8 / 25
8話
しおりを挟む
少しずつ仕事にも慣れ始めてきた頃——。
新たな試練がエリーゼに襲いかかってきていた。
「外出時の遠隔桃玉性能試験?」
ヴィクトールに言われた言葉に、エリーゼは頭に疑問符を浮かべる。
「そう。青玉の遠隔操作を可能にしたものを開発してね。色にちなんで桃玉と名付けたんだけど、それの外出時の性能試験がしたいんだ」
ヴィクトールが取り出したのは、あの振動する水色の球とよく似た形をした、桃色の球だった。
「これを乳首や陰核に取り付けて、外出先で遠隔操作で振動させる。そういう遊び方が実際にできるのかどうか、試してみたい」
「……は、はいぃぃ!?」
何を言っているんだこの人は——と、エリーゼは絶句した。
ヴィクトールの言い分が理解できない。いや、理解したくない。
「使用はデートを想定しているからね。せっかくだから、観劇に行こうか」
王都の国立歌劇場は気になってはいた。確かに観にいってみたいとも。だが、こんな形で、ではない。
「あ、あの……本当に、何を言って……。流石に私、それは嫌です!」
このまま流されてはいけない、とエリーゼは必死で主張する。
その言葉に眉を下げたヴィクトールは、さらさらと小切手に何事か書きつけた。
「じゃあ、臨時手当てを弾もう。これくらいでどうかな?」
示された数字は、母の治療費を補うだけではなく、父の残した借金の返済にも回せるような額だった。
「くっ……うぅ……」
呻くエリーゼ。
「わ、わかりました。やります」
渋々受け入れたエリーゼは、外出の支度をする。
乳首と陰核に桃色の球を取り付けると、吸い付くようなその感触だけで、体が熱くなった。
こんな状態で本当に出かけられるのかと疑問を持ちつつも、臨時手当てのために気力を振り絞ってドレスに着替える。
メイドに手伝ってもらって外出用のサマードレスを着たエリーゼは、一見すると清楚なご令嬢そのものだ。
それなのに乳首と秘部にいやらしい魔道具を取り付けているなんて、その事実にめまいがした。
玄関ホールに降りて行くと、すでに正装に身を包んだヴィクトールが待ち構えていた。
普段降ろされている銀髪は高い位置でハーフアップに結い上げられていて、女性的な美貌をさらに輝かせている。
傾国の美女もかくやという顔立ちに反して、長身の肉体は男性らしく、ジャケットとブリーチズに身を包んだ長い手足は人気俳優のようだ。
そのポケットの中に、桃玉の振動を操る妖しい魔道具のコントローラーが秘められていさえしなければ、エリーゼもデートを歓迎できたものを、と嘆息した。
「じゃあ、早速出かけようか」
いつあの振動が襲ってくるのか、と緊張しながら、エリーゼは馬車に乗り込む。
まずは王宮前の噴水広場で、軽食を食べる予定だった。それから国立歌劇場に行って観劇をする。
エリーゼはその間、いつ襲いくるのかわからない振動を警戒しながら、声を出さないように我慢しなければならない。
デートとは言っても、苦行に近いものだった。
馬車に乗っている間は平和だった。
ヴィクトールはコントローラーの入っているポケットに手を入れる様子はなく、馬車の窓をゆったりと眺めていた。その横顔は妖しいまでに美しく、日中の明るい日差しでさえもその神秘性を損なうことはなかった。
(あんな研究をしているけれど、恋人や婚約者などはいないのかしら……)
ヴィクトールの美しい横顔を眺めながら、エリーゼは思案する。
伯爵という高い身分に、この美しい顔立ち。表に出せる健全な発明だけでも、魔道具師として名を馳せている実績の多さ。年頃の女性は放っておかないだろう。
だが、仕事とはいえ女性の秘部を弄ったりするのだから、恋人はいないのだろうか。
「あの……、ヴィクトール様は、こういうお仕事をされているわけですけれど、恋人はいらっしゃらないのですか?」
気になって仕方がなかったエリーゼは、つい無意識にそんな疑問を口にしてしまう。
「恋人? うーん、いらないかな」
