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第8話「母と娘」②
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父が亡くなってからというもの、その事実を忘れようとするかのように、母は仕事に打ち込むようになった。段々と帰りは遅くなり、独立して個人事務所を構えてからは二人で同じ食卓を囲むこともなくなった。私は私で母の邪魔をしたくなかったので、甘えてわがままを言わないようにしていた。
いや、それは嘘かもしれない。実際は仕事で頭を一杯にして毎日を過ごす母に、鬼気迫るものを感じて内心怖かった。それに、私自身も父の死を受け入れる時間が欲しかったので、一人で過ごせるのは正直有り難かった。
数週間振りの親子の再会にしては、妙な緊張感が二人の間に漂っていた。そんな中、先に口を開いたのは母だった。
「で、結局あんたはどうしたいの?このままずっと、目の前の嫌なことから目を背けていれば、いつの間にか物事が勝手に片付くとでも思っているの?」
「別に、そんなこと思ってない…」
「だったら手術を受けなさい。これ以上悪化して体力が落ちれば、それこそ手術どころじゃなくなるの、わかってるでしょ?」
母の目が真っ直ぐ私を射抜く。私は思わず俯いた。手術の必要性については充分にわかっていたし、身をもって体験もしていた。
倒れた日のことを思い出す。突然の胸の痛み。呼吸がどんどん浅くなって、目の前が真っ暗になる。手も足も思うように動かせない。恐怖が体を支配する。もう二度と、あんな思いをするのはごめんだった。
しかし…
「もうちょっと…もうちょっとだけ、時間が欲しい…」理由は言えなかったが、きちんと母の目を見てそう言った。
聞き分けのない娘に呆れてか、それとも情けなさからか、母の目元が一瞬歪んで、視線は床に向けられた。
「そう…分かったわ。好きにしなさい…」そう言うと、ひったくるようにバックを掴み取って、母は足早に病室を出て行った。
私はひどい娘かもしれない。そう思うと悲しくてやりきれなかった。目から落ちる雫が、シーツを水玉に染めていた。
いや、それは嘘かもしれない。実際は仕事で頭を一杯にして毎日を過ごす母に、鬼気迫るものを感じて内心怖かった。それに、私自身も父の死を受け入れる時間が欲しかったので、一人で過ごせるのは正直有り難かった。
数週間振りの親子の再会にしては、妙な緊張感が二人の間に漂っていた。そんな中、先に口を開いたのは母だった。
「で、結局あんたはどうしたいの?このままずっと、目の前の嫌なことから目を背けていれば、いつの間にか物事が勝手に片付くとでも思っているの?」
「別に、そんなこと思ってない…」
「だったら手術を受けなさい。これ以上悪化して体力が落ちれば、それこそ手術どころじゃなくなるの、わかってるでしょ?」
母の目が真っ直ぐ私を射抜く。私は思わず俯いた。手術の必要性については充分にわかっていたし、身をもって体験もしていた。
倒れた日のことを思い出す。突然の胸の痛み。呼吸がどんどん浅くなって、目の前が真っ暗になる。手も足も思うように動かせない。恐怖が体を支配する。もう二度と、あんな思いをするのはごめんだった。
しかし…
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