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転章 極刑
第一節 alliance
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アージュラ族は巨木の上に家を作り、鳥のように地上を見下ろしながら暮らしていた。
彼らの土木技術は、ダヴェヌラのものである。アージュラ族とはヴァーマ・ドゥエルから離反した者たちと合流した複数の部族の集まりの事だ。
金属器の製造技術も持っていたが、川向こうのヴァーマ・ドゥエルと違い、資源がない。なので、ヴァーマ・ドゥエルとの別離の際に持ち込んだ幾ばくかの金属を後生大事に使用していた。
それを変えたのは、一〇年前の大虐殺の折、ディバーダ族のナーガ・ゾデから送られた赤い鎧である。
アージュラ族はヒヒイロカネの力を知っており、“剥離の鎧”の胴体部分を分割して数名の精鋭戦士たちに配り、金属の皮膚を持った鎧戦士として前線に向かわせた。
差し当たっての敵となったのは、主にフィダス族とバックベム族である。フィダス族には奇怪な呪術を操る魔術師がおり、バックベム族は殺戮を生業とする凶暴な民族だ。川向を拠点とするヴァーマ・ドゥエル、リオディン・ダグラ族、ドドラグラ族、ディバーダ族を相手取る心算はなかった。
しかしそのフィダス族とバックベム族にも、ディバーダ族から赤き鎧の一部が送られていたらしい。“剥離の鎧”は呪術的な超能力を増幅する媒体としても使われ、元より獣染みた獰猛な集団との戦いに強力な鎧が加わった事は、アージュラ族を容易に追い詰めた。
だが、それはフィダス族やバックベム族から見ても同じ事であった。彼らは互いに侵略を行ないながらも、毎回攻め切る事が出来ず、いたずらに被害を出し合うばかりの日々を送っていた。
そして大虐殺から一〇年が経過した或る日、いつものように争っていた三部族の許を、彼が訪れた。
全身を包帯で包んだ男――ハーラ・グル・アーヤバである。
三部族の中には彼による虐殺の光景を未だに眼に焼き付けている者もおり、その姿を感知した瞬間に戦意を喪失した。その恐怖を乗り越えた者、そして彼の恐怖を知らない者は、敢えてハーラに挑み、そして抵抗らしい抵抗を見せずに撃退された。
アージュラ族の戦闘経験も、フィダス族の超能力も、バックベム族の獰猛さも、彼の前には無意味である。
再びあの凄惨な死の連鎖が訪れる事を恐れた三部族は結託し、ハーラ・グル・アーヤバに許しを請うた。同盟を結成するという名目で、事実上の軍門に下ったのである。
会合は、アージュラ族の本拠地、樹齢で一〇〇〇年を越えたと思しき樹上の小屋で行なわれた。
アージュラ族酋長、ゾーマ。
フィダス族族長、キャシャヴァ。
バックベム族首領、ギダ。
ハーラの前には、七つの生首が置かれている。それぞれの部族の内、彼に刃向かった者を殺し、その首を奪い取って、食している。
素手で頭蓋を割り、脳を掴み出して喰う。眼球も、耳も鼻も、歯の一つ、髪の毛一本さえ残さずに喰う。
そのハーラを前にして、三人は固唾を飲んでいた。
「お前たちとの同盟は、受け入れる心算だ」
ハーラは、血まみれの親指を赤ん坊のようにしゃぶって、言った。
「これ以上の殺し合いに、意味はないからな」
ハーラがやっていたのは主に一方的な殺戮であり、とても殺し合いとは言えない。又、ディバーダ族という全体的に戦闘力が高く、バックベム族以上に獰猛な怪物集団との戦いでも、この三部族らは窮地に立たされていた。三部族同士の殺し合いならば兎も角、ハーラからそうした言葉が出る事は不思議であった。
ともあれ、ディバーダ族の猛威から逃れられる可能性を見出した三部族の長たちはそれぞれ顔を見合わせて、ほぅと胸を撫で下ろしたようである。
「条件がある」
ハーラは生首の一つから眼球を取り出して、口の中に放り込んだ。
