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第七章 崩壊
第三節 goblin
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メルバの調子は飽くまでも冷静だったが、その言葉の端々からは明確な怒りの奔流が感じられる。
ワカフ翁は、その怒りの矛で、自分の心臓を抉られたかのような表情であった。
「ワカフ、お前にはやり直す機会をやる」
「機会じゃと……」
「当時のお前を責める心算はない。お前はまだ子供だった。しかし今の貴様は何だ。未だに神の都、平和の砦などという幻想に縋り、武装をせず、守る為の戦いさえままならぬ。私の頃から、そしてハーラによる一〇年前の虐殺から。お前は何も学ばなかったのか……」
なじるように、諭すように、そして憐れむように、メルバは言葉を紡いだ。
「今こそ、“剥離の鎧と剣”、そして“穿孔の盾と矛”、二つの力を合わせ、一大軍勢を築き上げ、周辺部族を武力によって支配し、統制する事で、誠の平和を手にするべく動く時ではないのか。性善説に基づいた絵空事に何の意味があるというのだ。お前はこの数十年もの間、一体、何をしていた?」
「でもそれじゃあ、同じじゃないのか?」
俺は言った。
「あんたがやろうとしているのは、あんたが愚かと侮蔑した人間たちと同じ事じゃないのか!?」
「そうだ。だからこそ、やる。これは正当な報復だ。そして痛みを与えられた者たちは知るだろう、自らの愚かさをな」
「しかし――」
「ちょ……ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ン・ダーモが口を挟んだ。
「支配とか、軍勢とか、そういう事は、俺には良く分かんねーけどさ、メルバさんよぅ、あんた、俺に“穿孔の盾と矛”をくれるんじゃなかったのか? 何か話がデカくなり過ぎて、訳分かんねーよ……」
「黙れ、小鼠。リオディン・ダグラ族をけしかけ、ドドラグラ族の持っていた分と合わせ、鎧の両腕を回収させた時点で、お前の役目は終わりだ。本当ならば他の三部族からも回収して置きたかったのだがな」
「――何? どういう事だ、ン・ダーモ!?」
俺はン・ダーモに掴み掛かった。ン・ダーモが必死に眼を逸らそうとする。
メルバが明かした。
「その男はこの砦を売った。目先のちっぽけな欲望を満たす為にな。我々に助命を乞い、リオディン・ダグラ族に砦の水路の場所を教え、結果として半壊状態に追いやった」
「何だと……!」
俺はン・ダーモの襟首を掴んだ。ン・ダーモが俺の手頸を掴んで力を緩めようとするが、俺の怒りは皮膚を鉄の如く変えていた。
それは比喩ではない。ン・ダーモの瞳に映る俺の皮膚が水面の如く波打ち、別のものへと変貌してゆこうとしている。髪が逆立ち、頬を獣毛が硬質化した鱗が覆い、牙が突き出して、鼻が平らになってゆく。
「トゥケィ! 抑えよ!」
ワカフ翁の言葉ではっと我に返り、俺はン・ダーモから手を放した。
その手を見てみると、黄ばんだ爪が伸び、手の甲にはごつごつとした棘のような鱗が生じている。
ン・ダーモは俺を恐怖の眼で見上げると、悲鳴を呑み込んで、メルバの方へ顔を向けた。
「な、何が鼠だ! あんただって裏切り者じゃないか! 俺と同じだ、復讐の為に砦を売ったんだろ!?」
「大した復讐心だな。お前はその獣戦士に怪我の一つでも負わされた事があるのか? その男はお前の無事を心から喜んでいたようだぞ」
「ククーラ・カン……?」
俺は、メルバが俺を呼んだ名が気に掛かった。
「そうした姿に変身した者の事だ。カンとは獣を意味する言葉だ」
「……不思議だな」
俺はその言葉に、そういう感想を抱いた。
ククーラ・カン……それはヴァーマ・ドゥエルにある伝説の創造者の名前と近い発音であった。
