9 / 56
第5話「黄昏時」①
しおりを挟む
《ガラガラガラ》
バス停のすぐ横には、小さな駄菓子屋があった。店は今でこそ駄菓子屋だが、ずっと昔から、それこそ何代にもわたって、この海岸通りで何かしら商いを続けており、私のおばあちゃんで七代目になる。
木製の格子戸を引くと、葉っぱ模様のガラスが一斉に音を立てる。それに混じってドアベルの音が聞こえた。シャラシャラと、涼しげな音が耳に心地よい。店には夕陽が差し込み、淡いオレンジで部屋の中は満たされていた。切り取られた影が待ちかねたように、主である私より先に中へと入る。
「こーんばーんはー!」店の奥へと声をかける。少しして、奥の部屋からおばあちゃんがゆっくりと現れた。
「ジュース持っていっていい?」おばあちゃんは笑顔で優しく頷くと、そっと土間へ下り、椅子へと腰掛けた。
「今日は遅いのね」
「うん。ちょっとね」
店の前にある冷蔵庫を開け、ジュースを選びながら答える。私は水分補給をするとして、彼は多分お疲れだろうから、エナジードリンクとかがよいのだろうか。いろいろ考えを巡らせる。
「じゃ、持っていくね」
「それは構わないけど、早く帰るのよ?」
心からの心配がその声に滲んでいる。
「わかってるって」
ジュースを両手にぶら下げて、店の中へ声をかける。私だって心配はかけたくない。できるだけ元気よく、それでいて申し訳なさをちょっぴり込めてそう言った。
おばあちゃんが小さく頷いたように見えたので、小さくじゃあねと言って、格子戸をゆっくりガラガラと閉めた。来た時と同じドアベルのシャラシャラが、バス停へ向かう私の背中を見送る。じきにバス停に着いた私は、中のベンチに腰掛けた。
夕方の海岸通りは車の往来もまばらで、時折、近所の住人が目の前を自転車で通り過ぎる程度だ。軽い会釈を交わして、徐々に遠ざかる後ろ姿と、黄昏時に別れを告げる。
待ち人はまだ来ない。別に待ち合わせを約束したわけでもないから、海でも眺めてのんびりと待つつもりだった。
水平線の彼方から、夕陽が私へ向かって真っ直ぐに伸びて、水面がキラキラと輝く。夕暮れの緋色は、徐々に深まる藍色にその場を譲り渡して、儚く静かに消えようとしていた。二色がせめぎ合うグラデーションがとても美しくて、何故だかとても泣きたくなった。あまり見なくても済むように、帽子を深くかぶり直す。
程なくして、遠くからバスの音が聞こえてきた。なんとなく立ち上がる。彼は乗っているだろうか。
バス停のすぐ横には、小さな駄菓子屋があった。店は今でこそ駄菓子屋だが、ずっと昔から、それこそ何代にもわたって、この海岸通りで何かしら商いを続けており、私のおばあちゃんで七代目になる。
木製の格子戸を引くと、葉っぱ模様のガラスが一斉に音を立てる。それに混じってドアベルの音が聞こえた。シャラシャラと、涼しげな音が耳に心地よい。店には夕陽が差し込み、淡いオレンジで部屋の中は満たされていた。切り取られた影が待ちかねたように、主である私より先に中へと入る。
「こーんばーんはー!」店の奥へと声をかける。少しして、奥の部屋からおばあちゃんがゆっくりと現れた。
「ジュース持っていっていい?」おばあちゃんは笑顔で優しく頷くと、そっと土間へ下り、椅子へと腰掛けた。
「今日は遅いのね」
「うん。ちょっとね」
店の前にある冷蔵庫を開け、ジュースを選びながら答える。私は水分補給をするとして、彼は多分お疲れだろうから、エナジードリンクとかがよいのだろうか。いろいろ考えを巡らせる。
「じゃ、持っていくね」
「それは構わないけど、早く帰るのよ?」
心からの心配がその声に滲んでいる。
「わかってるって」
ジュースを両手にぶら下げて、店の中へ声をかける。私だって心配はかけたくない。できるだけ元気よく、それでいて申し訳なさをちょっぴり込めてそう言った。
おばあちゃんが小さく頷いたように見えたので、小さくじゃあねと言って、格子戸をゆっくりガラガラと閉めた。来た時と同じドアベルのシャラシャラが、バス停へ向かう私の背中を見送る。じきにバス停に着いた私は、中のベンチに腰掛けた。
夕方の海岸通りは車の往来もまばらで、時折、近所の住人が目の前を自転車で通り過ぎる程度だ。軽い会釈を交わして、徐々に遠ざかる後ろ姿と、黄昏時に別れを告げる。
待ち人はまだ来ない。別に待ち合わせを約束したわけでもないから、海でも眺めてのんびりと待つつもりだった。
水平線の彼方から、夕陽が私へ向かって真っ直ぐに伸びて、水面がキラキラと輝く。夕暮れの緋色は、徐々に深まる藍色にその場を譲り渡して、儚く静かに消えようとしていた。二色がせめぎ合うグラデーションがとても美しくて、何故だかとても泣きたくなった。あまり見なくても済むように、帽子を深くかぶり直す。
程なくして、遠くからバスの音が聞こえてきた。なんとなく立ち上がる。彼は乗っているだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる