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序章
第4話 森の恵みと初めての来訪者
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朝露を含んだ森の空気は、吸い込むだけで肺の奥まで清められるようだった。
焚き火の残り火を片付け、俺は昨日に植えたドン芋の畑へ足を運ぶ。まだ芽は出てないけど、整えられた土を見てるだけで胸が膨らむ。
「さて……今日の課題は水やな」
森の泉から汲んでくることもできるけど、毎日バケツ運びだと大変や。そこで俺は魔法を試すことにした。
「水よ、畑に注げ――」
両手をかざすと、空気の中から水の粒が集まり、じわじわと土に染み込んでいく。
……よし、できた。けど量の調整が難しい。油断すると土がぐちゃぐちゃになる。
「はー……まだ修行が足らんな」
腰に手を当てていると、後ろから気だるげな声が飛んできた。
「アンタ、よう飽きんもんやなぁ」
振り返れば、黄緑色の瞳をした黒猫クロハが、木の根っこに寝そべっていた。日向に体を預け、尻尾をゆったり揺らしている。
「農業は日々の積み重ねや。飽きるとかそういうもんやない」
「ふーん。わいから見りゃ、泥遊びと変わらんけどな」
「ほな手伝わんでええわ」
「もともと手伝う気なんかあらへん」
にやりと口を吊り上げるクロハ。こいつ、わざとやっとるやろ。
……けど、不思議と腹は立たん。こうして言葉を交わせるだけで、心が和むんや。
◆
午前中は畑の世話、昼は食糧探し。森の中で生活のリズムができ始めた。
今日は新しい食材を見つけようと、泉の下流を歩いていたら――
「おっ、魚や!」
澄んだ水に銀色の魚影がいくつも泳いでいる。
石を投げて追い込んでみたけど、すばしっこくて掴まらへん。
「クロハ、なんかええ方法ないか?」
「ふふん、魚取りはわいの得意分野や」
クロハがしゅばっと飛び込む。水しぶきが上がり、数秒後には魚を咥えて戻ってきた。
黄緑色の瞳がキラキラと輝いてる。さっきまでの不貞腐れた顔とえらい違いで、嬉しそうな表情に見える。
「どや? 鮮やかやろ?」
「うわ、猫ってほんまに魚好きなんやな……」
「当たり前や! 肉もええけど、魚は別腹や!」
クロハは夢中で魚を平らげた。俺も焚き火で焼いて食ったが、淡白で旨みがあり、米が欲しくなる味だった。
……米。あの白い粒を食える日は来るんやろか。胸がちくりとした。
◆
夕暮れ。森の奥で木の実を拾っていた時だ。
突然、鳥たちが一斉に飛び立った。風向きが変わり、ひんやりとした気配が流れてくる。
「……クロハ、なんか来るで」
「せやな。わいも毛が逆立っとる」
黄緑の瞳が細められる。
耳を澄ますと、地面を踏みしめる重い足音が近づいてきた。
――姿を現したのは、一頭の白狼やった。
雪のように純白の毛並み。全身から淡い光が漂っており、目は鋭い金色に輝いてる。
その存在感に、思わず息を呑んだ。
「……神獣、やと……?」
クロハが低く呟いた。
白狼は俺たちをじっと見据える。威圧感で膝が震えそうになる。
『……人間よ。なぜ、この森にいる?』
声が――頭に響いた。言葉を発するではなく、直接頭に届く念話……だと思う。
「お、俺は……ただ畑を耕して、生きていきたいだけや。争う気はない!」
必死に言葉を返すと、白狼の目が細まった。
その金色の瞳は冷たくも、どこか試すようでもある。
『ふん……。貴様の心に偽りはないようだ。だが、この森は神獣の血を引く我らの縄張り。勝手に住みつくこと、許すと思うか?』
背筋が凍る。
クロハが前に出た。
「おい白狼。こいつはただの人間やない。わいと契約しとるんや。悪さするような奴ちゃう」
『……黒猫の従魔か。だが、貴様の言葉だけで信じるわけにはいかぬ』
白狼は唸り、牙をのぞかせた。空気が張り詰める。
俺は無意識に槍を構えた。けど――戦ったら絶対勝てん。体の奥でわかっとる。
「……それなら、どうすれば信用してもらえるんだ?」
震える声で問うた。
白狼はしばし黙り、そして静かに答えた。
『ならば示せ。森を荒らさず、命を無駄にせぬ生き方を。――もし本当にこの地で耕すつもりなら、その証を見せろ』
そう言い残し、白狼は森の奥へと消えていった。
残された俺とクロハは、しばし動けなかった。
◆
夜。焚き火を囲みながら、俺は息をついた。
「……とんでもない奴に会うたな」
「せやな。あれは“白狼”や。神獣の末裔。森の守護者みたいな存在や」
「白狼……。あいつ、また現れると思うか?」
「現れるやろな。アンタを監視しに」
クロハは尻尾を丸めて眠そうに目を細めた。黄緑の瞳が焚き火に反射して揺れる。
その姿を見ながら、俺は心に誓う。
「……なら、やったろうやないか。畑を育て、この森で生きる姿を見せつけたる」
――それが、白狼ハクとの本当の出会いの始まりやった。