ヴァーマ・ドゥエルでの発音は、ククルカン。ククルには“物事・人々を纏める”という意味があり、カンとは長老よりも更に高い地位を持つ大祈祷師の事だ。
現在、その地位は空白となっている。カーラは、俺が長老の座を受け継ぐ事になったと知って、その名前で俺を形容した。
ククルカンはダヴェヌラの統率者であった。彼がヌェズキとダヴェヌラを引き合わせ、このヴァーマ・ドゥエル建国へと導いた。その物語が、神話となって伝えられている。
「それよりも、あの男を追った方が良いのではないか」
メルバに言われて、気付いた。ン・ダーモが姿を消している。
「奴はお前の事を憎んでいるようだからな。その姿を見られた今、何を言われるか分からないぞ」
「――っ」
俺が、タムザ・クファーンが獣に変じたのを見て、おぞましいと感じたように、きっとン・ダーモも俺の姿を見て不気味に思った事だろう。
俺は彼に憎まれる理由が分からなかったが、それが本当だとすれば、こんな、怪物のような俺をどのように言い触らされるか分かったものではない。
俺は、俺とワカフ翁がこの部屋へやって来た入口から逃げ出したン・ダーモを追跡した。
「面白い事になって来たな」
メルバは薄く笑った。
長老ワカフは、睨み付けるようにして、メルバに言う。
「何故、あの男をここへと連れて来た」
「あの男が望んだからさ。矮小な鼠が、砦に齧り付いて、どんな事になるのか気になったものでな」
「――」
「それよりもワカフ、どうだ」
「どうだ、とは?」
「今からでも考えを改め、ヴァーマ・ドゥエルの軍備を強化する事だ。私に“剥離の鎧と剣”、“穿孔の盾と矛”を譲渡し、砦諸共軍門に下れ――」
「断る……」
「何……」
「あの時、貴女を助けられなんだ事、今でも夢に見る程、悔いておる。しかし、再びこの手に武器を握れば、あの悲劇は我々ばかりではない、他の部族にも、最悪の場合、我々がこの手で、あの悲劇を再現してしまう事になるかもしれない……」
「――」
「それが、儂には、恐ろしい……」
「臆病者め」
メルバはすっくと立ち上がると、ワカフの前に歩み寄った。
ワカフが反応するより早く、メルバはワカフに手をかざし、ン・ダーモを吹き飛ばした念動力を発動した。
ワカフの細い身体がふわりと浮かび、メルバの手の動きに従うように、空中を飛び回った。
メルバが壁に向けて手を振るうと、ワカフは背中から壁面にぶつかり、力なく横たわった。
「初めからこうするべきだった」
メルバは冷たく言い放ち、右手の指を鉤爪状に折り曲げた。すると指先が長く鋭く、昆虫の爪先のように変化を初め、更に金属質な赤い輝きを放ち始めた。
それはかつて、メルバの胎内のハーラを掻き出そうとした、あのおぞましき掻把具とそっくりだった。
メルバは起き上がろうとするワカフの頭部に、五本の爪を突き立てた。
親指が右のこめかみ、人差し指と中指が白髪の生え際、薬指が左のこめかみを掴み、小指が頬骨の下に喰い込んだ。
ワカフがメルバの手首を握る。
「言え、ワカフ。“穿孔の盾と矛”は何処にある? お前の脳に埋め込まれているものはその一欠けらに過ぎない……アポイタカラはヒヒイロカネのような増殖能力はないからな……」
「い……言わぬ」
ワカフの顔が、あっと言う間に真っ赤に染め抜かれる。その赤い血が変色し始めたかと思うと、メルバの爪と同じ金属光沢を放ち始めた。しかしその色は、メルバの爪が火や太陽の赤であるとすれば、水や月のような蒼であった。
アポイタカラだ。
「ふんっ」
メルバはワカフの頭部に爪を喰い込ませたまま、念動力を発揮した。ワカフの身体を吹き飛ばす――だが、その頭部はメルバ自身が固定しているので、ワカフの頸から下と、メルバの手首を掴んでいた両手を残して、ワカフの身体が弾け飛んだ。
メルバがワカフの頭から爪を引き抜く。
ごろりと転がった老人の皮膚が溶けるようにして剥離し、蒼白く輝く頭蓋骨が肉の中から出現した。
頭蓋骨は見る見る姿を変え、蛇の顔を連想させる兜を作り出した。
