いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
28 / 56

第11話「祭りの夜」②

しおりを挟む
「お祭りなんて何年ぶりだろ。楽しみだなー」
「俺も何年も行ってないな」
「着いたら何しよっか。焼きそばー、たこ焼きー、わたあめー」
「全部、食いもんじゃねえか…」

    少しおかしくなった俺は苦笑いした。千鶴は『焼きそば、たこ焼き、わたあめの歌』を繰り返しながら、ぐいぐいと俺の腕を引っ張る。

「ちょ、ちょっと待てって!」
「早くー」

    千鶴の楽しげな様子に少しほっとした。診療所の前を通ったとき、千鶴は少しだけ速度を落として気にする様子を見せたが、すぐに前を向いてまた歩き始めた。
    少しずつ傾斜がきつくなってくる。神社がある山へ近づくにつれて、上り坂はその険しさを増していく。ちょっとした登山といってもいいくらいだ。二人でぜいぜい言いながら、少しずつ頂上を目指す。

「ちょっと休憩しない?」と、千鶴が提案する。
「さ…賛成」立ち止まって息を整える。顔を見合わせて、どちらからともなく笑いあう。

「さて、いこっか」そういって、千鶴は右手を差し出した。

    俺はその手をそっと握って、また前を向いた。左手で感じる千鶴はとてもか細く思えた。すぐに壊れてしまいそうで、できるだけ優しくその手を引いた。
    そうやって、途中何度か休憩を挟みながら坂道を登った俺たちは、ようやく石段へとたどり着いた。二人とも、額から玉のような汗を噴出している。あと少し、あと少し登れば、ようやく頂上だ。

「大丈夫か?」
「うん…」

    周りを見渡しても、誰もがふうふう言いながら石段を登っている。それに比べると、小さな子どもはその身軽さゆえか、スタスタと階段を上っては、少し下で追いかける大人を『早く早く!』とせき立てている。まったく、羨ましい限りだと思った。
    そして、ようやく頂上へ着いた。そこで目にした光景は、『来てよかった』と素直にそう思えるものだった。
    頭上に並んだ白い提灯は、柔らかな光で境内を淡く照らしている。光の橙と影の黒とのコントラストがとても美しい。提灯の列は、木から木へと繋がれていて、真下から見上げると、まるで空に浮かんでいるように見えた。
    屋台にはとっくに人だかりができていて、その大半を占める子どもたちは、手に握り締めた小遣いで、思い思いの遊び場をはしごしては、祭りを存分に満喫していた。

「綺麗だね…」
「ああ…」

    見とれている間に呼吸も落ち着いた。そして、さあ行こうかと歩き出したときだった。

《ドシャ》

    乾いた音と共に、千鶴がその場に崩れ落ちる。胸を押さえ、苦しげな表情を浮かべて、喘ぐように息をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...