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13話
仕事を始めてから一ヶ月が経った。
その間、玲司は毎晩私と一緒に寝たがった。
玲司への想いをすでに自覚してしまっている私は、彼との距離感を掴みあぐねて悩んでいたりもした。それに、慣れない職場だったのもあるかもしれない。
(インフルエンザ……まじか……)
見事に私は体調を崩していた。
季節はもう真冬だ。職場でもインフルエンザが流行っていた。
昼休みに、喉の痛みとだるさ、熱っぽさを自覚した私は、早退させてもらい、そのまま病院へ行った。
そこで案の定、インフルエンザの診断がついたのだった。
『やっぱりインフルエンザでした。しばらくお休みさせていただきます。ご迷惑おかけします。PS.冷凍庫に作り置きが用意してあるので適当に食べてください』
玲司にメッセージを送り、経口補水液をがぶ飲みすると私はベッドに横になった。
久しぶりに自分の寝室で一人でいると、妙な心細さで泣きそうになる。人は体調を崩すと寂しがりになるという、まさにそのパターンだろうか。
体がだるいし節々が痛いし、悪寒がするのに汗はかく。全身の機能がとち狂ったようになってしまっていて、目が回りそうだった。
意識が沈んだり、浮いたりを繰り返している。夢を見ているのか現実なのかもよくわからない中、どこか遠くでドアの開く音が聞こえた気がした。
「……衣……結衣……」
「ん……玲司、さん?」
誰かに頭を撫でられている感触がして、ふわふわと歪んでいた視界が徐々に収束していく。いつの間に帰ってきたのだろうか、玲司がベッドに腰掛けていた。
「起きたか。体調はどうだ? 何か食べられそうか?」
「んー。しょくよくないれす……」
「まだ大分調子悪そうだな。待ってろ、水持ってくる」
「待って……」
せっかく帰ってきた玲司がどこかに行ってしまうのが寂しくて、袖を掴んで引き留める。
「すぐ戻ってくるから」
寂しくて眉を下げる私を見て、玲司は苦笑いすると、頭をポンポンと叩いてきた。
コップに冷たい水を入れて、玲司が戻ってくる。
横になっていた私の体を抱き起こすと、甲斐甲斐しく飲ませてくれた。熱でひび割れた喉に、冷たい水がスルスルと通っていくのが心地いい。
「今、何時?」
「まだ五時半だ」
「こんな時間に帰ってきてくれたの。ごめんなさい……」
いつも玲司は早くても八時過ぎまで仕事をしているのに、この時間に帰ってきたのはきっと私のせいだろう。
「いい。どうせ心配で仕事が手につかなかったから」
そんなに心配してくれていたのか。体調不良でクサクサしていた心が、玲司の言葉で癒される。
「ごめんなさい。ありがとう……」
「冷却シートとアイス枕買ってきた。俺は風邪ひかないから、この家そういうのなかったんだよな」
羨ましいことに、玲司はまったく風邪など引かない体質らしい。最後に風邪を引いたのは小学生の時なのだとか。
私はそんなに体が強い方ではないから、時々は体調も崩す。そんな私のためだけにアイス枕など買ってもらうのは申し訳ないような気もした。
だけど、実際に使ってみると、すごく冷たくて気持ちがいい。熱で頭痛がしていたのが、冷やすと少し治まってきた。
「レトルトの卵粥も買ってきた。食欲なくても薬飲む前に少しは腹に入れとけ」
「んー、でも、食べれそうにない……」
「じゃあ、あーんしてやろうか?」
私が弱音を吐くと、玲司は冗談めかしてそう言った。まったく、心臓に悪い冗談を体調不良の時に言うのはやめてほしいものだ。
私が固まっていると、玲司はくつくつと笑って、「いいから、少しは食え。今用意してくる」と甲斐甲斐しくもキッチンへ向かったのだった。
玲司が去って行った途端に、物寂しさに襲われる。ずっと隣にいてほしい。手を握っててほしい。なんて、思ってしまう。
ダメだ。病気で気が弱ると、変なことを口走ってしまいそう。
なんとか気持ちを立て直さなければ、とベッドで一人唸っているうちに、卵粥の用意ができたのか、玲司が深皿を持って寝室に入ってきた。
「ほら、ベッドの上でいいから食べな」
ベッドボードに背を預けながら、ふぅふぅと冷まして一口、二口と食べる。レトルトだけれど、完成度は高くて、適度な塩味が心地いい。
「ありがとう、買ってきてくれて。美味しい」
「そうか。よかった。薬もちゃんと飲めよ? 処方されているだろ」
「うん」
おかゆは三分の一ほど食べて限界になったので残して、病院で処方された解熱剤と抗ウイルス薬を飲む。
「あとは寝てろ」
「はい。……あの、うつしちゃったらごめんなさい」
「俺は大丈夫だ。気にするな」
玲司は私の頭をサッと撫でると、去っていった。ドア越しにリビングの方から柔らかい光が漏れている。
私はずっと実家暮らしだったから、こういう時にひとりぼっちという経験がない。今日も、玲司が居てくれてよかったなと思う。
