯爵は宣言通り、武装解除させた部下の一人を拘束して再び門の前に連れて来た。
その間に、オウマは崖の上でアーヴァンと会い、話をした。
「長老は、奴の条件を呑む心算でいるのか?」
「そのようだ」
「信じられんな……」
「しかし、これ以上にはない解決策だ。それに、彼らが仲間になってくれるのなら良いじゃないか」
オウマはアーヴァンの言葉にむっとした。
「仲間だと? お前、奴らが俺たちの仲間になるなどと、何処で聞いた? 誰がそんな事を言った? 俺たちが勝ったなら奴らは俺たちの奴隷だ、そして俺たちが敗けたなら俺たちは奴らの奴婢になるんだぞ!」
「そうだろうか? ドドラグラ族の総数は俺たちよりも少ない。俺たちはドドラグラ族よりも戦力で劣る。二つの集落が一緒になって力を合わせれば、集落がより大きくなって、他の部族たちもなかなか手を出せなくなるんじゃないのかな」
「この木偶の坊が! 俺たちが勝てばそうだろうさ。だがその時、奴らが自分たちで提示した条件を必ず実行するとは限らないだろう。奴らと俺たちの間に、どんな信頼があると言うんだ」
「信頼は……確かにないかもしれない。でもだからこそ、これから信頼し合えるように、互いに歩み寄るんじゃないのか? 始まり方は勝者と敗者かもしれない……でも、共に同じ場所で暮らしてゆく内に、わだかまりを薄れさせて仲良くなれるとは、考えないのか?」
「仲良くだとォ? 海の向こうの侵略者と、か?」
「ダヴェヌラとヌェズキだって、そうだった筈だ」
現地の人間であるヌェズキ、流浪の民であるダヴェヌラ――高度な技術を持った異なる人種ダヴェヌラを、ヌェズキは警戒した事だろう。しかしダヴェヌラがその技術をヌェズキたちの為に使用して砦を造り上げた事で、ヌェズキは彼らを信頼し、ヴァーマ・ドゥエルには一〇〇年の単位で平和が訪れた。
その歴史の中で、差別や争いがなかったとは言えない。実際、今だって子供たちの間では、異相を見せるマキアを迫害しようとする動きがある。
だが、マキアが誰かと子を成して彼女の特徴を備えた子孫を残し、その子供たちが更に新しい命を紡いでゆけば、やがて肌の色や顔立ちなど関係なく、同じ集落で生まれた仲間になれる。
アーヴァンはそう信じていた。そしてドドラグラ族の長であるバラド候の理知的な態度を見て、少なくとも彼らとは、分かり合う事が出来そうだとアーヴァンは思ったのだ。
「手痛いしっぺ返しを喰らわなければ良いがな……」
オウマは、普段寡黙なアーヴァンが、そんな理想を語るのに驚いた。そして皮肉っぽく吐き捨てる。
すると、崖の上にアーヴァンの父、戦士長ガムラがやって来た。
「父さん……」
「戦士アーヴァンよ」
ガムラは真剣な眼差しで、息子を見つめて告げた。
「お前が、決闘の戦士として選ばれた」
決闘は、砦の中の広場で行なわれる事になった。神殿に囲まれた平地で、地面は石畳を敷き詰めている。
正午には太陽を真上に戴く中央神殿の、頂上へと伸びる階段の中頃に、上から、
長老ワカフ、
ルマ・サイーバ、フルマ・サイーバ、
戦士長ドゥギャ、
という順番で並んでおり、階段の下では両手を後ろに回され、足枷を嵌められた、むくつけき裸体のドラグール兵たちが並んで座している。彼らの両脇には戦士長ガムラと戦士長マモラが立っていた。
広場の中央で、一〇人分の距離を開けて、アーヴァンとバラド候が向かい合っている。中央神殿に向かって左手にアーヴァン、向かって右手にバラドだ。
近くの家屋の内側や屋根の上から、ヴァーマ・ドゥエルの民たちが広場を見下ろしていた。初めて砦の中に足を踏み入れた異民族と、自らの部族が誇る戦士との決闘に、興味津々なのだ。
アーヴァンが勝てば、この日進撃して来た五〇名に加え、本拠地の残る一七三名のドドラグラ族の人間を、奴隷としてヴァーマ・ドゥエルが手に入れる。
バラドが勝てば、この巨大な石の城塞を築く技術力を、ドドラグラ族は我がものとする事が出来る。ヴァーマ・ドゥエルの民は他にも食事や薬草の知識に明るく、身体能力も優れており、本国に連れてゆけばドラグールの戦力と地位の向上も図れるだろう。
しかしこの決闘は、どう考えてもヴァーマ・ドゥエルに有利な条件であった。
仮にアーヴァンが敗けたとしても、この場にいる他の戦士たちでバラド候を打ち倒して、その首級を持って砦の外のドドラグラ族騎士たちに見せ付ければ、それで話が済む。目撃者である五人の人質にしても、捕虜をどのようにするかは勝者の自由であるから、殺してしまえばそれが真実になる。
それを承知で、バラドは決闘を挑んだ。どのような相手が立ちはだかっても勝利する自信があり、且つ、袋叩きにされないような自負を持っているという事である。
事実、兜を外したバラド侯爵の顔には、余裕さえ浮かべられていた。
髪が燃え立つように赤い。しかし肌は冷え切ったように白かった。色鮮やかな唇はV字に吊り上がり、鋭い犬歯を伸ばしている。高い鼻が見事であった。素晴らしいくらいの偉丈夫だ。
くすんだ灰色の光沢を持つ鎧を身に着けているが、右腕だけが火で炙られたように薄っすらと赤い光を湛えていた。その右腕の鎧は、他の部分と比べて巨大であったが、重量としてはまだ軽いくらいだ。その大きさに見合わぬ重量から繰り出される速度に、果たしてアーヴァンは気付いているだろうか。
腰には剣とナイフを一振りずつ吊り下げている。刃が分厚い剣は、敵を鎧ごと押し潰す為のものだ。先端に向かうに連れて刃が太くなるナイフは、戦闘ではなく、枝を払ったり、動物を捌いたりするものだろう。
一方のアーヴァン、武装と呼べるものは、遺跡から発掘された石鉈だけだ。腕と足には、木を削って作った板を包帯で括り付けているくらいで、胴体には刃を通さないように幾重にも布を巻き付けている。その上に貫頭衣を着ているだけだ。
それでも、発達した巨大な筋肉のお蔭で、通常のドラグール兵たちの金属の鎧にも敗けない姿である。天然の筋肉の鎧が、人工の装甲をぶち破ろうとしていた。
「――始めるか、少年」
兜を被り直したバラドが剣の柄に手を掛けた。
アーヴァンに彼の言葉は分からないが、何を言っているかは分かった。石鉈を引き抜くと、想像以上の重みが、手と言わず腕と言わず、全身に圧し掛かって来た。
オウマにはああ言ったが、集落の命運が自分の肩に懸かっているのだ。敗ける訳にはいかなかった。
バラドが剣を引き抜いた刹那、アーヴァンは石鉈を振り上げ、襲い掛かった。
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