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7話
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魔道具モニターの仕事といっても、毎日あるわけではない。
むしろ、ヴィクトールが新作魔道具の研究をしている時間の方が長く、エリーゼはその間自由に過ごしていいと言われていた。
刺繍をして過ごしたり、伯爵邸の図書室で本を読んで過ごしたりしている。
特に図書室の蔵書はずいぶんんと充実していて、エリーゼの実家と比べると数倍にも及ぶ蔵書がずらりと並んでいた。図書室の棚は天井まであり、その中に本がぎっしりと詰め込まれている。
「すごい……。ここなら勉強し放題だわ」
エリーゼは貧乏男爵家だったため、王立学校には進学できなかった。後継たる兄は学校の寮に入っていたけれど、父が亡くなってからは領地に戻ってきて後を継いでいる。
貴族として最低限の教養などは身につけていたけれど、学問への道は閉ざされていた。
特に魔法に関しては、エリーゼも興味があったが、学ぶ機会はなかった。
図書の棚は魔法関係の蔵書が充実している。
一冊一冊、背表紙に指を這わせながら、自分でも読めそうな内容のものを探した。
「魔法循環理論入門……。入門書なら私でも読めるかしら」
「おや、魔法循環理論に興味があるのかい?」
突然、背後から声がかかって、エリーゼは驚きつつも振り返る。
「ヴィクトール様……」
「君は勉強熱心だね。休みの日に図書室で本を読もうとは」
「いえ……。実家が貧乏だったので、勉強する機会に恵まれなかったのです」
エリーゼは家の恥を素直に話す。ヴィクトールには散々恥ずかしい姿を見られていたため、素直な心情を打ち明けるのにも抵抗があまりなかった。
「そうだったのか。よければ、魔法理論を僕が講義しようか? 勉強したいなら、協力するよ」
「え? いいんですか!?」
エリーゼは思わぬ申し出に食いつく。
独学よりは、教師がいた方がよほど修得効率がいいだろう。
エリーゼは王宮の舞踏会で見た、魔法のショーを思い返す。氷の薔薇を作ったり、虹の帯でドレスを変幻自在に変化させたり、あの美しいパフォーマンスが自分にもできるように慣れば、ずっと床に臥せっている母を楽しませてあげることもできるかもしれない。
エリーゼがそんな思いを吐露すると、「ふむ」とヴィクトールは顎に手を当てた。
「君は本当にお母様思いなんだね。いいよ、僕が魔法を教えてあげる」
ヴィクトールはくしゃりと破顔した。その笑顔に、エリーゼは一瞬目を奪われる。
一見冷たく見えるほどの整った顔が、今は温かなものに見えた。
図書室にある机に隣り合って座り、入門書を開く。
体温が伝わってくるほどの近い距離に、エリーゼの心臓が跳ねた。なぜか実験の時を思い出してしまい、体が熱くなる。
「エリーゼ?」
「い、いえ。なんでもありません」
ぼうっとしてしまったエリーゼは、慌てて気を引き締めた。せっかく魔法の講義をしてくれるというのだ。集中しなくてはもったいない。
「まず魔法というのは、魔力を通して現象に干渉する術で……」
ヴィクトールの柔らかな声が耳に心地いい。
その日は夕暮れまで、ヴィクトールに魔法理論を教わって過ごした。
「また来週、続きの講義をしようか。私も仕事があるから毎日とはいかないけれど」
「いえ、時折でも教えていただけるだけありがたいです! ヴィクトール様には迷惑をかけて申し訳ないですけど……」
「ううん。僕も楽しかったよ。昔を思い出しちゃったな」
ヴィクトールは、どこか遠くを見るように目を細めた。
「昔?」
「うん。歳の離れた弟がいたんだ。昔は弟にこうやって勉強を教えたりとかしていてね」
弟が『いた』とは、どういうことだろう。すでに亡くなっているのだろうか。
エリーゼは問いたい気持ちがありつつも、踏み込めなくて言葉を呑み込む。
「弟は魔道具の事故で亡くなってね。だから僕は安全な魔道具を開発したくて、魔道具師になったんだ」
「そう、だったのですね」
ヴィクトールが魔道具の安全性に厳しいのは、そういう理由があったらしい。それならば性具の開発にあたって、なかなか見つからないモニターを大金をかけて探していたのも納得だ。
「だから研究開発に協力してくれているエリーゼには本当に感謝しているんだ。僕としては性具の開発はちょっと抵抗のある仕事だったんだけれど、ああやってモニターで気持ちよさそうにしてもらえると、使用者にもこうやって喜んでもらえるのかな、って思えるし」
モニターの仕事をしている時の話を持ち出されて、エリーゼは真っ赤になった。恥じらって身を捩るエリーゼを、ヴィクトールは微笑ましげに見つめる。
「そんなに恥ずかしがらないで。君は立派に仕事をしているんだから」
「は、恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
ヴィクトールはくすくすと笑って怒るエリーゼの頭を撫でた。
「もうっ……」
ヴィクトールは、膨れるエリーゼを嬉しそうに目を細めて見つめる。