ヴィクトールは珍しく、冷たい口調で突き放すように答えた。
『いる・いない』ではなく、いらないと答えたヴィクトール。そこに何かしらの含みを感じて、エリーゼは不用意な質問をしてしまったことを悔やむ。
どうやらヴィクトールは恋人という存在に何かしらの抵抗感を抱いているようだった。
重苦しい沈黙が馬車を包む。
会話のきっかけを探しながらも何も言い出せないでいる内に、馬車は王宮前の噴水広場へと到着した。
そこは中心に馬と英雄の石像が飾られている美しい円形の広場で、エリーゼも暇な時間に時折遊びにきている場所だ。
王宮前の一等地にあるだけあって、あたりを行き交っているのは美しく着飾った紳士淑女が多い。最近流行りのつばが広い羽付き帽などをかぶっている貴婦人も多く、ぶつからないように気をつけなければならなかった。
「ランチでも食べて行こうか」
ヴィクトールは馬車から降りるエリーゼに手を差し出して言った。
エリーゼはその腕に捕まりながら、ヴィクトールの体に身を預ける。
と、その瞬間。
ヴゥン——。
「っ!?」
乳首に取り付けられている桃玉が振動した。かろうじて声を出すのは抑えたが、体のバランスが崩れる。側から見たら、馬車から降りる時にバランスを崩してしまっただけのように見えるだろう。
ヴィクトールはそれを狙ってスイッチを入れたのだ。
他人から訝しがられないように。
けれど、馬車を出て人目にさらされている羞恥と興奮を深く煽るように。
エリーゼは次第にヴィクトールの習性が見えてきた。
普段は優しく穏やかだが、研究者として冷酷なまでに真面目で、実験のためなら婦女を辱めることも厭わない。
場所が屋外だからといって、情け容赦を期待するだけ無駄だ、とエリーゼは悟った。
(もし周りの人に気づかれちゃったらどうしよう……。声、我慢しなきゃ)
大きな不安に駆られながら、まだデートは始まったばかりだった。
新たな試練がエリーゼに襲いかかってきていた。
「外出時の遠隔桃玉性能試験?」
ヴィクトールに言われた言葉に、エリーゼは頭に疑問符を浮かべる。
「そう。青玉の遠隔操作を可能にしたものを開発してね。色にちなんで桃玉と名付けたんだけど、それの外出時の性能試験がしたいんだ」
ヴィクトールが取り出したのは、あの振動する水色の球とよく似た形をした、桃色の球だった。
「これを乳首や陰核に取り付けて、外出先で遠隔操作で振動させる。そういう遊び方が実際にできるのかどうか、試してみたい」
「……は、はいぃぃ!?」
何を言っているんだこの人は——と、エリーゼは絶句した。
ヴィクトールの言い分が理解できない。いや、理解したくない。
「使用はデートを想定しているからね。せっかくだから、観劇に行こうか」
王都の国立歌劇場は気になってはいた。確かに観にいってみたいとも。だが、こんな形で、ではない。
「あ、あの……本当に、何を言って……。流石に私、それは嫌です!」
このまま流されてはいけない、とエリーゼは必死で主張する。
その言葉に眉を下げたヴィクトールは、さらさらと小切手に何事か書きつけた。
「じゃあ、臨時手当てを弾もう。これくらいでどうかな?」
示された数字は、母の治療費を補うだけではなく、父の残した借金の返済にも回せるような額だった。
「くっ……うぅ……」
呻くエリーゼ。
「わ、わかりました。やります」
渋々受け入れたエリーゼは、外出の支度をする。
乳首と陰核に桃色の球を取り付けると、吸い付くようなその感触だけで、体が熱くなった。
こんな状態で本当に出かけられるのかと疑問を持ちつつも、臨時手当てのために気力を振り絞ってドレスに着替える。
メイドに手伝ってもらって外出用のサマードレスを着たエリーゼは、一見すると清楚なご令嬢そのものだ。
それなのに乳首と秘部にいやらしい魔道具を取り付けているなんて、その事実にめまいがした。
玄関ホールに降りて行くと、すでに正装に身を包んだヴィクトールが待ち構えていた。
