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第12話 親友の警告
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辺境伯邸に滞在して数日が経った頃、私はようやく親友であるシリエルと再会することができた。私の自室に彼女が姿を現した時、私は思わず息をのんだ。幼い頃から変わらない、太陽のように明るい笑顔がそこにあった。
「マリー様! よくぞご無事で!」
シリエルは駆け寄ってきて、私を力強く抱きしめた。その温かい腕の中で、私はどれほど救われただろう。
王都を離れてから、家族も友人も失い、孤独に打ちひしがれていた私の心に、彼女の存在は温かい光を灯してくれた。
「シリエル……会いたかったわ」
私の目からは、自然と涙がこぼれ落ちた。彼女もまた、私の背を優しく撫でながら、静かに涙を流している。私たちはしばらくの間、言葉もなく抱きしめ合った。やがて、シリエルはそっと私から離れ、私の顔を覗き込んだ。
「さぞかしご苦労のことと思います。まさか、マリー様にこんなことが起きるなんて……」
彼女の声は、心からの心配に満ちていた。私は頷き、これまでの過酷な旅路、そして辺境伯邸にたどり着くまでの経緯を簡潔に話す。クロイツのことは、必要最低限の情報に留めた。
シリエルは、私の話に真剣に耳を傾けている。そして、叔父であるマチス辺境伯邸での生活や、昔の他愛もない思い出話を、当たり障りなく語ってくれた。
彼女は、辺境伯の屋敷での生活が、決して楽ではないことを示唆した。父を亡くした彼女が、叔父の庇護を受けている以上、自由に振る舞えないのは当然のことだろう。
私は、彼女の話を聞きながら、その愛らしい笑顔の奥に、どこか怯えと緊張が潜んでいることに気づいた。彼女の瞳は、時折、不安げに揺れ、声にはわずかながら震えが混じっている。
何かおかしい。
私の知るシリエルは、もっと奔放で、明るい娘のはずだ。心の中で、違和感が募る。彼女の言葉は表面上は穏やかだが、その裏に隠された何かがあるように感じられる。しかし、私はその場では何も問い詰めることができなかった。談笑を続け、やがて別れの時が来た。彼女は、部屋の入口へと向かおうとする最中、なぜか私の元へ戻ってくる。
「マリー様の髪が乱れていらっしゃるわ」
ごく自然な仕草で、彼女は私の髪に触れた。そして、自身の美しい髪留めを私に差し出し、「これをどうぞ」と言って、私の髪を留めてくれた。それは、細やかな銀細工が施された、繊細で美しい髪留めだった。
「せっかくの美貌が台無しです。マリー様は常に綺麗にしておかないと」
彼女はそう言って微笑んだが、その笑顔には、やはりどこか緊張の色が浮かんでいる。私の髪を留めるその瞬間、彼女の指先が、私の手の甲をかすかに叩いたような気がした。それは、ほとんど意識しないほどの、微かな感覚だ。しかし、私の直感は、それが単なる偶然ではないことを告げている。
シリエルが部屋を出ていくと、私はすぐに髪留めを外した。そしてその中を調べてみると、小さな紙片が隠されているのを見つけた。
息をのんで広げた紙片には、震える文字で、恐るべき内容が記されていた。
「マチス辺境伯はあなた様を旗印にこの国の混乱に乗じて独立を画策しています。また同行者の抹殺も企んでいる模様。今すぐお逃げください」
悪寒が背筋を這い上がり、止まらない手足の震えに襲われた。だが、シリエルが、これほどの危険を冒してまで、私に警告してくれたのだ。彼女は、叔父である辺境伯の監視下にあるにもかかわらず、私を救おうとしている。
やはり、辺境伯は、私を道具として利用しようとしていた。そして、私の唯一の護衛であり、心の支えであるクロイツを抹殺しようと企んでいる。このままここにいれば、私だけでなく、クロイツも危険に晒されてしまう。
私は、幼い頃に公爵家の書庫で読み漁った、異国の歴史書に記されていた権謀術数の事例が、まるで目の前で再現されているかのように、今になってようやく鮮明に思い出す。そこには、混乱期に乗じて勢力拡大を図る貴族たちの狡猾な手口が、具体的に、いくつも詳述されていた。
辺境伯が私とデニス様との縁談を持ち出してきたあの時も、今思えば、その書の教えを当てはめることができたはずだ。もっと深く洞察していれば、会食時に、彼の真の意図を気づき、その陰謀を予測できたかもしれない。自分の認識の甘さ、そして状況への洞察が不足していたことへの憤りが込み上げた。
