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17話
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「エリーゼ、大丈夫かい? もうすぐ宿屋に着くからね」
ヴィクトールは優しくエリーゼに語りかけた。
だが、エリーゼは息も絶え絶えで、なかなか返事もままならない。
そんな様子を見て、ヴィクトールは眉を下げる。
「エリーゼ。薬を盛られたんだね。大丈夫かい?」
「は、はい……体が熱くて……」
息が苦しい。胸が苦しい。体が熱くて、触って欲しい。
媚薬という言葉の意味を、ヴィクトールに抱き上げられてから思い知った。
グリム子爵に触れられた時は気持ち悪さが優っていたが、ヴィクトールに触れられると、そこから快楽が生み出されてしまう。何よりもこれまでのモニター仕事で味わった快楽の記憶が、ヴィクトールと接していると蘇ってきてしまった。
「辛いよね。大丈夫。宿屋に着いたらすぐ楽にしてあげるよ」
その言葉の意味を問うだけの余裕は、エリーゼにはなかった。
速歩で走らせている馬車が子爵領の領都にある宿屋へ辿り着き、馬車停めに停められる。
ヴィクトールはエリーゼを横抱きにして馬車から降ろすと、足早に宿屋へと入っていった。
「事前に連絡していたシュタインフェルト伯爵だ。最上級の部屋を」
オズワルドが宿の主人に指示を出し、上級貴族を前にして可哀想なほどに恐縮した宿の主人が最上級の部屋へと案内する。
その宿屋は街の中では特に上等な宿のようで、部屋には毛足の長い絨毯が敷かれ、ベッドも大きく、ふかふかしていた。
ヴィクトールは部屋にはいると、そこへエリーゼを横たえる。
「エリーゼ……言いにくいんだが、君に使われている媚薬は恐らく、精を与えるまで解毒できない魔法薬だ」
「精を与えるまで解毒できない、魔法薬?」
ヴィクトールの言っている意味がわからず、エリーゼは鸚鵡返しに尋ねる。
「そう。男と交わり、その精を子の宮で受け止めなければ、解毒できない。そうしなければ、いずれは媚薬の効果で衰弱して死んでしまうだろう」
「そ、そんなっ……」
それほど凶悪な薬を、盛ってきたというのか、あの子爵は。
(一体私になんの恨みがあって、これほど酷いことをしたの……)
きっと、恨みなどではなく、ただ人をいたぶるのが楽しかったのだろう。
いずれにせよ、エリーゼが窮地に立たされていることに変わりはない。
ヴィクトールは絶望するエリーゼに対し、静かな眼差しを向けた。
「僕は君を失いたくないと思っている。エリーゼ。きちんと責任は取るつもりだ。君の純潔を僕にくれないか?」
「それってつまり……」
エリーゼとて、鈍い女ではない。言葉の裏くらい、貴族令嬢として人並みに読める。
ヴィクトールが言っているのは要するに、求婚の言葉だった。
信じられない思いでヴィクトールを見つめる。
伯爵家なんて、貧乏男爵家出身のエリーゼにとっては雲の上の存在だ。
その上実家は借金まみれ、母は病気で治療費もかかる。
借金こそ子爵がチャラにしてくれると言ったが、これまでの債務生活で逼迫した家計がすぐに戻るわけではない。
持参金だって満足に用意はできないし、伯爵夫人としての教養だって自信がない。
「わ、私は……、私では、ヴィクトール様に釣り合いませんっ」
「僕の研究内容を知っても偏見の目を向けず、ひたむきに協力してくれるような女性、他にいないよ。僕には君しかいないんだ」
「そんなっ……」
「それに、急かすようですまないが、もう時間がない。薬の作用は君の体をどんどん蝕んでいく。僕は君に死んでほしくないんだ」
ヴィクトールに告げられて、エリーゼの頭は沸騰しそうになる。次から次へと目まぐるしく変化する状況に、気を失ってしまいそうだ。
だが、返事をするまで気絶するわけにはいかない。
(生きて帰らなきゃ。お母様とお兄様に私を送り出したこと、きっと一生後悔させてしまう。それに……)
ヴィクトールに触れられるのは、嫌ではなかった。
ヴィクトールと交わることを想像しても、不思議と嫌悪感はかけらも感じない。
事この後に及んでしまえば、エリーゼもヴィクトールが自分にとって特別な存在であることを、認めざるを得なかった。
「わかりました。ヴィクトール様。あなたに体を、人生を預けます」
熱く潤んだ瞳で、ヴィクトールを見上げる。
ヴィクトールは息を呑んでエリーゼの瞳を見返した。
ゆっくりとヴィクトールの唇がエリーゼのそれに落ちてきて、触れ合う。
その口付けはすぐに、深いものへと変わった。
あれだけいやらしい実験を何度も共にした二人であるが、直接こうやって男女の触れ合いをするのは初めてである。
ヴィクトールとの口付けは、エリーゼが想像したよりもはるかに甘美だった。
ぬるりとした舌が口中を自在に這い回り、エリーゼを翻弄する。
