神様のお楽しみ!

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第三章 転生編

閑話(〈竜の牙〉)

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 苛立ち、冒険者ギルドを出た〈竜の牙〉は、他の冒険者達を睨みつけて歩いた。中には一目でわかる新人冒険者もいて、睨まれた彼らは「ヒッ」と小声を漏らしてその場を去って行った。

 「リーダー、私が良い案を思いついたです。タイヨウの魔物に襲われたフリをすれば、魔物は危険だと伝わるです」

 自信満々に意見する魔法使いのミストク。彼女の言葉に愚かにも全員が目を輝かせた。

 「それが良いわ!ウルフくらいならあいつでも、手懐てなずけられるでしょ」

 「あぁ、さすがにBランクのダガーウルフはムリでも、ウルフくらいなら手に入れてることだろう」

 ショメルやガーダルも賛成して行き、残るはネグロだけとなった。パーティーメンバーが賛成しているのに、リーダーが迷うのは…と思ったのか、ネグロも頷いてしまう。
 これが破滅への道と知らず、彼らはみずからの首を絞めて行った。



 「お、おい、どうしたんだその傷…酷いなこれは。ダンジョンの魔物にやられたんだな」

 ヒンセク国の門を守る衛兵が、肩や横腹の傷から血を流す冒険者達に声をかける。魔物とわかる傷口で、ダンジョンのある方向から来た為に衛兵は、魔物との戦いで敗走したものと判断した。
 しかし彼らは衛兵の判断を否定した。

 「違うわ!私達はタイヨウの従えた魔物に襲われたのよ!」

 周囲の者達が首を傾げる中、反応したのは衛兵だけだった。

 「えっ、いやそんなハズは……」

 「タイヨウは魔物を従わせられるんだっ。パーティーから出たあいつは、俺達が上手く行ってるのを逆恨みして襲って来たんだっ、魔物で!」

 門を守るのがベテランなら彼らの言葉を一蹴いっしゅうしていたところだが新人の衛兵だった為、〈竜の牙〉の力説を真に受けてしまう。
 
 「クソッ…あいつがウルフを従えてるとは思わなかった!一匹のウルフならまだしも、俺達の倍の数も従わせて襲って来るとは……」

 彼らは知らない。タイヨウがスライムだけを従えていることを。
 彼らは知らない。タイヨウが今いるのはダンジョンではなく、王城だということを。
 
 だが、新人の衛兵だけが〈竜の牙〉の話を信じた訳ではなかった。門を通る為の冒険者や商人達までもが、信じてしまったのだ。
 証人は多くいる。良い意味でも悪い意味でも。冒険者は冒険者ギルドへ、商人は商業ギルドへ、衛兵は王城へタイヨウという冒険者が今しがた行った悪行を伝えた。
 彼らは後に一つの信念を持った。「己の目で耳で見聞きしたことを信じる」これが、いかに大切かということを今回のことで、彼らは知ることになるからだ。


 そして……


 「Aランクパーティー〈竜の牙〉に、ヒンセク国王陛下から城へ来るようにとのことです」


 彼らは大いに喜んだというーー。
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