ハーラが唯一手元に残した、“剥離の鎧”の兜と同じ形状であった。
「残る部分は何処だ?」
メルバは眼を瞑り、脳内のヒヒイロカネの欠片に意識を集中した。それによって、自分の傍にないものでも、ヒヒイロカネやその性質に極めて近いアポイタカラの場所を感知する事が出来る。
手元に、ワカフが自らの頭蓋骨と融合させていたアポイタカラ。
部屋の中には、トゥケィが持ち込んだ“剥離の鎧”の両腕部分。
ン・ダーモを追ってズァーカからトゥケィが出たらしい事が分かる。彼は頭部にヒヒイロカネの欠片を持ち、“剥離の剣”も携帯している。
そして、砦の何処かにアポイタカラがある事は分かっているのだが、その場所が特定出来ない。
ヴァーマ・ドゥエルの砦に近付けば、砦を囲む壁の中にアポイタカラがある事は分かったのだが、何処にどのようにして隠されているかまでは、分からなかった。
ならば直接、ヴァーマ・ドゥエルの中を歩いて、探すしかないだろう。
メルバは、ン・ダーモとトゥケィが駆け上がった地下室からの階段を、同じように上り始めた。
「ン・ダーモ! 待て!」
俺はン・ダーモを追って、階段を駆け上った。
俺の足は速かった。階段であろうとも、小石の取り払われた平地のように、軽々と進んだ。
暗闇の中でも平気で眼が見えた。眼を瞑っても、匂いや音、風の動きを感じる事で、ン・ダーモの後を追う事が出来る。
ン・ダーモは這うようにして階段を上り、談合の間に飛び出した。
俺はそこでン・ダーモを捕まえた。
「お前、あの女の言っていた事は本当なのか? 本当にヴァーマ・ドゥエルを……俺たちを売ったのか!?」
「うるせぇっ、この手を放せ、化け物!」
ン・ダーモは俺の手を振り払った。
俺の、鱗がびっしりと生え揃った手を。
俺がン・ダーモの言葉に動揺している間に、ン・ダーモは談合の間からも飛び出した。
神殿の階段を駆け上がり、外に出る心算だろう。
俺はすぐに追う事が出来なかった。
化け物……
そうか、俺は、化け物になってしまったのだ。
少なくともこの姿は、人間ではない……。
そう思いながらも、俺は、ン・ダーモを追って神殿の出口を目指した。
ワカフ翁は、その怒りの矛で、自分の心臓を抉られたかのような表情であった。
「ワカフ、お前にはやり直す機会をやる」
「機会じゃと……」
「当時のお前を責める心算はない。お前はまだ子供だった。しかし今の貴様は何だ。未だに神の都、平和の砦などという幻想に縋り、武装をせず、守る為の戦いさえままならぬ。私の頃から、そしてハーラによる一〇年前の虐殺から。お前は何も学ばなかったのか……」
なじるように、諭すように、そして憐れむように、メルバは言葉を紡いだ。
「今こそ、“剥離の鎧と剣”、そして“穿孔の盾と矛”、二つの力を合わせ、一大軍勢を築き上げ、周辺部族を武力によって支配し、統制する事で、誠の平和を手にするべく動く時ではないのか。性善説に基づいた絵空事に何の意味があるというのだ。お前はこの数十年もの間、一体、何をしていた?」
「でもそれじゃあ、同じじゃないのか?」
俺は言った。
「あんたがやろうとしているのは、あんたが愚かと侮蔑した人間たちと同じ事じゃないのか!?」
「そうだ。だからこそ、やる。これは正当な報復だ。そして痛みを与えられた者たちは知るだろう、自らの愚かさをな」
「しかし――」
「ちょ……ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ン・ダーモが口を挟んだ。
「支配とか、軍勢とか、そういう事は、俺には良く分かんねーけどさ、メルバさんよぅ、あんた、俺に“穿孔の盾と矛”をくれるんじゃなかったのか? 何か話がデカくなり過ぎて、訳分かんねーよ……」
「黙れ、小鼠。リオディン・ダグラ族をけしかけ、ドドラグラ族の持っていた分と合わせ、鎧の両腕を回収させた時点で、お前の役目は終わりだ。本当ならば他の三部族からも回収して置きたかったのだがな」