唇の端から垂れる視神経をちゅるっと吸い上げて、言う。
「この半島の統一を行なう。つまり、お前たち三部族を含む大規模集落全てが、俺の傘下に入るという事だ。そしてそれ以外の弱小部族をも取り込んで、一大王朝を築き上げるのだ」
その壮大な計画を、彼の大量殺戮狂ハーラ・グル・アーヤバが口にした事に三部族長たちは驚きを隠せなかった。しかし元より、周辺部族らを一括して統率する事は彼ら自身が望んでいた事でもある。最も高い戦闘力を持つディバーダ族がその陣頭指揮を執ってくれるのならば、ハーラの実力もあってまさに千人力である。
「その為には先ず、最大勢力であるヴァーマ・ドゥエルを攻略する。馬乗り族、鱗族は既に崩壊したも同然だからな……」
こうして、ハーラ・グル・アーヤバを頂点として、三部族は結託し、半島統一に向けて動き出したのである。
俺は、“穿孔の盾と矛”を纏ったメルバと対峙していた。
人の気配の消えた通りに立つ蒼い鎧は、真昼の陽光を浴びて冴え冴えと輝いていた。
蒼穹が結晶したなら、こうした存在になるのであろう。
その様子を、メルバの後方からオウマとカーラが眺めている。
彼らにとって、今の俺が信用に値するとは思えない。今の俺の姿は、鱗や獣毛こそ抜け落ちたものの、顔の骨格は獣に近い状態のままで、まさに半獣半人の異形だったからだ。そしてン・ダーモを殺している。そのン・ダーモは最期に、俺が砦をリオディン・ダグラ族に売ったと言い残していた。
オウマとカーラにしてみれば、その事を明かされた腹いせに、ン・ダーモを殺したようにも見える。
あの場にいた女たちだって、もう、俺を信じる事はないだろう。
オウマは俺を、リオディン・ダグラ族から女たちを取り戻した功績で以て長老の座に就かせようとしていたのかもしれないが、もう無理だ。
俺は今、ヴァーマ・ドゥエルにはあってはならない存在なのだ。
だがせめて――ハーラによって一度命を失った時、眠りの中で見た遥かな異世界の夢に現れた、黄金色に輝く女の言うように、生命を弄ぶ敵から命を守るという使命だけは、全うしたい。
ン・ダーモを殺した俺に、その資格はもうないのかもしれない。だが、生命をどうとも思わず戦乱へと導こうとするメルバを止める事だけは、しなくてはならない事だった。
「お前の思い通りにはさせない……」
俺は腰に帯びていた双剣を引き抜いた。
太陽のような輝き、血のような鮮やかさを持った剣は、石鉈の内部から現れたものだ。
両親が、その親が、先祖たちが封印し、守り、造り上げた太陽の剣だ。
ヒヒイロカネの特異な能力によって、今、この剣は羽根の如く軽やかに感じられる。そして俺の手足のように自在に操る事が出来る。
「剣だけで、私に敵うと思うな……?」
メルバが言った。
ヒヒイロカネを模して造られたアポイタカラ、そのアポイタカラで構成された“穿孔の盾と矛”……“剥離の鎧”が全て揃っていれば、赤い鎧の方が優れている。しかし俺の手元にはこの双剣のみ。
だがそれでも、やらなくてはならない。
このメルバが、“剥離の鎧と剣”と“穿孔の盾と矛”を使って、武力による統一、恐怖による支配を目論んでいるのならば、俺は引き下がる訳にはいかなかった。
これ以上、命を弄ぶ戦いをしてはいけないし、させてもいけない。
だからこれが最後の戦いとなるように、俺は、戦いを終わらせる為の戦いに、咎人として挑む。
「行くぞ、メルバ――」
「こい、獣戦士よ――」
メルバは肩に担いでいた“剥離の鎧”の両腕を地面に置き、俺に向けて指を引いた。
俺は双剣を携えて、蒼い鎧に向かって突っ込んだ。
右手の剣を打ち込んでゆくと、メルバは左の手刀で反撃した。
剣と鎧が激突し、火花が散る。それと共に、二つの鎧に秘められたエネルギーが空気中に波紋を起こして俺たちの周囲に拡散した。
強い風が吹き、地面に散らばっていた土や砂利を舞い上げる。
