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第二章 黎明編
第20話 恍惚の騎士
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翌日、公爵家の広々とした執務室に、午後の光が静かに差し込んでいた。プラチナブロンドの髪を揺らしながら、ミレーヌは書類の山から顔を上げ、思考に耽っていた。
領内の富国強兵を目指すには、まず農業経済改革を断行せねばならない。しかし、改革には必ず反対勢力が現れる。そして、その時の自身の身辺警護が手薄であることに、彼女は懸念を抱いていた。
思案の末、彼女は筆頭騎士であるジャックを執務室に呼び出す。
「ジャック、ところで、騎士団の幹部に盗賊退治を一人で行った騎士いたでしょう? その騎士は今はどうしてるのかしら」
ミレーヌの問いに、ジャックは即座に答える。
「フィデールでございますね。奴は武芸は優れていますが、猪突猛進で部隊の指揮には向かないため、降格して一般の騎士待遇にしております。降格を命じたときは不貞腐れておりましたが、戦いの機会さえあれば必ず功名を立てて復帰すると勇んでおります」
「そのフィデールを私にくれないかしら?」
唐突な申し出に、ジャックは戸惑いの色を隠せない。
「フィデールを、ですか……。何にお使いになるのでしょうか?」
「兵を指揮できないなら、私の身辺警護に丁度いいでしょう? 彼をトップに据えて、騎士団とは別に私の警護隊を組織するの」
「確かにそうではございますが、奴は単純と申しますか、思ったことをすぐに行うガサツな輩でして……」
「いいの。剣の腕が立つならそれで充分よ。一度会って判断するからすぐに呼んで」
◇◆◇◆
ジャックは、承諾しながらも憂慮した顔で退室した。一刻後、ジャックが屈強な壮年騎士を連れてくる。その壮年男性は、執務室の机の前に座るプラチナブロンドの髪の少女を見て、目を見開いた。
「ミレーヌ様、この者がフィデールです」
ジャックの紹介に、フィデールは前のめりになる勢いで進み出た。
「ミレーヌ様、お初にお目にかかります。私、フィデール・ジャンと申します! この度は如何なるご下命を頂けるのでしょうか! このフィデール、ミレーヌ様の為ならば、たとえ火の中水の中、如何なる……」
「フィデール、控えよ。ミレーヌ様のお言葉を聞く前に、続けざまに貴様の言を吐くな」
ジャックの威圧的な声に、フィデールは慌てて口を閉ざす。なぜかその壮年男性は、顔をわずかに紅潮させていた。
「フィデール、貴方に頼みがあるの」
「はい! なんでしょうか! ミレーヌ様の為ならば粉骨砕身いかなるご命令でも……」
「フィデール」
呆れたようにジャックが窘める。その迫力に、めずらしくミレーヌが微かに動揺を見せた。
「い、いいわ。私の警護隊を組織するから、貴方はその隊長になりなさい」
「ほ、本当でございますか! あ、ありがとうございます! 私が二十四時間三百六十五日、ミレーヌ様のお傍に控えますので、不審な者など指一本近づけません!」
「そこまでは必要としていません。ジャック、フィデールと相談して、騎士団から腕の立つ者を十名ほど警護隊に配置転換して。詰所や予算などは、レベッカと相談のうえ決めて構わないわ」
「承知いたしました」
ジャックが改めて頭を下げると、フィデールは名残惜しそうにミレーヌを見つめ続けた。
「いくぞ、フィデール」
「は、はい」
ミレーヌの執務室を退室したジャックは、いまだに顔を赤らめている新たな警護隊長を横目に、心の中で呟いた。
(よもや、こやつ、ミレーヌ様に惚れたのか)
実際に、フィデールは、ミレーヌの冷たい美しさの内側に秘められた、鋼のような意志に心を奪われていた。これこそ、騎士として生涯を捧げるに足る、気高き主だと。
領内の富国強兵を目指すには、まず農業経済改革を断行せねばならない。しかし、改革には必ず反対勢力が現れる。そして、その時の自身の身辺警護が手薄であることに、彼女は懸念を抱いていた。
思案の末、彼女は筆頭騎士であるジャックを執務室に呼び出す。
「ジャック、ところで、騎士団の幹部に盗賊退治を一人で行った騎士いたでしょう? その騎士は今はどうしてるのかしら」
ミレーヌの問いに、ジャックは即座に答える。
「フィデールでございますね。奴は武芸は優れていますが、猪突猛進で部隊の指揮には向かないため、降格して一般の騎士待遇にしております。降格を命じたときは不貞腐れておりましたが、戦いの機会さえあれば必ず功名を立てて復帰すると勇んでおります」
「そのフィデールを私にくれないかしら?」
唐突な申し出に、ジャックは戸惑いの色を隠せない。
「フィデールを、ですか……。何にお使いになるのでしょうか?」
「兵を指揮できないなら、私の身辺警護に丁度いいでしょう? 彼をトップに据えて、騎士団とは別に私の警護隊を組織するの」
「確かにそうではございますが、奴は単純と申しますか、思ったことをすぐに行うガサツな輩でして……」
「いいの。剣の腕が立つならそれで充分よ。一度会って判断するからすぐに呼んで」
◇◆◇◆
ジャックは、承諾しながらも憂慮した顔で退室した。一刻後、ジャックが屈強な壮年騎士を連れてくる。その壮年男性は、執務室の机の前に座るプラチナブロンドの髪の少女を見て、目を見開いた。
「ミレーヌ様、この者がフィデールです」
ジャックの紹介に、フィデールは前のめりになる勢いで進み出た。
「ミレーヌ様、お初にお目にかかります。私、フィデール・ジャンと申します! この度は如何なるご下命を頂けるのでしょうか! このフィデール、ミレーヌ様の為ならば、たとえ火の中水の中、如何なる……」
「フィデール、控えよ。ミレーヌ様のお言葉を聞く前に、続けざまに貴様の言を吐くな」
ジャックの威圧的な声に、フィデールは慌てて口を閉ざす。なぜかその壮年男性は、顔をわずかに紅潮させていた。
「フィデール、貴方に頼みがあるの」
「はい! なんでしょうか! ミレーヌ様の為ならば粉骨砕身いかなるご命令でも……」
「フィデール」
呆れたようにジャックが窘める。その迫力に、めずらしくミレーヌが微かに動揺を見せた。
「い、いいわ。私の警護隊を組織するから、貴方はその隊長になりなさい」
「ほ、本当でございますか! あ、ありがとうございます! 私が二十四時間三百六十五日、ミレーヌ様のお傍に控えますので、不審な者など指一本近づけません!」
「そこまでは必要としていません。ジャック、フィデールと相談して、騎士団から腕の立つ者を十名ほど警護隊に配置転換して。詰所や予算などは、レベッカと相談のうえ決めて構わないわ」
「承知いたしました」
ジャックが改めて頭を下げると、フィデールは名残惜しそうにミレーヌを見つめ続けた。
「いくぞ、フィデール」
「は、はい」
ミレーヌの執務室を退室したジャックは、いまだに顔を赤らめている新たな警護隊長を横目に、心の中で呟いた。
(よもや、こやつ、ミレーヌ様に惚れたのか)
実際に、フィデールは、ミレーヌの冷たい美しさの内側に秘められた、鋼のような意志に心を奪われていた。これこそ、騎士として生涯を捧げるに足る、気高き主だと。
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