「――何? どういう事だ、ン・ダーモ!?」
俺はン・ダーモに掴み掛かった。ン・ダーモが必死に眼を逸らそうとする。
メルバが明かした。
「その男はこの砦を売った。目先のちっぽけな欲望を満たす為にな。我々に助命を乞い、リオディン・ダグラ族に砦の水路の場所を教え、結果として半壊状態に追いやった」
「何だと……!」
俺はン・ダーモの襟首を掴んだ。ン・ダーモが俺の手頸を掴んで力を緩めようとするが、俺の怒りは皮膚を鉄の如く変えていた。
それは比喩ではない。ン・ダーモの瞳に映る俺の皮膚が水面の如く波打ち、別のものへと変貌してゆこうとしている。髪が逆立ち、頬を獣毛が硬質化した鱗が覆い、牙が突き出して、鼻が平らになってゆく。
「トゥケィ! 抑えよ!」
ワカフ翁の言葉ではっと我に返り、俺はン・ダーモから手を放した。
その手を見てみると、黄ばんだ爪が伸び、手の甲にはごつごつとした棘のような鱗が生じている。
ン・ダーモは俺を恐怖の眼で見上げると、悲鳴を呑み込んで、メルバの方へ顔を向けた。
「な、何が鼠だ! あんただって裏切り者じゃないか! 俺と同じだ、復讐の為に砦を売ったんだろ!?」
「大した復讐心だな。お前はその獣戦士に怪我の一つでも負わされた事があるのか? その男はお前の無事を心から喜んでいたようだぞ」
「ククーラ・カン……?」
俺は、メルバが俺を呼んだ名が気に掛かった。
「そうした姿に変身した者の事だ。カンとは獣を意味する言葉だ」
「……不思議だな」
俺はその言葉に、そういう感想を抱いた。
ククーラ・カン……それはヴァーマ・ドゥエルにある伝説の創造者の名前と近い発音であった。
ヴァーマ・ドゥエルでの発音は、ククルカン。ククルには“物事・人々を纏める”という意味があり、カンとは長老よりも更に高い地位を持つ大祈祷師の事だ。
現在、その地位は空白となっている。カーラは、俺が長老の座を受け継ぐ事になったと知って、その名前で俺を形容した。
ククルカンはダヴェヌラの統率者であった。彼がヌェズキとダヴェヌラを引き合わせ、このヴァーマ・ドゥエル建国へと導いた。その物語が、神話となって伝えられている。
「それよりも、あの男を追った方が良いのではないか」
メルバに言われて、気付いた。ン・ダーモが姿を消している。
「奴はお前の事を憎んでいるようだからな。その姿を見られた今、何を言われるか分からないぞ」
「――っ」
俺が、タムザ・クファーンが獣に変じたのを見て、おぞましいと感じたように、きっとン・ダーモも俺の姿を見て不気味に思った事だろう。
俺は彼に憎まれる理由が分からなかったが、それが本当だとすれば、こんな、怪物のような俺をどのように言い触らされるか分かったものではない。
俺は、俺とワカフ翁がこの部屋へやって来た入口から逃げ出したン・ダーモを追跡した。
「面白い事になって来たな」
メルバは薄く笑った。
長老ワカフは、睨み付けるようにして、メルバに言う。
「何故、あの男をここへと連れて来た」
「あの男が望んだからさ。矮小な鼠が、砦に齧り付いて、どんな事になるのか気になったものでな」
「――」
「それよりもワカフ、どうだ」
「どうだ、とは?」
「今からでも考えを改め、ヴァーマ・ドゥエルの軍備を強化する事だ。私に“剥離の鎧と剣”、“穿孔の盾と矛”を譲渡し、砦諸共軍門に下れ――」
「断る……」
「何……」
「あの時、貴女を助けられなんだ事、今でも夢に見る程、悔いておる。しかし、再びこの手に武器を握れば、あの悲劇は我々ばかりではない、他の部族にも、最悪の場合、我々がこの手で、あの悲劇を再現してしまう事になるかもしれない……」
「――」
「それが、儂には、恐ろしい……」
「臆病者め」
メルバはすっくと立ち上がると、ワカフの前に歩み寄った。
ワカフが反応するより早く、メルバはワカフに手をかざし、ン・ダーモを吹き飛ばした念動力を発動した。