メルバが右の拳を繰り出した。俺は左の剣を逆手に持ち替え、刀身で受け止めた。同じくエネルギーの奔流が発生し、風が皮膚を叩く。
至近距離で何度も剣を振るう。それをメルバが防御する、その都度、空気が揺さ振られ、俺たちの攻防のパワーが地面に流れているように、石畳や周囲の家屋の壁に細かな亀裂が生じてゆく。
そして、剣と鎧が激突する都度、金属に特有の甲高い悲鳴が迸り、俺の脳を焼いていた。恐らく、その振動によって、俺の脳に埋め込まれたヒヒイロカネの欠片が共振し、俺の脳を刺激しているのだった。
俺の身体が再び変化を始める。骨格が太くなり、筋肉が大きくなり、脂肪が厚くなり、体毛が濃くなって硬くなる。皮膚は角質を積層して鈍色に染まり、獣毛が鱗を形成した。筋力も耐久力も攻防の内に上昇し、自然と打ち込まれる斬撃の威力も増倍した。
「ぐぉっ!」
咽喉から、火の塊のような呼気が漏れた。
振り上げた両手を槌として使うように、双剣を打ち下ろした。
メルバが両腕を重ねて、剣を受ける。
俺はそのまま剣を一気に引き下ろし、メルバのガードを開かせた。
赤と蒼の炎が燃える。
メルバのがら空きになった胴体に、右の剣で刺突を敢行した。
「――牟ッ!」
メルバの全身を蒼い燐光が覆ったかと思うと、俺の身体は後方に吹き飛ばされていた。
受け身を取って立ち上がった俺に、更なるメルバの念動力が迫る。
「禍ッ!」
突き出されたメルバの両手から、光の奔流が襲う。
俺は咄嗟に双剣を前に出して十字に重ねた。するとメルバの蒼い光によって刀身が輝きを増し、そして打ち込まれた光は霧散して行った。
そうか、あの念動力は彼女が脳に埋め込んだヒヒイロカネの影響で手にしたものなのだ。俺はそれに気付いた。そしてヒヒイロカネやアポイタカラはその念動力を増幅する。そして同時に消失させる事も出来るのだ。
メルバは更に強力な念動力を放つべく、身体から溢れ出した光を両手の間に集束させた。ハーラが使っていた魔力と同じような光景だった。
放たれた光球状の念動力を、俺は十字に交差した剣で受け流しつつ突進。
強化された脚力で一息に間合いを詰めて、二度、鎧を斬り付けて行った。
彼らの土木技術は、ダヴェヌラのものである。アージュラ族とはヴァーマ・ドゥエルから離反した者たちと合流した複数の部族の集まりの事だ。
金属器の製造技術も持っていたが、川向こうのヴァーマ・ドゥエルと違い、資源がない。なので、ヴァーマ・ドゥエルとの別離の際に持ち込んだ幾ばくかの金属を後生大事に使用していた。
それを変えたのは、一〇年前の大虐殺の折、ディバーダ族のナーガ・ゾデから送られた赤い鎧である。
アージュラ族はヒヒイロカネの力を知っており、“剥離の鎧”の胴体部分を分割して数名の精鋭戦士たちに配り、金属の皮膚を持った鎧戦士として前線に向かわせた。
差し当たっての敵となったのは、主にフィダス族とバックベム族である。フィダス族には奇怪な呪術を操る魔術師がおり、バックベム族は殺戮を生業とする凶暴な民族だ。川向を拠点とするヴァーマ・ドゥエル、リオディン・ダグラ族、ドドラグラ族、ディバーダ族を相手取る心算はなかった。
しかしそのフィダス族とバックベム族にも、ディバーダ族から赤き鎧の一部が送られていたらしい。“剥離の鎧”は呪術的な超能力を増幅する媒体としても使われ、元より獣染みた獰猛な集団との戦いに強力な鎧が加わった事は、アージュラ族を容易に追い詰めた。
だが、それはフィダス族やバックベム族から見ても同じ事であった。彼らは互いに侵略を行ないながらも、毎回攻め切る事が出来ず、いたずらに被害を出し合うばかりの日々を送っていた。
そして大虐殺から一〇年が経過した或る日、いつものように争っていた三部族の許を、彼が訪れた。
全身を包帯で包んだ男――ハーラ・グル・アーヤバである。