――――――――――――
次回 第5話「白狼ハクと試練の狩り」
焚き火の残り火を片付け、俺は昨日に植えたドン芋の畑へ足を運ぶ。まだ芽は出てないけど、整えられた土を見てるだけで胸が膨らむ。
「さて……今日の課題は水やな」
森の泉から汲んでくることもできるけど、毎日バケツ運びだと大変や。そこで俺は魔法を試すことにした。
「水よ、畑に注げ――」
両手をかざすと、空気の中から水の粒が集まり、じわじわと土に染み込んでいく。
……よし、できた。けど量の調整が難しい。油断すると土がぐちゃぐちゃになる。
「はー……まだ修行が足らんな」
腰に手を当てていると、後ろから気だるげな声が飛んできた。
「アンタ、よう飽きんもんやなぁ」
振り返れば、黄緑色の瞳をした黒猫クロハが、木の根っこに寝そべっていた。日向に体を預け、尻尾をゆったり揺らしている。
「農業は日々の積み重ねや。飽きるとかそういうもんやない」
「ふーん。わいから見りゃ、泥遊びと変わらんけどな」
「ほな手伝わんでええわ」
「もともと手伝う気なんかあらへん」
にやりと口を吊り上げるクロハ。こいつ、わざとやっとるやろ。
……けど、不思議と腹は立たん。こうして言葉を交わせるだけで、心が和むんや。
◆
午前中は畑の世話、昼は食糧探し。森の中で生活のリズムができ始めた。
今日は新しい食材を見つけようと、泉の下流を歩いていたら――
「おっ、魚や!」
澄んだ水に銀色の魚影がいくつも泳いでいる。
石を投げて追い込んでみたけど、すばしっこくて掴まらへん。
「クロハ、なんかええ方法ないか?」
「ふふん、魚取りはわいの得意分野や」
クロハがしゅばっと飛び込む。水しぶきが上がり、数秒後には魚を咥えて戻ってきた。
黄緑色の瞳がキラキラと輝いてる。さっきまでの不貞腐れた顔とえらい違いで、嬉しそうな表情に見える。
「どや? 鮮やかやろ?」
「うわ、猫ってほんまに魚好きなんやな……」
「当たり前や! 肉もええけど、魚は別腹や!」
クロハは夢中で魚を平らげた。俺も焚き火で焼いて食ったが、淡白で旨みがあり、米が欲しくなる味だった。
……米。あの白い粒を食える日は来るんやろか。胸がちくりとした。
◆
夕暮れ。森の奥で木の実を拾っていた時だ。
突然、鳥たちが一斉に飛び立った。風向きが変わり、ひんやりとした気配が流れてくる。
「……クロハ、なんか来るで」
「せやな。わいも毛が逆立っとる」
黄緑の瞳が細められる。
耳を澄ますと、地面を踏みしめる重い足音が近づいてきた。
――姿を現したのは、一頭の白狼やった。
雪のように純白の毛並み。全身から淡い光が漂っており、目は鋭い金色に輝いてる。
その存在感に、思わず息を呑んだ。
「……神獣、やと……?」
クロハが低く呟いた。
白狼は俺たちをじっと見据える。威圧感で膝が震えそうになる。
『……人間よ。なぜ、この森にいる?』
声が――頭に響いた。言葉を発するではなく、直接頭に届く念話……だと思う。
「お、俺は……ただ畑を耕して、生きていきたいだけや。争う気はない!」
必死に言葉を返すと、白狼の目が細まった。
その金色の瞳は冷たくも、どこか試すようでもある。
『ふん……。貴様の心に偽りはないようだ。だが、この森は神獣の血を引く我らの縄張り。勝手に住みつくこと、許すと思うか?』
背筋が凍る。
クロハが前に出た。
「おい白狼。こいつはただの人間やない。わいと契約しとるんや。悪さするような奴ちゃう」
『……黒猫の従魔か。だが、貴様の言葉だけで信じるわけにはいかぬ』
白狼は唸り、牙をのぞかせた。空気が張り詰める。
俺は無意識に槍を構えた。けど――戦ったら絶対勝てん。体の奥でわかっとる。
「……それなら、どうすれば信用してもらえるんだ?」
震える声で問うた。
白狼はしばし黙り、そして静かに答えた。
『ならば示せ。森を荒らさず、命を無駄にせぬ生き方を。――もし本当にこの地で耕すつもりなら、その証を見せろ』
そう言い残し、白狼は森の奥へと消えていった。
残された俺とクロハは、しばし動けなかった。
◆
夜。焚き火を囲みながら、俺は息をついた。
「……とんでもない奴に会うたな」
「せやな。あれは“白狼”や。神獣の末裔。森の守護者みたいな存在や」
「白狼……。あいつ、また現れると思うか?」
「現れるやろな。アンタを監視しに」
クロハは尻尾を丸めて眠そうに目を細めた。黄緑の瞳が焚き火に反射して揺れる。
その姿を見ながら、俺は心に誓う。
「……なら、やったろうやないか。畑を育て、この森で生きる姿を見せつけたる」
――それが、白狼ハクとの本当の出会いの始まりやった。
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次回 第5話「白狼ハクと試練の狩り」
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