いつかまた、バス停で。

第１０話「次なんて」①

    今日は久しぶりにちいちゃんがお見舞いに来てくれた。ちょうどお昼だったのもあって、病室で一緒にランチを楽しんだ。私の好きなサンドイッチを作ってきてくれたのだ。
    一応、病院でも食事は出るのだが、今は入院しているのが私一人なのもあって、看護師さんが作ってくれたものか、こうしてちいちゃんが差し入れてくれるものを食べていた。

「で、調子はどう？」
「うん。大丈夫」

    ここのところ、それなりに調子は良いように思えた。あまり無理はしないようにしていたし、そうでなくても、呼吸がしづらくなる感覚も薄らいでいるように感じていた。
    最後の一口を放り込んだとき、掛け声とともに祭囃子が近づいてくるのが聞こえた。


『ヨーサー！ヨーサー！』

    勇壮な男たちの掛け声と、華やかな祭囃子。窓から外を覗くと、神社の幟を持った集団が、坂道をちょうど下りてくるところだった。何本もの幟が連なってゆらゆら揺れて、子どもたちは歓声を上げながら周りをちょこまかと走り回っている。
    これからこの幟の行列が町内を練り歩き、また神社へと戻っていくのだ。それがこの町の夏の風物詩だった。

「お祭り、今日が最後だね」

    ちいちゃんが、同じく窓から外を見ながら言った。

「そうだね」少しずつ遠ざかる音を聞きながら、私はベッドの端に腰かけた。

「ねえ、ちいちゃん…」

    相談するなら今だろう。私は思い切って話しかけた。

「どうしたの？」ちいちゃんが窓辺からベッド脇の椅子に移動して、そっとこちらへ体を向ける。

「私、お祭り行きたい」

    そう言ってちいちゃんの顔色をうかがう。きっとすぐ賛成してくれると思っていたのに、ちいちゃんの反応は思っていたものとは違った。ちいちゃんは、母が見せたのと同じ目で私の目を見返す。

「それは…どうかな…」今度は目を伏せる。
「なんで！？ 最近はずっと大人しくしてたし、体調もそこまでわるくないよ？」

    一度、祖父に同じことを相談して一蹴されていた私は、ちいちゃんに祖父の説得を頼むつもりだった。だから、唯一の味方を失ったショックは大きかった。