三部族の中には彼による虐殺の光景を未だに眼に焼き付けている者もおり、その姿を感知した瞬間に戦意を喪失した。その恐怖を乗り越えた者、そして彼の恐怖を知らない者は、敢えてハーラに挑み、そして抵抗らしい抵抗を見せずに撃退された。
アージュラ族の戦闘経験も、フィダス族の超能力も、バックベム族の獰猛さも、彼の前には無意味である。
再びあの凄惨な死の連鎖が訪れる事を恐れた三部族は結託し、ハーラ・グル・アーヤバに許しを請うた。同盟を結成するという名目で、事実上の軍門に下ったのである。
会合は、アージュラ族の本拠地、樹齢で一〇〇〇年を越えたと思しき樹上の小屋で行なわれた。
アージュラ族酋長、ゾーマ。
フィダス族族長、キャシャヴァ。
バックベム族首領、ギダ。
ハーラの前には、七つの生首が置かれている。それぞれの部族の内、彼に刃向かった者を殺し、その首を奪い取って、食している。
素手で頭蓋を割り、脳を掴み出して喰う。眼球も、耳も鼻も、歯の一つ、髪の毛一本さえ残さずに喰う。
そのハーラを前にして、三人は固唾を飲んでいた。
「お前たちとの同盟は、受け入れる心算だ」
ハーラは、血まみれの親指を赤ん坊のようにしゃぶって、言った。
「これ以上の殺し合いに、意味はないからな」
ハーラがやっていたのは主に一方的な殺戮であり、とても殺し合いとは言えない。又、ディバーダ族という全体的に戦闘力が高く、バックベム族以上に獰猛な怪物集団との戦いでも、この三部族らは窮地に立たされていた。三部族同士の殺し合いならば兎も角、ハーラからそうした言葉が出る事は不思議であった。
ともあれ、ディバーダ族の猛威から逃れられる可能性を見出した三部族の長たちはそれぞれ顔を見合わせて、ほぅと胸を撫で下ろしたようである。
「条件がある」
ハーラは生首の一つから眼球を取り出して、口の中に放り込んだ。
唇の端から垂れる視神経をちゅるっと吸い上げて、言う。
「この半島の統一を行なう。つまり、お前たち三部族を含む大規模集落全てが、俺の傘下に入るという事だ。そしてそれ以外の弱小部族をも取り込んで、一大王朝を築き上げるのだ」
その壮大な計画を、彼の大量殺戮狂ハーラ・グル・アーヤバが口にした事に三部族長たちは驚きを隠せなかった。しかし元より、周辺部族らを一括して統率する事は彼ら自身が望んでいた事でもある。最も高い戦闘力を持つディバーダ族がその陣頭指揮を執ってくれるのならば、ハーラの実力もあってまさに千人力である。
「その為には先ず、最大勢力であるヴァーマ・ドゥエルを攻略する。馬乗り族、鱗族は既に崩壊したも同然だからな……」
こうして、ハーラ・グル・アーヤバを頂点として、三部族は結託し、半島統一に向けて動き出したのである。
俺は、“穿孔の盾と矛”を纏ったメルバと対峙していた。
人の気配の消えた通りに立つ蒼い鎧は、真昼の陽光を浴びて冴え冴えと輝いていた。
蒼穹が結晶したなら、こうした存在になるのであろう。
その様子を、メルバの後方からオウマとカーラが眺めている。
彼らにとって、今の俺が信用に値するとは思えない。今の俺の姿は、鱗や獣毛こそ抜け落ちたものの、顔の骨格は獣に近い状態のままで、まさに半獣半人の異形だったからだ。そしてン・ダーモを殺している。そのン・ダーモは最期に、俺が砦をリオディン・ダグラ族に売ったと言い残していた。
オウマとカーラにしてみれば、その事を明かされた腹いせに、ン・ダーモを殺したようにも見える。
あの場にいた女たちだって、もう、俺を信じる事はないだろう。
オウマは俺を、リオディン・ダグラ族から女たちを取り戻した功績で以て長老の座に就かせようとしていたのかもしれないが、もう無理だ。
俺は今、ヴァーマ・ドゥエルにはあってはならない存在なのだ。
だがせめて――ハーラによって一度命を失った時、眠りの中で見た遥かな異世界の夢に現れた、黄金色に輝く女の言うように、生命を弄ぶ敵から命を守るという使命だけは、全うしたい。