仮初とはいえ夫婦として、助け合える関係になれているような気がして嬉しかった。
その間、玲司は毎晩私と一緒に寝たがった。
玲司への想いをすでに自覚してしまっている私は、彼との距離感を掴みあぐねて悩んでいたりもした。それに、慣れない職場だったのもあるかもしれない。
(インフルエンザ……まじか……)
見事に私は体調を崩していた。
季節はもう真冬だ。職場でもインフルエンザが流行っていた。
昼休みに、喉の痛みとだるさ、熱っぽさを自覚した私は、早退させてもらい、そのまま病院へ行った。
そこで案の定、インフルエンザの診断がついたのだった。
『やっぱりインフルエンザでした。しばらくお休みさせていただきます。ご迷惑おかけします。PS.冷凍庫に作り置きが用意してあるので適当に食べてください』
玲司にメッセージを送り、経口補水液をがぶ飲みすると私はベッドに横になった。
久しぶりに自分の寝室で一人でいると、妙な心細さで泣きそうになる。人は体調を崩すと寂しがりになるという、まさにそのパターンだろうか。
体がだるいし節々が痛いし、悪寒がするのに汗はかく。全身の機能がとち狂ったようになってしまっていて、目が回りそうだった。
意識が沈んだり、浮いたりを繰り返している。夢を見ているのか現実なのかもよくわからない中、どこか遠くでドアの開く音が聞こえた気がした。
「……衣……結衣……」
「ん……玲司、さん?」
誰かに頭を撫でられている感触がして、ふわふわと歪んでいた視界が徐々に収束していく。いつの間に帰ってきたのだろうか、玲司がベッドに腰掛けていた。
「起きたか。体調はどうだ? 何か食べられそうか?」
「んー。しょくよくないれす……」
「まだ大分調子悪そうだな。待ってろ、水持ってくる」
「待って……」
せっかく帰ってきた玲司がどこかに行ってしまうのが寂しくて、袖を掴んで引き留める。
「すぐ戻ってくるから」
寂しくて眉を下げる私を見て、玲司は苦笑いすると、頭をポンポンと叩いてきた。
コップに冷たい水を入れて、玲司が戻ってくる。
横になっていた私の体を抱き起こすと、甲斐甲斐しく飲ませてくれた。熱でひび割れた喉に、冷たい水がスルスルと通っていくのが心地いい。
「今、何時?」
「まだ五時半だ」
「こんな時間に帰ってきてくれたの。ごめんなさい……」
いつも玲司は早くても八時過ぎまで仕事をしているのに、この時間に帰ってきたのはきっと私のせいだろう。
「いい。どうせ心配で仕事が手につかなかったから」
そんなに心配してくれていたのか。体調不良でクサクサしていた心が、玲司の言葉で癒される。
「ごめんなさい。ありがとう……」
「冷却シートとアイス枕買ってきた。俺は風邪ひかないから、この家そういうのなかったんだよな」
羨ましいことに、玲司はまったく風邪など引かない体質らしい。最後に風邪を引いたのは小学生の時なのだとか。
私はそんなに体が強い方ではないから、時々は体調も崩す。そんな私のためだけにアイス枕など買ってもらうのは申し訳ないような気もした。
だけど、実際に使ってみると、すごく冷たくて気持ちがいい。熱で頭痛がしていたのが、冷やすと少し治まってきた。
「レトルトの卵粥も買ってきた。食欲なくても薬飲む前に少しは腹に入れとけ」
「んー、でも、食べれそうにない……」
「じゃあ、あーんしてやろうか?」
私が弱音を吐くと、玲司は冗談めかしてそう言った。まったく、心臓に悪い冗談を体調不良の時に言うのはやめてほしいものだ。
私が固まっていると、玲司はくつくつと笑って、「いいから、少しは食え。今用意してくる」と甲斐甲斐しくもキッチンへ向かったのだった。
玲司が去って行った途端に、物寂しさに襲われる。ずっと隣にいてほしい。手を握っててほしい。なんて、思ってしまう。
ダメだ。病気で気が弱ると、変なことを口走ってしまいそう。
なんとか気持ちを立て直さなければ、とベッドで一人唸っているうちに、卵粥の用意ができたのか、玲司が深皿を持って寝室に入ってきた。
「ほら、ベッドの上でいいから食べな」
ベッドボードに背を預けながら、ふぅふぅと冷まして一口、二口と食べる。レトルトだけれど、完成度は高くて、適度な塩味が心地いい。
「ありがとう、買ってきてくれて。美味しい」
「そうか。よかった。薬もちゃんと飲めよ? 処方されているだろ」
「うん」
おかゆは三分の一ほど食べて限界になったので残して、病院で処方された解熱剤と抗ウイルス薬を飲む。
「あとは寝てろ」
「はい。……あの、うつしちゃったらごめんなさい」
「俺は大丈夫だ。気にするな」
玲司は私の頭をサッと撫でると、去っていった。ドア越しにリビングの方から柔らかい光が漏れている。
私はずっと実家暮らしだったから、こういう時にひとりぼっちという経験がない。今日も、玲司が居てくれてよかったなと思う。
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