歯列をなぞられればくすぐったいような感覚で背筋がゾワゾワとなる。それは決して不快な感覚ではなく、むしろ胸の奥が締め付けられるような甘い切なさをもたらすものだった。
ヴィクトールは優しくエリーゼに語りかけた。
だが、エリーゼは息も絶え絶えで、なかなか返事もままならない。
そんな様子を見て、ヴィクトールは眉を下げる。
「エリーゼ。薬を盛られたんだね。大丈夫かい?」
「は、はい……体が熱くて……」
息が苦しい。胸が苦しい。体が熱くて、触って欲しい。
媚薬という言葉の意味を、ヴィクトールに抱き上げられてから思い知った。
グリム子爵に触れられた時は気持ち悪さが優っていたが、ヴィクトールに触れられると、そこから快楽が生み出されてしまう。何よりもこれまでのモニター仕事で味わった快楽の記憶が、ヴィクトールと接していると蘇ってきてしまった。
「辛いよね。大丈夫。宿屋に着いたらすぐ楽にしてあげるよ」
その言葉の意味を問うだけの余裕は、エリーゼにはなかった。
速歩で走らせている馬車が子爵領の領都にある宿屋へ辿り着き、馬車停めに停められる。
ヴィクトールはエリーゼを横抱きにして馬車から降ろすと、足早に宿屋へと入っていった。
「事前に連絡していたシュタインフェルト伯爵だ。最上級の部屋を」
オズワルドが宿の主人に指示を出し、上級貴族を前にして可哀想なほどに恐縮した宿の主人が最上級の部屋へと案内する。
その宿屋は街の中では特に上等な宿のようで、部屋には毛足の長い絨毯が敷かれ、ベッドも大きく、ふかふかしていた。
ヴィクトールは部屋にはいると、そこへエリーゼを横たえる。
「エリーゼ……言いにくいんだが、君に使われている媚薬は恐らく、精を与えるまで解毒できない魔法薬だ」
「精を与えるまで解毒できない、魔法薬?」
ヴィクトールの言っている意味がわからず、エリーゼは鸚鵡返しに尋ねる。
「そう。男と交わり、その精を子の宮で受け止めなければ、解毒できない。そうしなければ、いずれは媚薬の効果で衰弱して死んでしまうだろう」
「そ、そんなっ……」
それほど凶悪な薬を、盛ってきたというのか、あの子爵は。
(一体私になんの恨みがあって、これほど酷いことをしたの……)
きっと、恨みなどではなく、ただ人をいたぶるのが楽しかったのだろう。
いずれにせよ、エリーゼが窮地に立たされていることに変わりはない。
ヴィクトールは絶望するエリーゼに対し、静かな眼差しを向けた。
「僕は君を失いたくないと思っている。エリーゼ。きちんと責任は取るつもりだ。君の純潔を僕にくれないか?」
「それってつまり……」
エリーゼとて、鈍い女ではない。言葉の裏くらい、貴族令嬢として人並みに読める。
ヴィクトールが言っているのは要するに、求婚の言葉だった。
信じられない思いでヴィクトールを見つめる。
伯爵家なんて、貧乏男爵家出身のエリーゼにとっては雲の上の存在だ。
その上実家は借金まみれ、母は病気で治療費もかかる。
借金こそ子爵がチャラにしてくれると言ったが、これまでの債務生活で逼迫した家計がすぐに戻るわけではない。
持参金だって満足に用意はできないし、伯爵夫人としての教養だって自信がない。
「わ、私は……、私では、ヴィクトール様に釣り合いませんっ」
「僕の研究内容を知っても偏見の目を向けず、ひたむきに協力してくれるような女性、他にいないよ。僕には君しかいないんだ」
「そんなっ……」
「それに、急かすようですまないが、もう時間がない。薬の作用は君の体をどんどん蝕んでいく。僕は君に死んでほしくないんだ」
ヴィクトールに告げられて、エリーゼの頭は沸騰しそうになる。次から次へと目まぐるしく変化する状況に、気を失ってしまいそうだ。
だが、返事をするまで気絶するわけにはいかない。
(生きて帰らなきゃ。お母様とお兄様に私を送り出したこと、きっと一生後悔させてしまう。それに……)
ヴィクトールに触れられるのは、嫌ではなかった。
ヴィクトールと交わることを想像しても、不思議と嫌悪感はかけらも感じない。
事この後に及んでしまえば、エリーゼもヴィクトールが自分にとって特別な存在であることを、認めざるを得なかった。
「わかりました。ヴィクトール様。あなたに体を、人生を預けます」
熱く潤んだ瞳で、ヴィクトールを見上げる。
ヴィクトールは息を呑んでエリーゼの瞳を見返した。
ゆっくりとヴィクトールの唇がエリーゼのそれに落ちてきて、触れ合う。
その口付けはすぐに、深いものへと変わった。
あれだけいやらしい実験を何度も共にした二人であるが、直接こうやって男女の触れ合いをするのは初めてである。
ヴィクトールとの口付けは、エリーゼが想像したよりもはるかに甘美だった。
ぬるりとした舌が口中を自在に這い回り、エリーゼを翻弄する。
歯列をなぞられればくすぐったいような感覚で背筋がゾワゾワとなる。それは決して不快な感覚ではなく、むしろ胸の奥が締め付けられるような甘い切なさをもたらすものだった。
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