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第二章 婚約破棄編
三百年振りの
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貴族街の東区と城壁門のある南区の丁度中間方向、南東にある中道を通った所にその店はある。
王城前から東大通りへ進み、三軒目にある平民区への中道を入り、二軒進むと『食の棚』に到着する。
相変わらずの狭い道に苦笑する。変わったところと言えば、街灯があることぐらいか。
シンプルな建物を見上げ、自宅の扉を開けた。
チィリン
「いらっしゃいませ~」
来客を告げるベルと共に間の抜けた声がかけられる。
彼はいないようだ。
「あ、カウンターですか。メニューいりますか?」
手を振り、茶の葉を頼む。
「待ち合わせですか?」
遠慮がちに尋ねる少年に、「ある人をね」と答えると彼はそれ以上は聞いてこなかった。
しばらくして扉が開く。
少年の硬かった顔が柔らかくなり、「カイトさん遅いっすよ」と言う。
彼は昔と変わらない黒の執事服で、左腕に胸元まである紙袋を抱えていた。リンゴが少し見える。
彼は驚いた表情でこちらを見ており、陸にあげられた魚のように口をパクパクさせていた。
「やぁカイト、久し振りだね。アクロは?」
「アース様……」
ゆっくりと僕の元へ近づくカイトは、涙をこらえながら頭を下げた。
「お帰りなさいませ、アース様。三百年間待っておりました」
カイトの言葉に、店内は静まり返る。
そりゃそうだ。長年変わらない店主と思っていた人の待ち人がここにいる。しかも、三百年も。
少年の口から出た「は?」という言葉が、客の思いを代弁しているようだった。
静まり返った空気をぶち壊すように扉が開かれた。入って来たのは、肩で息するギルドマスター。彼もまた僕の元へ来て、頭を下げた。
ここに王族がいれば完璧かも知れないが、そうはならない。今の王族を知らないから。
王国で発言権の強い二人が一人の青年に頭を下げる異常事態に、少年は目を白黒させている。
「応接室は空いてる?」
「はい、こちらです」
前を歩くカイトと後ろに続くギルドマスターに挟まれて、階段を上がって行った。
「ギルドマスターって若くないですよね?五百歳は超えてそう……」
「六百五十歳になりました。まぁ、ハイエルフなので、まだ若い方ですがね」
エルフ族かと思っていたら、まさかのハイエルフ族。あっ、たしか、ハッキリとエルフ族とは言ってなかったな…エルフとは言ってたけど。
納得しているとカイトが銀のトレーを持って入って来た。スイーツがというより、パフェが乗っていた。
「あ、パフェだ」
「パフェ…ですか」
「あれ?パフェのレシピ教えたっけ?」
「いえ、このスイーツは昨日の試作なんです。アース様の頭にはすでにあるのですね」
やや落ち込んだ様子のカイトに、若干空気が悪くなる室内。だけど、僕の案もなくパフェを思いつくのは、普通に凄い。そのことを褒めつつ、パフェを食べていく。
下にイチゴのジャム、砕いたクッキー、アイス、ホイップクリーム、そして切ったイチゴを円を描くように飾り付けて中央にイチゴを一つ。
実によく出来ていて、綺麗だ。
聞き逃さないようにメモを取るカイトに、ゆっくりとパフェの組み合わせや盛り付けだけではなく、他のスイーツを小さくして盛り付けたりと次々に案を出す。
見た者が華やかだと思う見た目、変わらずの美味しい味、食べやすさといった注意点を上げていく。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
王城前から東大通りへ進み、三軒目にある平民区への中道を入り、二軒進むと『食の棚』に到着する。
相変わらずの狭い道に苦笑する。変わったところと言えば、街灯があることぐらいか。
シンプルな建物を見上げ、自宅の扉を開けた。
チィリン
「いらっしゃいませ~」
来客を告げるベルと共に間の抜けた声がかけられる。
彼はいないようだ。
「あ、カウンターですか。メニューいりますか?」
手を振り、茶の葉を頼む。
「待ち合わせですか?」
遠慮がちに尋ねる少年に、「ある人をね」と答えると彼はそれ以上は聞いてこなかった。
しばらくして扉が開く。
少年の硬かった顔が柔らかくなり、「カイトさん遅いっすよ」と言う。
彼は昔と変わらない黒の執事服で、左腕に胸元まである紙袋を抱えていた。リンゴが少し見える。
彼は驚いた表情でこちらを見ており、陸にあげられた魚のように口をパクパクさせていた。
「やぁカイト、久し振りだね。アクロは?」
「アース様……」
ゆっくりと僕の元へ近づくカイトは、涙をこらえながら頭を下げた。
「お帰りなさいませ、アース様。三百年間待っておりました」
カイトの言葉に、店内は静まり返る。
そりゃそうだ。長年変わらない店主と思っていた人の待ち人がここにいる。しかも、三百年も。
少年の口から出た「は?」という言葉が、客の思いを代弁しているようだった。
静まり返った空気をぶち壊すように扉が開かれた。入って来たのは、肩で息するギルドマスター。彼もまた僕の元へ来て、頭を下げた。
ここに王族がいれば完璧かも知れないが、そうはならない。今の王族を知らないから。
王国で発言権の強い二人が一人の青年に頭を下げる異常事態に、少年は目を白黒させている。
「応接室は空いてる?」
「はい、こちらです」
前を歩くカイトと後ろに続くギルドマスターに挟まれて、階段を上がって行った。
「ギルドマスターって若くないですよね?五百歳は超えてそう……」
「六百五十歳になりました。まぁ、ハイエルフなので、まだ若い方ですがね」
エルフ族かと思っていたら、まさかのハイエルフ族。あっ、たしか、ハッキリとエルフ族とは言ってなかったな…エルフとは言ってたけど。
納得しているとカイトが銀のトレーを持って入って来た。スイーツがというより、パフェが乗っていた。
「あ、パフェだ」
「パフェ…ですか」
「あれ?パフェのレシピ教えたっけ?」
「いえ、このスイーツは昨日の試作なんです。アース様の頭にはすでにあるのですね」
やや落ち込んだ様子のカイトに、若干空気が悪くなる室内。だけど、僕の案もなくパフェを思いつくのは、普通に凄い。そのことを褒めつつ、パフェを食べていく。
下にイチゴのジャム、砕いたクッキー、アイス、ホイップクリーム、そして切ったイチゴを円を描くように飾り付けて中央にイチゴを一つ。
実によく出来ていて、綺麗だ。
聞き逃さないようにメモを取るカイトに、ゆっくりとパフェの組み合わせや盛り付けだけではなく、他のスイーツを小さくして盛り付けたりと次々に案を出す。
見た者が華やかだと思う見た目、変わらずの美味しい味、食べやすさといった注意点を上げていく。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
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