いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
18 / 56

第7話「見上げた夜空」⑤

しおりを挟む
    いつものバス停に着いた。つま先を見つめ、鬱々とした気分でバスを降りる。そういえばと、数日前に千鶴に頭を撫でられたことを思い出す。

『ぱーっと遊んじゃえばいいんだよ』

    小さな体で、両手をめいっぱいに広げる千鶴の姿が、ふと脳裏に浮かんだ。少しだけ気分が上向いた気がした。


(さすがに今日はいないよな…)そう思って、顔を上げた。そして思わず「うおっ」と声を上げた。

    そこには、停留所の蛍光灯の明かりの下で、ベンチにもたれ掛かってすやすや眠る千鶴がいた。
    そっと近づいてみると、穏やかな寝息が聞こえる。頬を数回つついてみるが、起きる気配がない。とりあえず、並んでベンチに腰掛ける。


「いつからここに…」

    夜になって涼しくなったとはいえ、よくこんなところで眠れるものだと感心した。第一、田舎とは言え女の子が外でうたた寝だなんて、物騒にもほどがある。

「おい、千鶴。おいってば」肩を揺する。まだ起きない。

    どうしたものかと考えていると、千鶴の体がずりずりと滑ってこちらにもたれ掛かってきた。これでもまだ起きる様子がない。
    十歩もすれば家に着く千鶴と違って、家で待つ父のことを思えばすぐに帰るべきなのだが、どのみちどやされるならばと、しばらくこのままにしておこうと思った。千鶴は今や俺の肩に頭を預けて、なおも眠り続けている。
    風呂上がりに涼んででもいたのだろうか。千鶴から石鹸の香りがした。いやいやと頭を振り、雑念を振り払う。そしてまた、千鶴をみる。
    なんとなく、頭を撫でてみる。『これはあれだ、あのときの仕返しなのだ』と、自分に言い聞かせる。そして、頬でもつねってみるかと、手を触れたそのときだった。


「いつき?」

心臓が危うく口から飛び出しそうになる。千鶴は目を覚ましていた。

「起きてたのかよ!」激しく動揺する。

「まあね」
「い、いつから…?」

    聞きたくはないが、聞かないわけにもいかない。千鶴は相変わらず俺の肩に頭を置いたまま、どこか愉快げに答えた。

「ほっぺをつつかれた後。いつきが私の寝込みを襲おうとして、『いや、こんなことはしちゃダメだ!』って思いとどまったところ?」
「割と序盤じゃねぇか…。起きろよ」
「いやーほら…なんか可愛かったから?」
「ほ、ほほー…」

(こいつ、中学生のくせにませやがって)

「おかえり」
「え?」
「だから…おかえり」
「あ、ああ」

   会えばいつも天真爛漫な千鶴が、今日はやけに静かだった。

「予備校?」
「ああ」
「どうだった?」
「あんまり」
「そっか」

    口数が少ないことが気にかかったが、そのままにしておいた。話したくなったら話すだろう。なんとなく、そんな気がした。出会ってそれほど経っていないが、なんとも言い難い信頼関係のようなものが芽生えているように感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...