紙片を握りしめながら、私は現在の状況を再確認した。部屋の外にはクロイツが不寝番のように警備しているが、彼を見張る辺境伯の配下が数名いる。
また、シリエルが髪留めに忍ばした手紙でわざわざ知らせたということは、この部屋も誰か聞き耳を立てている可能性もある。安易な行動は、かえって危険を招く。
私は、まず冷静になるよう自分に言い聞かせた。そして、ひとつの策を思いついた。
「マリー様! よくぞご無事で!」
シリエルは駆け寄ってきて、私を力強く抱きしめた。その温かい腕の中で、私はどれほど救われただろう。
王都を離れてから、家族も友人も失い、孤独に打ちひしがれていた私の心に、彼女の存在は温かい光を灯してくれた。
「シリエル……会いたかったわ」
私の目からは、自然と涙がこぼれ落ちた。彼女もまた、私の背を優しく撫でながら、静かに涙を流している。私たちはしばらくの間、言葉もなく抱きしめ合った。やがて、シリエルはそっと私から離れ、私の顔を覗き込んだ。
「さぞかしご苦労のことと思います。まさか、マリー様にこんなことが起きるなんて……」
彼女の声は、心からの心配に満ちていた。私は頷き、これまでの過酷な旅路、そして辺境伯邸にたどり着くまでの経緯を簡潔に話す。クロイツのことは、必要最低限の情報に留めた。
シリエルは、私の話に真剣に耳を傾けている。そして、叔父であるマチス辺境伯邸での生活や、昔の他愛もない思い出話を、当たり障りなく語ってくれた。
彼女は、辺境伯の屋敷での生活が、決して楽ではないことを示唆した。父を亡くした彼女が、叔父の庇護を受けている以上、自由に振る舞えないのは当然のことだろう。
私は、彼女の話を聞きながら、その愛らしい笑顔の奥に、どこか怯えと緊張が潜んでいることに気づいた。彼女の瞳は、時折、不安げに揺れ、声にはわずかながら震えが混じっている。
何かおかしい。
私の知るシリエルは、もっと奔放で、明るい娘のはずだ。心の中で、違和感が募る。彼女の言葉は表面上は穏やかだが、その裏に隠された何かがあるように感じられる。しかし、私はその場では何も問い詰めることができなかった。談笑を続け、やがて別れの時が来た。彼女は、部屋の入口へと向かおうとする最中、なぜか私の元へ戻ってくる。
「マリー様の髪が乱れていらっしゃるわ」
ごく自然な仕草で、彼女は私の髪に触れた。そして、自身の美しい髪留めを私に差し出し、「これをどうぞ」と言って、私の髪を留めてくれた。それは、細やかな銀細工が施された、繊細で美しい髪留めだった。
「せっかくの美貌が台無しです。マリー様は常に綺麗にしておかないと」
彼女はそう言って微笑んだが、その笑顔には、やはりどこか緊張の色が浮かんでいる。私の髪を留めるその瞬間、彼女の指先が、私の手の甲をかすかに叩いたような気がした。それは、ほとんど意識しないほどの、微かな感覚だ。しかし、私の直感は、それが単なる偶然ではないことを告げている。
シリエルが部屋を出ていくと、私はすぐに髪留めを外した。そしてその中を調べてみると、小さな紙片が隠されているのを見つけた。
息をのんで広げた紙片には、震える文字で、恐るべき内容が記されていた。
「マチス辺境伯はあなた様を旗印にこの国の混乱に乗じて独立を画策しています。また同行者の抹殺も企んでいる模様。今すぐお逃げください」
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やはり、辺境伯は、私を道具として利用しようとしていた。そして、私の唯一の護衛であり、心の支えであるクロイツを抹殺しようと企んでいる。このままここにいれば、私だけでなく、クロイツも危険に晒されてしまう。
私は、幼い頃に公爵家の書庫で読み漁った、異国の歴史書に記されていた権謀術数の事例が、まるで目の前で再現されているかのように、今になってようやく鮮明に思い出す。そこには、混乱期に乗じて勢力拡大を図る貴族たちの狡猾な手口が、具体的に、いくつも詳述されていた。
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紙片を握りしめながら、私は現在の状況を再確認した。部屋の外にはクロイツが不寝番のように警備しているが、彼を見張る辺境伯の配下が数名いる。
また、シリエルが髪留めに忍ばした手紙でわざわざ知らせたということは、この部屋も誰か聞き耳を立てている可能性もある。安易な行動は、かえって危険を招く。
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