魔獣、往くべしREBOOT

石動天明

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序章 美少年

Part2 月樹学園

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 私立月樹つきき学園――

 首都東京では毎日のように何処かで開発が進められており、この月樹学園もその一環として新たに設立された学校法人である。少子化によって生徒数の激減した幾つかの学校が、一つに統合されたものであった。お陰で設立から数年しか経っていないにも拘らず、下手な名門にも迫る職員・生徒数を誇っていた。

 生徒はピンからキリまでで、都や区で目立った成績は出していないが、時折新聞にその名前が出るくらいには実力を備えている。

 都会には珍しい広い校庭に、空中回廊で繋げられた、五階建ての二つの校舎。更に三階建ての体育館があり、屋内プールまで常備されている。

 龍一が転校して来た涼子のクラス――3―Cの教室は、東棟の四階にあり、購買部は東西の棟の間、裏門に面する形で立てられている中央棟にあった。

 中央棟は他の建物と比べるとプレハブ建築のようなものであったが、それでも教室三つ分の広さはあり、二階には職員室があって、一階の購買の騒がしさから生徒たちの様子を観察出来るようになっている。

 購買部では総菜パンや菓子パン、弁当の他、ペットボトルや缶の飲み物、スナック菓子、ソフトクリームなどが販売されている。特筆する程に旨いという訳ではないのだが、コンビニで買うよりも安く上がる商品があり、小遣いの少なさに嘆く生徒には助けの神である。

 龍一は人波に揉まれながら、大人気のカレーパンと焼きそばパンを買い、弁当を持参している涼子は甘味を欲してクリームメロンパンを購入した。

「東棟を一通り見たら、屋上に行こっ。空が近くて、風が気持ち良いよぉ」

 と、涼子が言うので、校舎に戻って、東棟の屋上へ向かった。

 東西棟間の空中回廊は、四階と二階に設置されている。この二つの渡り廊下は、正面から見ると上下に並んでいるように見えるが、実際は奥行きがあって、四階のものが手前に、二階のものが奥にある。この間に、斜めに階段が掛けられていた。階段は、左右を三本の柱で支えられており、その土台は地上から人の腰の高さまで盛り上がり、椅子として使われる場合もあった。

 二人は昼食を持ったまま、東棟に一階から入り、順に特別教室や保健室などの場所を確認しながら、階段を上ってゆく。

 東棟の階段は三ヶ所に設置されており、昇降口の正面と、建物の中心と、裏口付近がそれだ。

 西棟の間の扉から入って東へ向かうと、一年生のCからFクラスまでの教室が並び、昇降口前の階段を挟んで応接室と資料室、保健室がある。保健室の角で北に曲がると、右手に体育館棟への渡り廊下が見えるが、真っ直ぐ進めば入り口の分かり難い男女のトイレがあった。

 建物を南北に分断するように廊下があり、北側の教室は自習室という事になっていた。

 中心の階段から二階に上がると、二年生のCからGまでの教室がある。特別教室は情報の授業やレポート課題に使用するであろうパソコンが並んだPCルームと、理科室があった。

 三階には、三年生のFとGの教室、更に広い図書館。

 龍一たちの教室がある四階には、三年生のCからEクラス、AETで使用するパソコンのある英会話室。

 五階には三年生と二年生の特進コースであるA・Bクラスが入っている。

 東棟を一通り案内した所で、裏口側の階段の先にある屋上への階段を上がり始めた。

「早く早く!」

 と、急かす涼子に、白い顔を赤くする所か却って余計に白くして、青息吐息で付いてゆく龍一。

 五階までの階段は幅広で、五、六人が広がって歩けるくらいだが、屋上への階段は小柄な人間がどう詰めても二人くらい通るのが限界である。

 その階段を、とんとんと軽やかに登ってゆく涼子。

 龍一は踊り場で一旦呼吸を整えて、手すりを握って顔を持ち上げた。

 涼子は既に階段を上がった先のドアの前に立っており、スカートさえ翻している。筋肉がしっかりと付いた太腿が、ミニスカートの内側で白く光っているように見えた。

 どきり――階段を駆け上がるたびに上下左右に揺れ動いていた布が角度の所為か大きく捲り上がって見えた。太いけれど引き締まった脚を伸ばす暗闇の底に、龍一の眼が向きそうになる。

