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第六章 簒奪編
第112話 進軍
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ゲオルクは、「あれは、嘘よ」というミレーヌの言葉に、ゲオルクの体は、揺れる馬車の中で一瞬硬直した。彼の表情には、驚愕と、この女の冷静な計算に対する呆れが混ざり合っていた。
「……う、嘘だと?」
「貴方、クリメンスの縁者を皆殺しにしたんでしょ? そんな赤子いるわけないじゃない」
「それはそうだが……となると嘘がバレたら帝国は再び攻めてくるかもしれんな」
当然の懸念をゲオルクが伝えると、ミレーヌは、その的確な問いに満足げな笑みを浮かべた。彼女は、その疑問に付き合うように言葉を続けた。
「ラスカ王国の宰相に、人づてに、このアイデアを伝えておいたわ。たぶん今頃、侍女や子供の偽物を立てて、本当に帝国に介入するかもね」
「……」
「それに、不可侵条約は一年間と限定したから。あの皇帝は、期限切れと同時に攻めるために、一年かけて後背の憂いをなくすことを算段してるはず。人って、無期限の約束は破ることを考えるけど、期限を決めた約束は意外と守るものよ」
ゲオルクは、改めてミレーヌの怖さを思い知った。あの場でハッタリを言える度胸を持つ二十歳の女などいるだろうか? いや女性ではなく男性でも無理だ。そして、その場にいる者すべてが、ミレーヌのハッタリを信じてしまった。この女の行き着く先はどんな世界なのか改めて見たくなったゲオルクであった。
ミレーヌたちは領都に無事に帰還した。ラウールからの情報では、帝国軍は皇国と王国の対応を検討するため、一旦帝都へ引き上げたらしい。これで憂いはなくなった。ミレーヌは、カッツー王国を制圧できると確信し、即座に出陣を改めて命令した。
三日後、総勢三万三千あまりの軍勢が王都に向かって出発した。
◇◆◇◆
ブローリ公爵は帝国軍が侵攻せず撤退し、ミレーヌが王都に向かって進軍したことを知り、驚愕した。
(まさか……武力を用いずに帝国軍を撤退させるとは、ミレーヌはいかなる奇術を使ったのか)
しかし、彼は考え込んでいる暇はなかった。ミレーヌが出征した以上、ブローリ公爵も同じく出征しなければ、王国分割統治の話はご破算になる可能性がある。彼は家令に命じて、出征を急がせた。一週間後、ブローリ公爵が率いる北部貴族連合軍、総数二万七千が王都を攻略するため出発した。
◇◆◇◆
両公爵家が王都に向かって軍を発した報はすぐさま王都にいるセリアの元へ届けられた。帝国軍が撤退したことで、一旦、国王軍を王都付近に待機させたが、よもや自分の策が敗れるとは思ってもいなかったセリアは、狼狽した。そんな娘に父であるジュノイー侯爵が聞いた。
「どうする。セリア」
「お、お父様、どうしましょう!」
その言葉を聞き、ジュノーイ侯爵は驚いた。今まで弱音を吐かなかった娘の「人間らしい」姿を見て、一瞬安堵を覚えたが、今はそれどころではない。
「では、こうしたらいい。ブローリ公爵の軍は二万程度派遣して進軍をとどめる。残りの兵七万をすべてミレーヌにぶつけて打ち破る。そうすればブローリ公爵は、戦意をなくし降伏するだろう」
「それで、うまくいの?」
「相手の二倍以上の兵力を当てる。火器は劣るが大丈夫だ」
不安げに見る娘を見ながら、ジュノイー侯爵は言った。
「では私を……そう私がいる王都は、誰が守るの!」
「では、私が直属の兵とともに王都を守ろう。対ミレーヌの主戦力としてモラン将軍を、対ブローリ公爵の牽制としてアイヤゴン将軍を配置すればよいだろう」
「わかったわ」
