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第15話「いってきます」②
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志保に会うのは彼女が目覚めたとき以来だったが、いざこうして会っていると、とても不思議な感覚だった。千鶴という無邪気で奔放な女の子が、実は幼馴染の志保だというのだから。
そんな気持ちを察したのか、志保が言った。
「なんか…変な感じだね」
「そうだな」
「………ごめんね」
「ん?」
「ずっと騙してて…」志保はそう言うと、ぎゅっとシーツを握って俯いた。
「それはもういいんだって」
「うん...」
「それに、もしかしたらそうなんじゃないかって...そう思ってたしな」
「え?」志保は顔を上げた。
「なんとなくな。いつも坂道を上って帰っていくし。あと、祭りに行く約束をした日に、そう思った」
「え!私、何かしたっけ?」志保は全く見当がつかない様子だ。
「ファイティングポーズだよ。あれを見たとき、もしかしてって...そう思ったんだ」
「なんで?」
「昔、しょっちゅう一緒に遊んだろ?そのときによくやってたよ。あのポーズ。それが、あの頃の志保と全く同じだったから...」
「そ、そうなのか。照れるね」
「なんでだよ」
志保は恥ずかしそうに、頭をかいた。おかしくなって、声に出して笑った。
そう。千鶴として会っていたときのことを今になって思い返してみれば、符合するところはいくつもあった。いくら名前を偽っていたって、志保はずっと志保だった。今も昔も変わらない、無邪気でおせっかい焼きで...。
「転院するんだろ?」
「うん...」
手術を受けることも決まった今、少しでも早く移るべきと、おじいさんの意見だった。
「いつ?」
「今月中には。だから、じきに向こうに行くつもり」志保が壁に掛けたカレンダーを見る。
同じようにカレンダーを見た。出発の日だろうか、赤いペンで丸が付けられている。
「来週か...」
「そうだね」
もう、一週間もなかった。
「どこに移るのか決まってるんだよな?俺、行くよ」
新幹線で行ける程度の距離なら、父に頼みこめば何とかなるだろう。
「うーん...」志保は困ったように笑った。
「どうした?」
「遠いの」
「どれくらい?」県外だということは覚悟している。
「アメリカ...」
「そうか。それは遠い......え?アメリカ?」想定外の答えに、思わず声が大きくなる。
「うん...」
これでは、たまの休みに見舞いに行くというわけにはいかない。父に頼みこめば何とか...ならないだろう。
「そうか...」
「お父さんの同期の人がね、向こうにいるの。おじいちゃん伝いに事情も知っててね。『親友の娘だから、俺がやります』って」
「なるほど...」
そうは言ってみたものの、依然として頭の中は真っ白だ。
「心配ないよ。私も昔から知ってる人だし、なんか、凄い人なんだって。日本じゃ認可されていない難しい手術とかも、いっぱい経験しているって、おじいちゃんも一目置いてたし」
「ああ...」
「大丈夫だってば。一年もすれば戻ってくるよ」
そう言って、志保は笑ってみせた。俺を心配させまいとしてではなく、本心からそう言ったことがその笑顔から感じ取れたので、ひとまず余計な心配はしないでおこうと思った。
そんな気持ちを察したのか、志保が言った。
「なんか…変な感じだね」
「そうだな」
「………ごめんね」
「ん?」
「ずっと騙してて…」志保はそう言うと、ぎゅっとシーツを握って俯いた。
「それはもういいんだって」
「うん...」
「それに、もしかしたらそうなんじゃないかって...そう思ってたしな」
「え?」志保は顔を上げた。
「なんとなくな。いつも坂道を上って帰っていくし。あと、祭りに行く約束をした日に、そう思った」
「え!私、何かしたっけ?」志保は全く見当がつかない様子だ。
「ファイティングポーズだよ。あれを見たとき、もしかしてって...そう思ったんだ」
「なんで?」
「昔、しょっちゅう一緒に遊んだろ?そのときによくやってたよ。あのポーズ。それが、あの頃の志保と全く同じだったから...」
「そ、そうなのか。照れるね」
「なんでだよ」
志保は恥ずかしそうに、頭をかいた。おかしくなって、声に出して笑った。
そう。千鶴として会っていたときのことを今になって思い返してみれば、符合するところはいくつもあった。いくら名前を偽っていたって、志保はずっと志保だった。今も昔も変わらない、無邪気でおせっかい焼きで...。
「転院するんだろ?」
「うん...」
手術を受けることも決まった今、少しでも早く移るべきと、おじいさんの意見だった。
「いつ?」
「今月中には。だから、じきに向こうに行くつもり」志保が壁に掛けたカレンダーを見る。
同じようにカレンダーを見た。出発の日だろうか、赤いペンで丸が付けられている。
「来週か...」
「そうだね」
もう、一週間もなかった。
「どこに移るのか決まってるんだよな?俺、行くよ」
新幹線で行ける程度の距離なら、父に頼みこめば何とかなるだろう。
「うーん...」志保は困ったように笑った。
「どうした?」
「遠いの」
「どれくらい?」県外だということは覚悟している。
「アメリカ...」
「そうか。それは遠い......え?アメリカ?」想定外の答えに、思わず声が大きくなる。
「うん...」
これでは、たまの休みに見舞いに行くというわけにはいかない。父に頼みこめば何とか...ならないだろう。
「そうか...」
「お父さんの同期の人がね、向こうにいるの。おじいちゃん伝いに事情も知っててね。『親友の娘だから、俺がやります』って」
「なるほど...」
そうは言ってみたものの、依然として頭の中は真っ白だ。
「心配ないよ。私も昔から知ってる人だし、なんか、凄い人なんだって。日本じゃ認可されていない難しい手術とかも、いっぱい経験しているって、おじいちゃんも一目置いてたし」
「ああ...」
「大丈夫だってば。一年もすれば戻ってくるよ」
そう言って、志保は笑ってみせた。俺を心配させまいとしてではなく、本心からそう言ったことがその笑顔から感じ取れたので、ひとまず余計な心配はしないでおこうと思った。
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