「ほーらっ、何へばってるの? しっかりしなさい男の子!」

 涼子は屋上へのドアを開けた。すると外の光がぱっと射し込んで来て、龍一の視界を焼きそうになった。捲れ上がりそうであったスカートの中身が、今度は白い闇によって覆い隠されてしまったみたいだ。

 龍一は、仄かに残念と思いつつ、そんな下心を抱いた自分を恥ずかしく感じながら、階段に脚を掛けた。

 屋上に出るとふわりと風が吹き付けて来て、龍一の長い前髪が舞い上がった。涼子はその一瞬、龍一の瞳が蒼空のような煌きを放ったように見えた。いや、太陽を浴びて白く瞬く海から、水滴を纏って水平線に跳び上がる魚の鱗のような虹色だ。

「どぉ? 結構、良いでしょ」

 屋上には東屋が四つ建てられている。東屋の下には木のテーブルと、それを四方から囲む四基のベンチがセットされていた。食事を摂るには打って付けのようだが、この日は利用する人間がいないようであった。

「西棟の案内は、明日やってあげる! 授業では向こうも使う時があるからね。それに、体育館の方も……」
「ありがとう、こんな事までして貰っちゃって……」
「良いのよ! だって、久し振りに会った幼馴染みじゃない」

 龍一と涼子は、東屋の一つに入って、食事を始めた。途中の紙パック飲み物の自動販売機で、龍一はミルクを、涼子はアイスココアを買っており、テーブルの上に購買の総菜パンに合わせた。

 龍一は焼きそばパンとカレーパンを、鼠がするように小さな一口を何度も繰り返してゆっくりと咀嚼した。対して涼子は、持参した大きめの弁当箱にたっぷりと詰められたメニューを掻っ込むようにして、最後にクリームメロンパンを食べた。

「リュウってば、相変わらず小食なのね」
「涼子ちゃんは、相変わらず良く食べるみたいだね」

 互いに、懐かしい思いを込めて言った。

 涼子は昔から、ご飯を何杯もお代わりするような子だった。一方で龍一は、小振りなお茶碗一杯をやっとの事で食べ終える事しか出来なかった。小学生の時などは、昼休みが終わるまで机に嚙り付いて、涙目になりながら漸く食べ終えたくらいだ。

 流石に昔よりは食べられるようになっているとは思うが、それでも年頃の男子高校生の食べる量からすると少ない。

 涼子は龍一の記憶と変わらず、肉でも野菜でも果物でも、何でも楽しそうに口に運んで、嬉しそうに噛み締めて飲み込んでしまう。

「えへへっ、まーね! 体力付けなきゃだし!」

 と、深めの笑窪を作って涼子。
 その笑顔は龍一の記憶にあるものと、殆ど変わっていないように思えた。

「そうそう、ここは部活も色々とあるんだけど、リュウは何か入る予定とかある? 前の学校で何かやってたりした?」
「ううん、そういうのは……涼子ちゃんは何かやってるの?」

 そう訊き返されるのを待っていたとばかりに、涼子が眼を細めて立ち上がった。そうして東屋から外に出て、屋根のない中央に立つと、龍一の視線が動くのを待ってぱっとブレザーを脱ぎ捨てた。

 何が始まったのか!? 戸惑う龍一の前で、涼子はブラウスの前を開けてはだけさせた。

「じゃーん!」

 と、つい眼を伏せそうになった龍一の前で、腰に手を当てて傲然と胸をそびやかす涼子。ブラウスの下にあったのは下着のシャツではなく、身体にぴったりと張り付く赤の布地だった。

「……水着? ああ、水泳……」
「ぴんぽーん!」

 それに加えてスカートを自ら捲ってみせる涼子。龍一は眼を逸らす事も忘れて視線を釘付けにしてしまった。だが、スカートの内側にあったのは上半身とワンピースになった伸縮性に富む赤色の生地である。その場でくるりと回ってお尻を見せても、頬肉までしっかりと覆われていた。

「私、この辺りで一番速いんだよ!」

 服をはだけさせているという羞恥を欠片も感じさせず、寧ろ自慢げに制服の間から覗く水着を見せ付けて、涼子は龍一に笑い掛けたのであった。
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