気を取り直したセリアは、家臣に伝えるために、玉座へ向かった。その姿を見ながらジュノイー侯爵は、改めて戦況を思いやり、溜息を一つした。彼は、すでに、己の生が残り僅かかもしれないと感じていた。
「……う、嘘だと?」
「貴方、クリメンスの縁者を皆殺しにしたんでしょ? そんな赤子いるわけないじゃない」
「それはそうだが……となると嘘がバレたら帝国は再び攻めてくるかもしれんな」
当然の懸念をゲオルクが伝えると、ミレーヌは、その的確な問いに満足げな笑みを浮かべた。彼女は、その疑問に付き合うように言葉を続けた。
「ラスカ王国の宰相に、人づてに、このアイデアを伝えておいたわ。たぶん今頃、侍女や子供の偽物を立てて、本当に帝国に介入するかもね」
「……」
「それに、不可侵条約は一年間と限定したから。あの皇帝は、期限切れと同時に攻めるために、一年かけて後背の憂いをなくすことを算段してるはず。人って、無期限の約束は破ることを考えるけど、期限を決めた約束は意外と守るものよ」
ゲオルクは、改めてミレーヌの怖さを思い知った。あの場でハッタリを言える度胸を持つ二十歳の女などいるだろうか? いや女性ではなく男性でも無理だ。そして、その場にいる者すべてが、ミレーヌのハッタリを信じてしまった。この女の行き着く先はどんな世界なのか改めて見たくなったゲオルクであった。
ミレーヌたちは領都に無事に帰還した。ラウールからの情報では、帝国軍は皇国と王国の対応を検討するため、一旦帝都へ引き上げたらしい。これで憂いはなくなった。ミレーヌは、カッツー王国を制圧できると確信し、即座に出陣を改めて命令した。
三日後、総勢三万三千あまりの軍勢が王都に向かって出発した。
◇◆◇◆
ブローリ公爵は帝国軍が侵攻せず撤退し、ミレーヌが王都に向かって進軍したことを知り、驚愕した。
(まさか……武力を用いずに帝国軍を撤退させるとは、ミレーヌはいかなる奇術を使ったのか)
しかし、彼は考え込んでいる暇はなかった。ミレーヌが出征した以上、ブローリ公爵も同じく出征しなければ、王国分割統治の話はご破算になる可能性がある。彼は家令に命じて、出征を急がせた。一週間後、ブローリ公爵が率いる北部貴族連合軍、総数二万七千が王都を攻略するため出発した。
◇◆◇◆
両公爵家が王都に向かって軍を発した報はすぐさま王都にいるセリアの元へ届けられた。帝国軍が撤退したことで、一旦、国王軍を王都付近に待機させたが、よもや自分の策が敗れるとは思ってもいなかったセリアは、狼狽した。そんな娘に父であるジュノイー侯爵が聞いた。
「どうする。セリア」
「お、お父様、どうしましょう!」
その言葉を聞き、ジュノーイ侯爵は驚いた。今まで弱音を吐かなかった娘の「人間らしい」姿を見て、一瞬安堵を覚えたが、今はそれどころではない。
「では、こうしたらいい。ブローリ公爵の軍は二万程度派遣して進軍をとどめる。残りの兵七万をすべてミレーヌにぶつけて打ち破る。そうすればブローリ公爵は、戦意をなくし降伏するだろう」
「それで、うまくいの?」
「相手の二倍以上の兵力を当てる。火器は劣るが大丈夫だ」
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「では私を……そう私がいる王都は、誰が守るの!」
「では、私が直属の兵とともに王都を守ろう。対ミレーヌの主戦力としてモラン将軍を、対ブローリ公爵の牽制としてアイヤゴン将軍を配置すればよいだろう」
「わかったわ」
気を取り直したセリアは、家臣に伝えるために、玉座へ向かった。その姿を見ながらジュノイー侯爵は、改めて戦況を思いやり、溜息を一つした。彼は、すでに、己の生が残り僅かかもしれないと感じていた。
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