人に見せられない姿を見せているせいか、二人の距離は急速に縮まっていっていた。
むしろ、ヴィクトールが新作魔道具の研究をしている時間の方が長く、エリーゼはその間自由に過ごしていいと言われていた。
刺繍をして過ごしたり、伯爵邸の図書室で本を読んで過ごしたりしている。
特に図書室の蔵書はずいぶんんと充実していて、エリーゼの実家と比べると数倍にも及ぶ蔵書がずらりと並んでいた。図書室の棚は天井まであり、その中に本がぎっしりと詰め込まれている。
「すごい……。ここなら勉強し放題だわ」
エリーゼは貧乏男爵家だったため、王立学校には進学できなかった。後継たる兄は学校の寮に入っていたけれど、父が亡くなってからは領地に戻ってきて後を継いでいる。
貴族として最低限の教養などは身につけていたけれど、学問への道は閉ざされていた。
特に魔法に関しては、エリーゼも興味があったが、学ぶ機会はなかった。
図書の棚は魔法関係の蔵書が充実している。
一冊一冊、背表紙に指を這わせながら、自分でも読めそうな内容のものを探した。
「魔法循環理論入門……。入門書なら私でも読めるかしら」
「おや、魔法循環理論に興味があるのかい?」
突然、背後から声がかかって、エリーゼは驚きつつも振り返る。
「ヴィクトール様……」
「君は勉強熱心だね。休みの日に図書室で本を読もうとは」
「いえ……。実家が貧乏だったので、勉強する機会に恵まれなかったのです」
エリーゼは家の恥を素直に話す。ヴィクトールには散々恥ずかしい姿を見られていたため、素直な心情を打ち明けるのにも抵抗があまりなかった。
「そうだったのか。よければ、魔法理論を僕が講義しようか? 勉強したいなら、協力するよ」
「え? いいんですか!?」
エリーゼは思わぬ申し出に食いつく。
独学よりは、教師がいた方がよほど修得効率がいいだろう。
エリーゼは王宮の舞踏会で見た、魔法のショーを思い返す。氷の薔薇を作ったり、虹の帯でドレスを変幻自在に変化させたり、あの美しいパフォーマンスが自分にもできるように慣れば、ずっと床に臥せっている母を楽しませてあげることもできるかもしれない。
エリーゼがそんな思いを吐露すると、「ふむ」とヴィクトールは顎に手を当てた。
「君は本当にお母様思いなんだね。いいよ、僕が魔法を教えてあげる」
ヴィクトールはくしゃりと破顔した。その笑顔に、エリーゼは一瞬目を奪われる。
一見冷たく見えるほどの整った顔が、今は温かなものに見えた。
図書室にある机に隣り合って座り、入門書を開く。
体温が伝わってくるほどの近い距離に、エリーゼの心臓が跳ねた。なぜか実験の時を思い出してしまい、体が熱くなる。
「エリーゼ?」
「い、いえ。なんでもありません」
ぼうっとしてしまったエリーゼは、慌てて気を引き締めた。せっかく魔法の講義をしてくれるというのだ。集中しなくてはもったいない。
「まず魔法というのは、魔力を通して現象に干渉する術で……」
ヴィクトールの柔らかな声が耳に心地いい。
その日は夕暮れまで、ヴィクトールに魔法理論を教わって過ごした。
「また来週、続きの講義をしようか。私も仕事があるから毎日とはいかないけれど」
「いえ、時折でも教えていただけるだけありがたいです! ヴィクトール様には迷惑をかけて申し訳ないですけど……」
「ううん。僕も楽しかったよ。昔を思い出しちゃったな」
ヴィクトールは、どこか遠くを見るように目を細めた。
「昔?」
「うん。歳の離れた弟がいたんだ。昔は弟にこうやって勉強を教えたりとかしていてね」
弟が『いた』とは、どういうことだろう。すでに亡くなっているのだろうか。
エリーゼは問いたい気持ちがありつつも、踏み込めなくて言葉を呑み込む。
「弟は魔道具の事故で亡くなってね。だから僕は安全な魔道具を開発したくて、魔道具師になったんだ」
「そう、だったのですね」
ヴィクトールが魔道具の安全性に厳しいのは、そういう理由があったらしい。それならば性具の開発にあたって、なかなか見つからないモニターを大金をかけて探していたのも納得だ。
「だから研究開発に協力してくれているエリーゼには本当に感謝しているんだ。僕としては性具の開発はちょっと抵抗のある仕事だったんだけれど、ああやってモニターで気持ちよさそうにしてもらえると、使用者にもこうやって喜んでもらえるのかな、って思えるし」
モニターの仕事をしている時の話を持ち出されて、エリーゼは真っ赤になった。恥じらって身を捩るエリーゼを、ヴィクトールは微笑ましげに見つめる。
「そんなに恥ずかしがらないで。君は立派に仕事をしているんだから」
「は、恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
ヴィクトールはくすくすと笑って怒るエリーゼの頭を撫でた。
「もうっ……」
ヴィクトールは、膨れるエリーゼを嬉しそうに目を細めて見つめる。
人に見せられない姿を見せているせいか、二人の距離は急速に縮まっていっていた。
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