いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
23 / 56

第9話「待ち人」②

しおりを挟む
    テープか何かに見えたそれは、車に轢かれて潰された体長三十センチほどの蛇だった。このあたりでは特に珍しいものではない。朝起きて仲良く添い寝していたのを見たときは、飛び上がって逃げたものだが。


「クーリッシュ血管に流し込んだら、涼しくなると思う?」なんとなく聞いてみたけど、もちろん返事はない。アーメン。

    あまりの暑さにどこかへ逃げようとでもしていたのだろうか。命の抜殻。私はなんとなく目が離せなかった。
    すると、目の前のアスファルトに突然影ができた。同時に頭の上あたりからあの人の声がした。

「朝っぱらから何してんだ?そんなところで。危ないだろ」

    樹がこちらを見下ろしていた。空には立派な入道雲。見上げるような格好だったので、樹が光を放っているように見えた。

「眩しいぜ…」
「何言ってんだ。暑さでやられたのか?」

    樹は自転車から降りると、バス停の正面を通って裏へ回る。自転車を停めに行ったのだろう。一足先にバス停へ入って待っていることにした。樹もすぐに戻ってきて、並んでベンチに腰掛ける。アイスを手渡す。

「はい」
「お、サンキュー。気がきくじゃあないか」

    まるで、おじさんみたいな台詞だ。

「ずいぶん早いんだな」
「まあね」

    気づけばさっきの笛の音に太鼓も参加して、いよいよお囃子らしくなってきた。

「そうか。祭り近いんだったな」
「うん」

    二人並んでアイスを食べながら、黙ってお囃子を聞いていた。バスが来るまであと十五分ほど。

「なあ」
「ん?」

    隣を見ると、樹は何か聞きたそうにアイスを両手で弄んでいた。何のことかはなんとなくわかった。

「志保、帰ってるって言ってたよな?こっちに。元気なんだよな?」

    やっぱり。

「あー…志保ちゃんか…。そうだね。帰ってるけど…元気って?」

    なるべく何でも無い風を装ってそう言った。

「いや、ずっとこっちに帰ってなかっただろ?久々に見たと思ったんだ…おじいさんの病院で。家じゃ無いのが気になって」

    そういうことか。

「なるほどね。心配ありがとう。でも、大丈夫だよ。病院にいたのもたまたまじゃない?おじいさんのところなんだし」
「そうか。それもそうだな」

    病気のことは、教えるわけにはいかない。納得したのかどうなのか表情からは読み取れなかったが、樹は何度か小さく頷いた。私は話を替えることにした。今朝からずっとしたい話があったのだ。どこか遠くを見つめる樹に問いかける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...