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4話
翌日、私は早起きをして買い物に出かけた。
玲司はそれよりも早く起きて会社に行ったらしい。
契約結婚とはいえ生活の面倒を見てもらう以上、明日以降はできれば朝食の用意などもしてあげたほうがいいだろうか。そのためには、五時には起きなければならない。
(あんな生活、絶対体を壊すもの)
朝も惣菜パンの空袋がゴミ箱に捨てられていた。飲み物は缶コーヒーを飲んだらしい。あまりにも不健康だ。
近くの家電量販店に行くと、私はカートを押して次から次へと調理器具をカゴに入れていく。
フライパンに包丁、鍋、フライ返しやおたま、まな板など。
昨日チェックしたところ、玲司の家には調理器具らしい調理器具は何もなかった。かろうじて電気ケトルと電子レンジが鎮座しているくらいだ。
使い勝手の良さそうなオシャレなシステムキッチンがあると言うのに、随分ともったいないことである。
(今日は何を作ろうか……)
なんとなく玲司は和食より洋食のイメージだった。
絶対に足りていないであろう野菜を補えるメニューがいい。
だが、玲司に好き嫌いはあるだろうか。
『今日の夕飯、作っておこうかと思うのですが、好き嫌いはありますか?』
『ない。好きにしろ』
メッセージで玲司に問いかけると、冷たい返事が返ってきた。
献立を決める際に、好きにしろという返事が一番難しい。
だが、実際私は好き勝手に動いているだけな以上、求めるのも酷というものだろうか。
ひとまず私は、ハンバーグとポトフを作ることにした。これなら不足している野菜も補えるし、好き嫌いが分かれにくいメニューだろう。
夕方、帰宅した私はキッチンに立っていた。
新しく買った調理器具を使うのは、なんだか気持ちがいい。
ハンバーグにバターライス、シーザーサラダとポトフを手際よく作っていく。
料理は好きだった。
リウマチで手が強張る母の代わりに、料理は私が担当していたのだ。両親からの評判も良かったし、友達を招いてのパーティーなどでも褒めてもらえた。
玲司も喜んでくれるといいのだが。
九時を過ぎる頃に、玲司は帰宅した。
「おかえりなさい。玲司さん」
そう声をかけると、なぜか玲司は驚いたように目を見開いた。
「あ、ああ。……なんだ? この匂いは」
「ああ、夕食を作っておいたんです。ハンバーグとポトフですよ。良かったら一緒に食べましょう」
「まだ食べていなかったのか」
玲司はそう言うと、ネクタイを外してジャケットを脱いだ。見目のいい男がそんな風にしていると、不覚にもドキッとしてしまう。
「次からは待たなくていい。先に食べていろ」
玲司は冷たくそう言い放つと、ダイニングテーブルに長い脚を折って座った。
「いえ、食べれる時は一緒に食べましょう。このままの距離感だとご親族を騙せなさそうです」
「……それもそうか」
私が心配しているのはそこだった。
玲司の実務的で淡々とした態度は、恋人に対するそれとは程遠い。
このままお互いのことをよく知らずに再来週の会食に臨むことは避けたかった。
婚姻届を出す前に、親族に事情バレして契約結婚が破綻し借金の肩代わりも帳消し、だなんてことになったら目も当てられない。
「それじゃあ、いただきます」
「……いただきます」
手を合わせて、ご飯を手に取る。
玲司は破綻した食生活を送っている割には、食べ方は上品で綺麗だった。
流石に育ちが良さそうなだけある。
「……うまい」
玲司はハンバーグを一口食べると、驚いたように目を見開いてつぶやいた。
「美味しいですか? 良かった」
「いや、これはその……」
不本意に漏れ出した言葉だったのだろうか。玲司はモゴモゴと何か言い訳するように呟くと、無言で食べすすめていった。
だが、その箸の動きは止まる様子を見せず、食事自体は気に入ってくれているようである。
「明日は朝食も用意しておきます。何か食べたいものはありますか?」
「……なんでもいい」
断られるだろうか、と思いながらも問いかけると、玲司は一言呟いた。
朝食を作ること自体には賛成してくれているようだ。夕食を気に入ってくれたからだろうか。
(明日は和食にしよう。鮭も買ってあるし、お味噌汁と、納豆ご飯でいいかな)
そんな風に考えていると、食事を終えた玲司が無言で席をたち、キッチンの方へ向かう。
「玲司さん?」
「おかわりをもらう。いいか?」
「あ、はい」
余ったポトフは明日の自分のお昼ご飯にしようと思っていたのだが、玲司はよほど今日の夕食が気に入ったらしい。
鍋に残ったポトフをたっぷりと器にさらうと、かすかに微笑みを浮かべて席についた。
(わ、笑った……!)
