いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第6話「時間」①

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    今日は検査の日だったのに、それをすっぽかしてしまったので祖父にこっぴどく叱られた。

    田舎の小さな診療所では、設備も充分ではないため大した検査もできない。なので、本格的な検査は街の大きな病院で受けることにしていた。それなのに、前日の無理がたたって私は夕方まで寝込んでしまった。そんな状態では連れ出すこともできず、受け入れ体制だった病院をキャンセルすることになった。祖父は大層ご立腹だった。
    ひぐらしの鳴き声とともに、個室に夕陽が入り込む。ベッドに起き上がり、祖父の説教を聞きながら、シーツが夕焼け色に染まるのを眺めていた。

「まったく。お前には困ったもんだ」見舞客用の丸椅子にどかっと座り、腿に肘を置き頬杖をついて、祖父はそう言った。

「確かに、『考える時間をつくれ』と言ったのはわしだが、周りの人間に迷惑をかけてもいいと言った覚えはないぞ」
「わかってるよ…」
    完全に私に非があるので、ぐうの音も出なかった。
「ちいちゃんは?」思わず味方を探す。
「おらん。店に行っとるんだろう」
    祖父がぶっきらぼうに答えた。祖父のことは大好きだったが、私の病気のこととなると話は別だった。心配してくれているからとわかってはいても、その押しの強さにいつも萎縮してしまっていた。


    祖父は若かりし頃、都会の大きな大学病院で、当時としては異例の三十代という若さで准教授を務めたほどの人物で、教授職のポストを巡ってライバルと日夜、熾烈な権力闘争を繰り広げていたという。
    そんな祖父は、患者だった祖母に一目惚れして、周囲の反対を押し切り、それまでの地位も名誉も捨てて、半ば婿入りする形でこの町へやってきたらしい。普段の飄々とした風体と、お酒が入ると必ず聞かされる話だったこともあって、話半分に受け止めていた。
    なんでも、重い心臓病を患う無垢で可憐な美少女との出会いで、若く血気盛んで権力志向の強い医者だった自分が、心を改め真の医者魂に目覚める。そんな一大ロマンスだそうだ。

「いい加減、わしの言うことも聞いたらどうだ。時間は充分に与えたはずだ」
    黙って外を見る私に、祖父はなおも続けた。

「手術を受けん限り、その胸の苦しさはどうにもならん。徐々に体力は減り、しまいには…」

    その先は言わなかった。きっと今年の春に、一人暮らしを始めたアパートで倒れたときのことを言っているのだろう。せっかく無理を言って許してもらった一人暮らしも、一月もしないうちに終わりを迎えた。
    たまたまその日に約束があった母が訪ねてくれていなければ、どうなっていただろう。


「そうだよね…」
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