ン・ダーモを殺した俺に、その資格はもうないのかもしれない。だが、生命をどうとも思わず戦乱へと導こうとするメルバを止める事だけは、しなくてはならない事だった。
「お前の思い通りにはさせない……」
俺は腰に帯びていた双剣を引き抜いた。
太陽のような輝き、血のような鮮やかさを持った剣は、石鉈の内部から現れたものだ。
両親が、その親が、先祖たちが封印し、守り、造り上げた太陽の剣だ。
ヒヒイロカネの特異な能力によって、今、この剣は羽根の如く軽やかに感じられる。そして俺の手足のように自在に操る事が出来る。
「剣だけで、私に敵うと思うな……?」
メルバが言った。
ヒヒイロカネを模して造られたアポイタカラ、そのアポイタカラで構成された“穿孔の盾と矛”……“剥離の鎧”が全て揃っていれば、赤い鎧の方が優れている。しかし俺の手元にはこの双剣のみ。
だがそれでも、やらなくてはならない。
このメルバが、“剥離の鎧と剣”と“穿孔の盾と矛”を使って、武力による統一、恐怖による支配を目論んでいるのならば、俺は引き下がる訳にはいかなかった。
これ以上、命を弄ぶ戦いをしてはいけないし、させてもいけない。
だからこれが最後の戦いとなるように、俺は、戦いを終わらせる為の戦いに、咎人として挑む。
「行くぞ、メルバ――」
「こい、獣戦士よ――」
メルバは肩に担いでいた“剥離の鎧”の両腕を地面に置き、俺に向けて指を引いた。
俺は双剣を携えて、蒼い鎧に向かって突っ込んだ。
右手の剣を打ち込んでゆくと、メルバは左の手刀で反撃した。
剣と鎧が激突し、火花が散る。それと共に、二つの鎧に秘められたエネルギーが空気中に波紋を起こして俺たちの周囲に拡散した。
強い風が吹き、地面に散らばっていた土や砂利を舞い上げる。
メルバが右の拳を繰り出した。俺は左の剣を逆手に持ち替え、刀身で受け止めた。同じくエネルギーの奔流が発生し、風が皮膚を叩く。
至近距離で何度も剣を振るう。それをメルバが防御する、その都度、空気が揺さ振られ、俺たちの攻防のパワーが地面に流れているように、石畳や周囲の家屋の壁に細かな亀裂が生じてゆく。
そして、剣と鎧が激突する都度、金属に特有の甲高い悲鳴が迸り、俺の脳を焼いていた。恐らく、その振動によって、俺の脳に埋め込まれたヒヒイロカネの欠片が共振し、俺の脳を刺激しているのだった。
俺の身体が再び変化を始める。骨格が太くなり、筋肉が大きくなり、脂肪が厚くなり、体毛が濃くなって硬くなる。皮膚は角質を積層して鈍色に染まり、獣毛が鱗を形成した。筋力も耐久力も攻防の内に上昇し、自然と打ち込まれる斬撃の威力も増倍した。
「ぐぉっ!」
咽喉から、火の塊のような呼気が漏れた。
振り上げた両手を槌として使うように、双剣を打ち下ろした。
メルバが両腕を重ねて、剣を受ける。
俺はそのまま剣を一気に引き下ろし、メルバのガードを開かせた。
赤と蒼の炎が燃える。
メルバのがら空きになった胴体に、右の剣で刺突を敢行した。
「――牟ッ!」
メルバの全身を蒼い燐光が覆ったかと思うと、俺の身体は後方に吹き飛ばされていた。
受け身を取って立ち上がった俺に、更なるメルバの念動力が迫る。
「禍ッ!」
突き出されたメルバの両手から、光の奔流が襲う。
俺は咄嗟に双剣を前に出して十字に重ねた。するとメルバの蒼い光によって刀身が輝きを増し、そして打ち込まれた光は霧散して行った。
そうか、あの念動力は彼女が脳に埋め込んだヒヒイロカネの影響で手にしたものなのだ。俺はそれに気付いた。そしてヒヒイロカネやアポイタカラはその念動力を増幅する。そして同時に消失させる事も出来るのだ。
メルバは更に強力な念動力を放つべく、身体から溢れ出した光を両手の間に集束させた。ハーラが使っていた魔力と同じような光景だった。
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