顔を合わせてからこのかた鉄面皮しか見たことのなかった玲司が、微笑んでいる。
それも、自分の用意した食事を前にして、だ。
(何、この気持ち……すごい嬉しい……)
なんだか、胸の奥がギュッと締め付けられるような、心が何かに満たされていくような。不思議な感慨が私を襲った。
玲司はそれよりも早く起きて会社に行ったらしい。
契約結婚とはいえ生活の面倒を見てもらう以上、明日以降はできれば朝食の用意などもしてあげたほうがいいだろうか。そのためには、五時には起きなければならない。
(あんな生活、絶対体を壊すもの)
朝も惣菜パンの空袋がゴミ箱に捨てられていた。飲み物は缶コーヒーを飲んだらしい。あまりにも不健康だ。
近くの家電量販店に行くと、私はカートを押して次から次へと調理器具をカゴに入れていく。
フライパンに包丁、鍋、フライ返しやおたま、まな板など。
昨日チェックしたところ、玲司の家には調理器具らしい調理器具は何もなかった。かろうじて電気ケトルと電子レンジが鎮座しているくらいだ。
使い勝手の良さそうなオシャレなシステムキッチンがあると言うのに、随分ともったいないことである。
(今日は何を作ろうか……)
なんとなく玲司は和食より洋食のイメージだった。
絶対に足りていないであろう野菜を補えるメニューがいい。
だが、玲司に好き嫌いはあるだろうか。
『今日の夕飯、作っておこうかと思うのですが、好き嫌いはありますか?』
『ない。好きにしろ』
メッセージで玲司に問いかけると、冷たい返事が返ってきた。
献立を決める際に、好きにしろという返事が一番難しい。
だが、実際私は好き勝手に動いているだけな以上、求めるのも酷というものだろうか。
ひとまず私は、ハンバーグとポトフを作ることにした。これなら不足している野菜も補えるし、好き嫌いが分かれにくいメニューだろう。
夕方、帰宅した私はキッチンに立っていた。
新しく買った調理器具を使うのは、なんだか気持ちがいい。
ハンバーグにバターライス、シーザーサラダとポトフを手際よく作っていく。
料理は好きだった。
リウマチで手が強張る母の代わりに、料理は私が担当していたのだ。両親からの評判も良かったし、友達を招いてのパーティーなどでも褒めてもらえた。
玲司も喜んでくれるといいのだが。
九時を過ぎる頃に、玲司は帰宅した。
「おかえりなさい。玲司さん」
そう声をかけると、なぜか玲司は驚いたように目を見開いた。
「あ、ああ。……なんだ? この匂いは」
「ああ、夕食を作っておいたんです。ハンバーグとポトフですよ。良かったら一緒に食べましょう」
「まだ食べていなかったのか」
玲司はそう言うと、ネクタイを外してジャケットを脱いだ。見目のいい男がそんな風にしていると、不覚にもドキッとしてしまう。
「次からは待たなくていい。先に食べていろ」
玲司は冷たくそう言い放つと、ダイニングテーブルに長い脚を折って座った。
「いえ、食べれる時は一緒に食べましょう。このままの距離感だとご親族を騙せなさそうです」
「……それもそうか」
私が心配しているのはそこだった。
玲司の実務的で淡々とした態度は、恋人に対するそれとは程遠い。
このままお互いのことをよく知らずに再来週の会食に臨むことは避けたかった。
婚姻届を出す前に、親族に事情バレして契約結婚が破綻し借金の肩代わりも帳消し、だなんてことになったら目も当てられない。
「それじゃあ、いただきます」
「……いただきます」
手を合わせて、ご飯を手に取る。
玲司は破綻した食生活を送っている割には、食べ方は上品で綺麗だった。
流石に育ちが良さそうなだけある。
「……うまい」
玲司はハンバーグを一口食べると、驚いたように目を見開いてつぶやいた。
「美味しいですか? 良かった」
「いや、これはその……」
不本意に漏れ出した言葉だったのだろうか。玲司はモゴモゴと何か言い訳するように呟くと、無言で食べすすめていった。
だが、その箸の動きは止まる様子を見せず、食事自体は気に入ってくれているようである。
「明日は朝食も用意しておきます。何か食べたいものはありますか?」
「……なんでもいい」
断られるだろうか、と思いながらも問いかけると、玲司は一言呟いた。
朝食を作ること自体には賛成してくれているようだ。夕食を気に入ってくれたからだろうか。
(明日は和食にしよう。鮭も買ってあるし、お味噌汁と、納豆ご飯でいいかな)
そんな風に考えていると、食事を終えた玲司が無言で席をたち、キッチンの方へ向かう。
「玲司さん?」
「おかわりをもらう。いいか?」
「あ、はい」
余ったポトフは明日の自分のお昼ご飯にしようと思っていたのだが、玲司はよほど今日の夕食が気に入ったらしい。
鍋に残ったポトフをたっぷりと器にさらうと、かすかに微笑みを浮かべて席についた。
(わ、笑った……!)
顔を合わせてからこのかた鉄面皮しか見たことのなかった玲司が、微笑んでいる。
それも、自分の用意した食事を前にして、だ。
(何、この気持ち……すごい嬉しい……)
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