伝説の【紅蓮の竜殺し】の女冒険者は、なぜか気弱な鍛冶職人が気になって仕方ありません~最強と最弱の二人の恋の物語

かずまさこうき

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第16話:紅蓮の竜殺し、災厄と闘う

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街の東に位置する深い森のさらに奥にある「深淵の森」。そこは常に瘴気に包まれ、耳障りな魔獣の唸り声がこだまする、忌まわしき場所だった。
 私は、街を、そしてユーイを守るため、この危険な任務に一人で赴いた。
 腰に下げた愛剣は、ユーイが心を込めて手入れしてくれたおかげで、かつてないほど鋭く輝いている。彼の優しさと、彼への口づけが、私の心を強く支えていた。

 森の奥深くへ進むにつれ、空気は重くなり、魔力の濃度は増していく。通常の魔物とは明らかに異なる、強大な存在の気配が、肌を粟立たせた。周囲の木々は黒ずみ、生命力を失っているかのようだ。
 地面には、巨大な爪で深く抉られたような足跡がいくつも残されており、その禍々しい存在感に、私の闘志は一層燃え上がった。

 数日後、私は「深淵の森」の中心部へと到達した。そこに広がるのは、かつては鬱蒼とした森だったであろうが、今では見る影もなく破壊された荒野だった。そして、その荒野の中央に、それはいた。

 体長十メートルを超える巨体。漆黒の鱗は鋼鉄のように固く、背からは鋭利な骨の翼が生えている。その四本の太い足は地面を抉り、巨大な頭部には、赤く光る三つの眼と、禍々しい角が突き出していた。口からは、ドロリとした黒い瘴気を吐き出し、周囲の空間を歪めている。

「まさか……この姿は……!文献で伝え聞く、黒竜ドラウグル……」

 私は、その魔獣の姿に、思わず息を呑んだ。

 それは、数百年に一度現れると言われる、伝説級の黒竜だ。過去に討伐されたという記録はほとんどなく、その出現は、常に広範囲にわたる壊滅的な被害をもたらしてきた。
 私の剣の腕をもってしても、決して楽な相手ではない。いや、むしろ、生きて帰れる保証など、どこにもない相手だ。

 しかし、私の心には、恐怖よりも強い、確固たる決意が満ちていた。
 この魔物を討伐しなければ、街が滅びる。ユーイが、危険に晒される。それだけは、絶対に避けなければならない。

「ユーイ……お前を守るためなら、私は、何をも恐れない」

 私は、愛剣を構えた。私の身体から、紅蓮の炎が噴き出し、瘴気に包まれた森を照らし出した。

「来い、黒竜!」

 私は、怒りの咆哮を上げ、黒竜へと突進した。
 黒竜は、私の突進を迎え撃つように、その巨大な爪を振り下ろした。その一撃は、大地を砕くほどの破壊力を持つ。
 私は、紙一重でそれを躱し、黒竜の足元へと潜り込んだ。狙うは、その硬質な鱗の隙間。だが、黒竜の身体は、私の想像以上に硬く、私の剣は鱗の上を滑るばかりで、致命傷を与えられない。
 黒竜は、苛立ったように咆哮を上げ、口から黒い瘴気のブレスを吐き出した。それは、当たれば冒険者の鎧すら溶かすほどの猛毒だ。
 私は、瞬時に身を翻し、ブレスを躱した。その間にも、黒竜はしつこく追いすがり、その巨体で私を押し潰そうとする。
 私は、魔獣の攻撃を捌きながら、必死に弱点を探した。その三つの眼か、あるいはその心臓か。しかし、その全てが、強固な鱗に守られている。
 何度剣を打ち込んでも、浅い傷しかつけられない。私の身体は、少しずつ疲労を蓄積し、汗が止まらない。黒竜の攻撃は、容赦なく私に襲いかかる。私は、次第に追い詰められていった。

(くそっ……! なぜだ!? なぜ、この程度しかできない!?)

 焦りが、私の心を蝕む。このままでは、ジリ貧だ。街へ戻れば、ユーイも危険に晒される。その思いが、私をさらに苦しめた。
 その時、脳裏にユーイの顔が浮かんだ。

「ロレッタさんは、僕にとって、光のような存在です」



 それは、あの夜、彼が私の手を取り、真剣な瞳で言った言葉。



 彼のその言葉が、私の心を強く貫いた。
 彼にとって、私は光なのだ。彼の光である私が、こんなところで負けるわけにはいかない。
 私は、彼の夢を、彼の未来を、共に生きていきたい。


「ユーイ……!」

 私は、絶叫した。その叫びは、私自身の決意と、ユーイへの強い想いから生まれたものだった。
 私の全身から、これまで以上の紅蓮の炎が噴き出した。
 それは、怒りの炎ではなく、ユーイへの愛情と、彼を守りたいという純粋な願いから生まれた、魂の炎だった。私の剣も、その炎を吸い込んだかのように、赤く、熱く輝き始めた。

 私は、黒竜の突進をあえて受け止めた。その衝撃で身体が吹き飛ばされそうになるが、私はzx剣を地面に突き刺し、必死に耐えた。そして、その衝撃を利用し、黒竜の巨体の上へと飛び上がった。
 狙うは、その禍々しい三つの眼。私は、剣に全ての魔力を集中させ、炎を螺旋状にまとわせた。それは、私の奥義。『紅蓮螺旋斬《ぐれんらせんざん》』。

「これが……私の全てだ! ユーイ!」

 私は、叫びながら、その剣を黒竜の最も大きな眼に突き刺した。炎の螺旋が、硬い眼球を貫き、魔獣の脳へと達する。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 黒竜は、これまで聞いたことのない、断末魔の叫びを上げた。
 その巨体が、激しく痙攣し、地面を叩きつける。黒い瘴気が、魔獣の身体から噴き出し、辺りに充満した。

 私は、剣を引き抜き、魔獣の背中から飛び降りた。黒竜は、数度痙攣した後、力なく地面に倒れ伏した。その身体は、みるみるうちに黒い灰となり、風に舞い散っていった。
 私は、その場に膝をついた。全身は傷だらけで、魔力は枯渇し、一歩も動けない。だが、私の心には、この上ない達成感と、ユーイを守り抜いた安堵感が満ちていた。
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