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第11話「祭りの夜」②
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「お祭りなんて何年ぶりだろ。楽しみだなー」
「俺も何年も行ってないな」
「着いたら何しよっか。焼きそばー、たこ焼きー、わたあめー」
「全部、食いもんじゃねえか…」
少しおかしくなった俺は苦笑いした。千鶴は『焼きそば、たこ焼き、わたあめの歌』を繰り返しながら、ぐいぐいと俺の腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待てって!」
「早くー」
千鶴の楽しげな様子に少しほっとした。診療所の前を通ったとき、千鶴は少しだけ速度を落として気にする様子を見せたが、すぐに前を向いてまた歩き始めた。
少しずつ傾斜がきつくなってくる。神社がある山へ近づくにつれて、上り坂はその険しさを増していく。ちょっとした登山といってもいいくらいだ。二人でぜいぜい言いながら、少しずつ頂上を目指す。
「ちょっと休憩しない?」と、千鶴が提案する。
「さ…賛成」立ち止まって息を整える。顔を見合わせて、どちらからともなく笑いあう。
「さて、いこっか」そういって、千鶴は右手を差し出した。
俺はその手をそっと握って、また前を向いた。左手で感じる千鶴はとてもか細く思えた。すぐに壊れてしまいそうで、できるだけ優しくその手を引いた。
そうやって、途中何度か休憩を挟みながら坂道を登った俺たちは、ようやく石段へとたどり着いた。二人とも、額から玉のような汗を噴出している。あと少し、あと少し登れば、ようやく頂上だ。
「大丈夫か?」
「うん…」
周りを見渡しても、誰もがふうふう言いながら石段を登っている。それに比べると、小さな子どもはその身軽さゆえか、スタスタと階段を上っては、少し下で追いかける大人を『早く早く!』とせき立てている。まったく、羨ましい限りだと思った。
そして、ようやく頂上へ着いた。そこで目にした光景は、『来てよかった』と素直にそう思えるものだった。
頭上に並んだ白い提灯は、柔らかな光で境内を淡く照らしている。光の橙と影の黒とのコントラストがとても美しい。提灯の列は、木から木へと繋がれていて、真下から見上げると、まるで空に浮かんでいるように見えた。
屋台にはとっくに人だかりができていて、その大半を占める子どもたちは、手に握り締めた小遣いで、思い思いの遊び場をはしごしては、祭りを存分に満喫していた。
「綺麗だね…」
「ああ…」
見とれている間に呼吸も落ち着いた。そして、さあ行こうかと歩き出したときだった。
《ドシャ》
乾いた音と共に、千鶴がその場に崩れ落ちる。胸を押さえ、苦しげな表情を浮かべて、喘ぐように息をしていた。
「俺も何年も行ってないな」
「着いたら何しよっか。焼きそばー、たこ焼きー、わたあめー」
「全部、食いもんじゃねえか…」
少しおかしくなった俺は苦笑いした。千鶴は『焼きそば、たこ焼き、わたあめの歌』を繰り返しながら、ぐいぐいと俺の腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待てって!」
「早くー」
千鶴の楽しげな様子に少しほっとした。診療所の前を通ったとき、千鶴は少しだけ速度を落として気にする様子を見せたが、すぐに前を向いてまた歩き始めた。
少しずつ傾斜がきつくなってくる。神社がある山へ近づくにつれて、上り坂はその険しさを増していく。ちょっとした登山といってもいいくらいだ。二人でぜいぜい言いながら、少しずつ頂上を目指す。
「ちょっと休憩しない?」と、千鶴が提案する。
「さ…賛成」立ち止まって息を整える。顔を見合わせて、どちらからともなく笑いあう。
「さて、いこっか」そういって、千鶴は右手を差し出した。
俺はその手をそっと握って、また前を向いた。左手で感じる千鶴はとてもか細く思えた。すぐに壊れてしまいそうで、できるだけ優しくその手を引いた。
そうやって、途中何度か休憩を挟みながら坂道を登った俺たちは、ようやく石段へとたどり着いた。二人とも、額から玉のような汗を噴出している。あと少し、あと少し登れば、ようやく頂上だ。
「大丈夫か?」
「うん…」
周りを見渡しても、誰もがふうふう言いながら石段を登っている。それに比べると、小さな子どもはその身軽さゆえか、スタスタと階段を上っては、少し下で追いかける大人を『早く早く!』とせき立てている。まったく、羨ましい限りだと思った。
そして、ようやく頂上へ着いた。そこで目にした光景は、『来てよかった』と素直にそう思えるものだった。
頭上に並んだ白い提灯は、柔らかな光で境内を淡く照らしている。光の橙と影の黒とのコントラストがとても美しい。提灯の列は、木から木へと繋がれていて、真下から見上げると、まるで空に浮かんでいるように見えた。
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「ああ…」
見とれている間に呼吸も落ち着いた。そして、さあ行こうかと歩き出したときだった。
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