神様のお楽しみ!

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第三章 転生編

転生者

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 自宅から徒歩と電車で一時間程かけ、彼は、自身が通う私立高校へと到着した。彼は頭が良い訳でもなく悪い訳でもない。運動は少し人より出来るがプロを目指す程でもない。炊事・洗濯などの家事は人並みに出来るといったごく普通の若者だった。
 高校に入ってからも孤独で、彼からも誰も関わることはなく当然、友達もいない。内気で大人しい性格の為か、ほとんど空気として彼は存在していた。

 「生まれてから十六年、特に代わり映えのない日々だな」

 彼は立ち入り禁止の屋上への階段を上がりながら呟く。止める者も声をかける者もいない。

 キィィーー

 と、耳障りな音を出して扉を開ける。今日は晴天だったんだな。
 屋上のフェンスを越えて、彼はそこに立った。

 「次があれば別の人生を送りたいなぁ」

 それが彼の最後の言葉だった。
 急な突風にバランスを崩して落下した。運が悪い訳でも良い訳でもない、彼にとっては普通のこと。今日に限って彼は突風に感謝した。

 これで終われる。

 そうして彼は意識を手放した。







 「ふむ。どうすれば起きるん…じゃ?」

 変なところで疑問形になるなぁと思った。思ったことに違和感があった。

 目を開けて上半身を起こしてキョロキョロと周囲を見回した。白くて、多分だけど正方形の狭い空間と思えるくらいの場所に、俺はいた。本当に狭くて目の前のお爺さんはふわふわ浮かんでて……

 「浮いてるっ!」

 指差すことの出来ない距離の為、口だけ動かした俺に「ほっほっ」と笑う。

 「俺は、いや、ここはどこなんだ……」

 「ここはお主のいた星とは違う星だ。別の世界…いわゆる異世界じゃな」

 「ま、まぁ、こんな至近距離で浮いてるお爺さんなんて、見たことないからそうなんだろうけど」

 そう言いながらうつむく俺にお爺さんは「狭いのぉ」と言った。
 
 パチンッ

 お爺さんが指を鳴らすと、狭かった空間がグーンと広がり八畳程になった。相変わらずの白い空間で、俺とお爺さん以外誰もいないし何もない。

 「お爺さんは…その、神様なのか?」

 「異世界の神で合っとるよ」

 短い白髪のお爺さんは自称神様で、指を鳴らすと空間を広げられる手品が出来るみたいだ。

 「自称神様ではなく本物で、手品でもないがの」

 「えっ」

 「お主が考えてることなど容易にわかるわ。ワシは神様じゃからのぉ。さ、受け入れて死ぬ前に願った次の人生に見合ったスキルを選ぶぞ」

 そう急かすお爺さんのことを神様と信じざるを得ない俺は、渋々だが了承した。

 「まぁ、時間は一応あるからの。聞きたいことがあれば聞くと良い、答えられることは答えよう」

 神様は微笑んでいた。俺は少し不安が晴れた、少しだけ。
 

 「お願いします」

 
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