ワカフの細い身体がふわりと浮かび、メルバの手の動きに従うように、空中を飛び回った。
メルバが壁に向けて手を振るうと、ワカフは背中から壁面にぶつかり、力なく横たわった。
「初めからこうするべきだった」
メルバは冷たく言い放ち、右手の指を鉤爪状に折り曲げた。すると指先が長く鋭く、昆虫の爪先のように変化を初め、更に金属質な赤い輝きを放ち始めた。
それはかつて、メルバの胎内のハーラを掻き出そうとした、あのおぞましき掻把具とそっくりだった。
メルバは起き上がろうとするワカフの頭部に、五本の爪を突き立てた。
親指が右のこめかみ、人差し指と中指が白髪の生え際、薬指が左のこめかみを掴み、小指が頬骨の下に喰い込んだ。
ワカフがメルバの手首を握る。
「言え、ワカフ。“穿孔の盾と矛”は何処にある? お前の脳に埋め込まれているものはその一欠けらに過ぎない……アポイタカラはヒヒイロカネのような増殖能力はないからな……」
「い……言わぬ」
ワカフの顔が、あっと言う間に真っ赤に染め抜かれる。その赤い血が変色し始めたかと思うと、メルバの爪と同じ金属光沢を放ち始めた。しかしその色は、メルバの爪が火や太陽の赤であるとすれば、水や月のような蒼であった。
アポイタカラだ。
「ふんっ」
メルバはワカフの頭部に爪を喰い込ませたまま、念動力を発揮した。ワカフの身体を吹き飛ばす――だが、その頭部はメルバ自身が固定しているので、ワカフの頸から下と、メルバの手首を掴んでいた両手を残して、ワカフの身体が弾け飛んだ。
メルバがワカフの頭から爪を引き抜く。
ごろりと転がった老人の皮膚が溶けるようにして剥離し、蒼白く輝く頭蓋骨が肉の中から出現した。
頭蓋骨は見る見る姿を変え、蛇の顔を連想させる兜を作り出した。
ハーラが唯一手元に残した、“剥離の鎧”の兜と同じ形状であった。
「残る部分は何処だ?」
メルバは眼を瞑り、脳内のヒヒイロカネの欠片に意識を集中した。それによって、自分の傍にないものでも、ヒヒイロカネやその性質に極めて近いアポイタカラの場所を感知する事が出来る。
手元に、ワカフが自らの頭蓋骨と融合させていたアポイタカラ。
部屋の中には、トゥケィが持ち込んだ“剥離の鎧”の両腕部分。
ン・ダーモを追ってズァーカからトゥケィが出たらしい事が分かる。彼は頭部にヒヒイロカネの欠片を持ち、“剥離の剣”も携帯している。
そして、砦の何処かにアポイタカラがある事は分かっているのだが、その場所が特定出来ない。
ヴァーマ・ドゥエルの砦に近付けば、砦を囲む壁の中にアポイタカラがある事は分かったのだが、何処にどのようにして隠されているかまでは、分からなかった。
ならば直接、ヴァーマ・ドゥエルの中を歩いて、探すしかないだろう。
メルバは、ン・ダーモとトゥケィが駆け上がった地下室からの階段を、同じように上り始めた。
「ン・ダーモ! 待て!」
俺はン・ダーモを追って、階段を駆け上った。
俺の足は速かった。階段であろうとも、小石の取り払われた平地のように、軽々と進んだ。
暗闇の中でも平気で眼が見えた。眼を瞑っても、匂いや音、風の動きを感じる事で、ン・ダーモの後を追う事が出来る。
ン・ダーモは這うようにして階段を上り、談合の間に飛び出した。
俺はそこでン・ダーモを捕まえた。
「お前、あの女の言っていた事は本当なのか? 本当にヴァーマ・ドゥエルを……俺たちを売ったのか!?」
「うるせぇっ、この手を放せ、化け物!」
ン・ダーモは俺の手を振り払った。
俺の、鱗がびっしりと生え揃った手を。
俺がン・ダーモの言葉に動揺している間に、ン・ダーモは談合の間からも飛び出した。
神殿の階段を駆け上がり、外に出る心算だろう。
俺はすぐに追う事が出来なかった。
化け物……
そうか、俺は、化け物になってしまったのだ。
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