普段降ろされている銀髪は高い位置でハーフアップに結い上げられていて、女性的な美貌をさらに輝かせている。
傾国の美女もかくやという顔立ちに反して、長身の肉体は男性らしく、ジャケットとブリーチズに身を包んだ長い手足は人気俳優のようだ。
そのポケットの中に、桃玉の振動を操る妖しい魔道具のコントローラーが秘められていさえしなければ、エリーゼもデートを歓迎できたものを、と嘆息した。
「じゃあ、早速出かけようか」
いつあの振動が襲ってくるのか、と緊張しながら、エリーゼは馬車に乗り込む。
まずは王宮前の噴水広場で、軽食を食べる予定だった。それから国立歌劇場に行って観劇をする。
エリーゼはその間、いつ襲いくるのかわからない振動を警戒しながら、声を出さないように我慢しなければならない。
デートとは言っても、苦行に近いものだった。
馬車に乗っている間は平和だった。
ヴィクトールはコントローラーの入っているポケットに手を入れる様子はなく、馬車の窓をゆったりと眺めていた。その横顔は妖しいまでに美しく、日中の明るい日差しでさえもその神秘性を損なうことはなかった。
(あんな研究をしているけれど、恋人や婚約者などはいないのかしら……)
ヴィクトールの美しい横顔を眺めながら、エリーゼは思案する。
伯爵という高い身分に、この美しい顔立ち。表に出せる健全な発明だけでも、魔道具師として名を馳せている実績の多さ。年頃の女性は放っておかないだろう。
だが、仕事とはいえ女性の秘部を弄ったりするのだから、恋人はいないのだろうか。
「あの……、ヴィクトール様は、こういうお仕事をされているわけですけれど、恋人はいらっしゃらないのですか?」
気になって仕方がなかったエリーゼは、つい無意識にそんな疑問を口にしてしまう。
「恋人? うーん、いらないかな」
ヴィクトールは珍しく、冷たい口調で突き放すように答えた。
『いる・いない』ではなく、いらないと答えたヴィクトール。そこに何かしらの含みを感じて、エリーゼは不用意な質問をしてしまったことを悔やむ。
どうやらヴィクトールは恋人という存在に何かしらの抵抗感を抱いているようだった。
重苦しい沈黙が馬車を包む。
会話のきっかけを探しながらも何も言い出せないでいる内に、馬車は王宮前の噴水広場へと到着した。
そこは中心に馬と英雄の石像が飾られている美しい円形の広場で、エリーゼも暇な時間に時折遊びにきている場所だ。
王宮前の一等地にあるだけあって、あたりを行き交っているのは美しく着飾った紳士淑女が多い。最近流行りのつばが広い羽付き帽などをかぶっている貴婦人も多く、ぶつからないように気をつけなければならなかった。
「ランチでも食べて行こうか」
ヴィクトールは馬車から降りるエリーゼに手を差し出して言った。
エリーゼはその腕に捕まりながら、ヴィクトールの体に身を預ける。
と、その瞬間。
ヴゥン——。
「っ!?」
乳首に取り付けられている桃玉が振動した。かろうじて声を出すのは抑えたが、体のバランスが崩れる。側から見たら、馬車から降りる時にバランスを崩してしまっただけのように見えるだろう。
ヴィクトールはそれを狙ってスイッチを入れたのだ。
他人から訝しがられないように。
けれど、馬車を出て人目にさらされている羞恥と興奮を深く煽るように。
エリーゼは次第にヴィクトールの習性が見えてきた。
普段は優しく穏やかだが、研究者として冷酷なまでに真面目で、実験のためなら婦女を辱めることも厭わない。
場所が屋外だからといって、情け容赦を期待するだけ無駄だ、とエリーゼは悟った。
(もし周りの人に気づかれちゃったらどうしよう……。声、我慢しなきゃ)
大きな不安に駆られながら、まだデートは始まったばかりだった。
13
あなたにおすすめの小説
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる