【R18】魔術師伯爵の秘密実験〜快楽の代償は溺愛でした〜

布団のノラネコ

文字の大きさ
24 / 25

24話

しおりを挟む
 無事に舞踏会での顔見せが終わった。

 次は婚約お披露目パーティーの準備だ。

 準備期間中、エリーゼは目まぐるしく働いた。アルトマン伯爵夫人から、伯爵夫人としての心得や仕事を教わり、それと同時進行でお披露目パーティーの差配を振るう。

 アドバイスを受けながらも、女主人はエリーゼであるため、最終決定権はエリーゼにある。仕事はかけらもサボれない。

「エリーゼ様、テーブルクロスはこちらの白地に金の刺繍が入ったものでよろしいでしょうか?」
「ええ。それで結構です。ただし、シミや綻びがないか、使用前に必ず確認してください」
「かしこまりました」

 メイドたちに指示を出しながら、エリーゼは招待客のリストに目を通す。

 上級貴族にヴィクトールと親交のある魔道具師たち。招待客は百人を超える。その一人一人の席次をきめ、食事の好みを把握しなければならない。

「エリーゼ、無理をしていないかい?」

 執務室から出てきたヴィクトールが、心配そうにエリーゼの顔を覗き込んだ。

「大丈夫です。これくらい、伯爵夫人になるための修行だと思えば」
「でも、顔色が悪いよ……。少し休んだほうがいい」
「ヴィクトール様こそ、最近お忙しそうですね。王族からの依頼の魔道具、納期が迫っているのでは?」

 エリーゼがそう問いかけると、ヴィクトールは少し困ったように眉を下げた。

「まあ、そうなんだけど。でも、君のほうが心配だよ」
「ありがとうございます。でも準備は順調に進んでいますから」

 多忙な中でも互いを慈しみ合い、お披露目パーティーだけでなく二人の関係も順調だった。

 そして、ついにその日を迎える。

 早朝から屋敷は大忙しだ。使用人たちが会場の最終チェックをし、料理人たちは厨房で腕を振るっている。

「エリーゼ様、お召し物の準備ができております」

 メイドに促されて、エリーゼは自室へ向かった。

 そこには、アルトマン夫人と相談して特別に仕立てた、豪華なドレスが用意されていた。

 淡いラベンダー色のシルクに、繊細な銀糸の刺繍が施されている。胸元と袖口には小さな宝石が散りばめられていて、光を受けるとキラキラと輝く。

「本当に素敵……」

 エリーゼは思わずうっとりとため息を吐いた。

 メイドたちの手を借りて、丁寧にドレスを着込んでいく。
 コルセットをきつく閉められ、スカートの下にはパニエが何枚も重ねられている。

 髪は優雅に結い上げられ、ヴィクトールから贈られた宝石のティアラが飾られた。

「エリーゼ様、本当にお美しい……」

 鏡に映る自分を見て、エリーゼ自身も驚いた。まるで別人のように華やかで、気品に満ちている。

「これなら、伯爵夫人として恥ずかしくないかしら……」

 緊張を押し殺しながら、エリーゼは深く深呼吸した。

 そのとき、ドアがノックされる。

「エリーゼ、準備はできたかい?」

 ヴィクトールの声だ。

「はい、ただいま」

 エリーゼがドアを開けると、ヴィクトールは目を見開いた。

「綺麗だ……エリーゼ」

 ヴィクトールも正装に身を包んでいた。白を基調とした礼服に、エリーゼの栗色の髪と青い瞳に合わせた刺繍と宝石が散りばめられている。
 彼の美しい容姿と相待って、まるで伝説の貴公子のようだ。

「ヴィクトール様も、とてもお似合いです」

 二人は見つめ合い、微笑んだ。

「さあ、行こうか。君の晴れ舞台だ」

 二人は歩き出し、来客を出迎えるべく階下へと降りる。

 大広間は美しく飾り付けられていた。

 シャンデリアの魔道具が煌々と光り輝き、テーブルには豪華な料理が並んでいる。今日のために特別に雇った楽団が優雅な音楽を奏で、招待客たちは談笑している。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。私は新たな妻として、このエリーゼ・フォン・リヒテンベルクを迎えることといたしました。皆様におかれましては、伯爵家の新たなる門出を祝福していただけますと幸いです」

 ヴィクトールが招待客に挨拶をし、エリーゼを紹介する。

「まあ、なんて美しい方なの」
「リヒテンベルクといえば、南の田舎の方にある男爵領か……名門のシュタインフェルト伯爵家と結ばれるとは……」
「でも、なんだか雰囲気がお似合いだわ」

 人々は口々に囁き合い、エリーゼを品評するもの、祝福するもの、微笑ましげに見守るものと様々な視線が向けられた。

 その視線にも臆さずに、エリーゼはピンと背筋を伸ばして迎え入れる。

 人の群衆の中には、エリーゼの母と兄も含まれていた。

 それぞれ滂沱の涙を流しながら、エリーゼを見つめている。

 (もう、お母様とお兄様ったら、そんなに感動して泣かなくてもいいのに……)

 壇上での挨拶が終わったら、それぞれ招待客と挨拶を交わしていく。

 招待客リストは完璧に頭に入れてきたから、なんとか粗相はせずに挨拶を済ませることができた。

「本当におめでとう、ヴィクトール」
「ヨハン、ありがとう」
「今日のエリーゼ嬢は格別に美しいな、ヴィクトール、この幸せ者め」
「はは、だろう?」

 中でもヴィクトールの友人であるヨハンは気さくで、挨拶の緊張で疲れた心が少し休まった。

 エリーゼの家族、ヴィクトールの家族ともそれぞれ顔合わせを済ませて、お披露目パーティーはつつがなく進む。

 パーティーも終盤に差し掛かった頃、アルトマン伯爵夫人がエリーゼの元へやってきた。

「エリーゼ、素晴らしいパーティーでしたわ」
「アルトマン夫人、ありがとうございます。夫人のご指導のおかげです」
「いいえ、これは貴方自身の努力の賜物よ。よくここまで成長されました」

 夫人は満足げに微笑むと、エリーゼの手を取った。

「これから先、伯爵夫人として様々な困難があるでしょう。でも、貴方ならきっと乗り越えられる。そう確信しています」
「夫人……」
「そして、何かあれば遠慮なく私を頼りなさい。貴方は今や、私の大切な教え子なのですから」

 その言葉に、エリーゼは目頭が熱くなった。

「ありがとうございます、夫人」

 二人は固く抱き合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

処理中です...