いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第7話「見上げた夜空」③

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    必死でもがいていると、風の具合からか一瞬だけ、波のうねりがおさまった。この機を逃せば本当に死ぬかもしれない。そう思い、口の中の海水を飲み込んで、声の限り叫んだ。喉が焼けるように痛む。

「…………!!!」

    もはや言葉にならないその音が、そこにいるはずの誰かに届いたのか確かめる間もなく、また海の中へと引き戻される。今度こそ離れていく街灯の明かりを見ながら、もうだめだと諦めかけたときだった。
    明かりに影が差し、それが大きくなっていって、水面に波紋が生まれた。そして、影が少しずつ自分に近づいてくる。人だと分かった次の瞬間には、その腕に抱かれていた。さっきの声の主だろうか。安堵とともに、息苦しさがやってくる。
    ようやく海面から顔を出し、二人で咳き込む。自分を助けた誰かはあまり泳ぎが得意ではないようで、でたらめに手足をバタつかせている。それでも、目の前の子どもを心配させまいとしてか、波に打たれながらも懸命に声をかけてくれた。


「樹くん…だよね!?」

    知らない人だった。水しぶきに顔をしかめながら笑顔を見せる。返事をすることもままならなかったので、しがみついた両手に、精一杯の力を込めて応えた。

「大丈夫、もう大丈夫だから」

    そう言うと、街灯に向かって泳ぎ始めた。明かりの大きさから、かなり流されてしまったことがわかった。恐怖心と祈るような気持ちから目をぎゅっと瞑る。
    口を開けば海水が入るため、息継ぎもままならなかったが、助けてもらえた安心感からか、それとも緊張の糸が切れたのか、次第に意識が遠のくのを感じた。



    体を揺すられ、気がついたときには全ては終わっていた。
    目を開けると父の顔がそこにあった。意識が戻ったことを確認すると、父は顔をくしゃくしゃにして俺を抱きしめた。

「よかった…よかった…!」

    声は震えていた。当時の俺の知る限り、最も恐ろしい人間だった父が泣いていた。それだけで、どれほどの心配をかけたのか幼心に思い知った。そして、思いっきり平手をくらった。左頬に痛みと、少し遅れてじんじんと熱を感じた。いつもなら泣き喚くところだったが、今はそれをしてはいけないと思って、ぎゅっと唇を噛んだ。
    父が俺から離れてふらふらとどこかへ歩いて行く。俺もゆっくりと立ち上がろうとするが、まるで自分の足ではないような感覚がして、うまくいかない。足が重く、もつれる。
    ぼんやりとした意識がようやく定まってくるにつれ、自分たちがまだ波止場にいることと、女の人のすすり泣く声に気付いた。そちらに目を向けると、父は額をこすりつけるように土下座をしていた。その前には、自分を助けてくれたあの男の人がコンクリートの上に横たわっていて、その男の人にすがりいて泣いている女の人、そして、ぎゅっと両手を握りしめて声も出さずに泣いている志保の姿があった。
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