いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
27 / 56

第11話「祭りの夜」①

しおりを挟む
    いつもそうするように、約束の時間より少し早く待ち合わせの場所に向かった。海岸通りを自転車で駆け抜ける。西の空では真っ赤な太陽が、見慣れた町並みと入道雲を茜色に染めていた。頬を撫でる風が心地よい。
    数日前に発生した台風で、一時は開催が危ぶまれた夏祭りだったが、うまく進路がそれ、初日に少し雨に降られた程度ですんだ。台風が停滞していた高気圧を吹き払ったのか、今日は朝夕と快適な気温で、そんな些細な移り変わりに、夏の終わりを感じていた。
    バスの停留所が見えてきた。近づきながら千鶴の姿を探すが、中にその姿は見えない。

「ちょっと早かったかな…」自転車を降り、手で押しながら停留所の裏へ回ろうとした。


    そこに、千鶴はいた。

    浴衣姿の千鶴は、金魚柄のポーチを手に停留所の壁に背中を預けている。白地に淡い紺と紫の紫陽花柄。少しうつむき加減の横顔を、夕焼けが柔らかく照らす。いつもは自然に下ろしている髪も、後ろできれいに結ってかんざしで留めていた。
    蝶々の飾りが揺れてキラキラと眩しい。一瞬、二人の周りだけ時間が止まったように感じた。思わず目を奪われていると、俺に気付いた千鶴がこちらに顔を向けた。


    何故か千鶴は泣いていた。

「千鶴?」そっと話しかける。
「おっそーい!」千鶴は明るくそう言うと、俺に気付かれないようにさりげなく涙を拭いて笑ってみせた。

「大丈夫か?何かあったのか?」そう聞くと、千鶴は手をひらひらと小さく振って言った。
「大丈夫、大丈夫。ちょっとね…。ケンカしただけ…」

    無理に笑うその姿は、とても大丈夫そうには見えなかった。詮索することに気が引けながらも、俺は千鶴に聞いた。

「ケンカって、志保か?」
「………」

    千鶴は俯いて黙り込んだ。あまりこの話に触れて欲しくないようだった。千鶴は少しの間そうしてから、顔を上げて言った。

「もう、いいじゃん!その話は。気にしないで。ほら、行こう?」
「あ、ああ」

    自転車を停留所の裏へ停める。振り返る頃には、千鶴はいつもの屈託のない笑顔に戻っていた。

「それよりもほら!何か言うことがあるでしょ?」

    そう言うと、どうだとばかりに手を横に伸ばして、浴衣の柄を見せてくれた。そして、その場でくるっと一周回ってみせる。夕陽を背にはにかむ千鶴は、いつものお調子者の姿からは程遠かった。思わず、言葉をなくす。

「あ、ああ…」
「ああ?」
「いや、綺麗…だと思います」
「思います?」
「いや、その………綺麗…です」
「よろしい」

    そう言って、俺の腕を取ると、隣に並んで歩き始めた。

「お、おい!」
「いいから。早く」

    坂道に近づくにつれて、賑やかな祭囃子が聞こえてきた。神社へ向かう坂道は普段の人通りのなさが嘘のように、祭りに向かう人の姿で溢れていた。二人でゆっくり歩きながら、今日の祭りについて話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...