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15話
社内の人に「愛妻家、愛妻家」と揶揄われながらも、玲司は早めに仕事を終わらせて私と一緒に帰ることを、週に二回はするようになっていた。
一緒に帰れない日も、私だけでも遅くならないようにと気を遣ってくれて、やけに過保護に振る舞っている。
「別にちょっとくらいの残業なら大丈夫よ? ご飯だって作り置きしているし」
「いや、やっぱり結衣は明るいうちに帰った方がいい」
玲司がやたら私を心配するようになったのは、先日祐司と遭遇してからだった。別に兄嫁に何かしてくるとは思えないけれど、どうにもピリピリとした兄弟仲らしい。
そんな折、日曜日に家で玲司とのんびり過ごしていると、突然チャイムが鳴った。
「ん? なんだ、宅配か?」
特に何か頼んだ覚えはないけれど、急な来客の予定もない。
疑問に思いながらも玲司が玄関に行くのを見送っていると、玄関の方から驚きの声が聞こえてきた。
「祐司!? どうしたんだ、突然」
「やあ、兄さん。たまたまこの近くに用があってね、寄らせてもらったよ」
突然の訪問者は、玲司の弟、祐司だった。
玲司と良く似た顔で、でも物腰柔らかな表情の祐司は、黒縁メガネの奥にある形のいい目を細めて微笑んでいた。
「あ、こんにちは、祐司さん」
リビングに入ってきた祐司に、ひとまず挨拶する。
突然の訪問に驚いてはいたが、夫の家族に失礼があってはいけない。私は愛想笑いを作って、祐司に椅子を勧めた。
「いやあ、いい部屋に住んでるよね、兄さん」
祐司は我が物顔で部屋を見て回ると、リビングのソファにどっかりと腰を下ろした。
「祐司、何しにきたんだ一体」
「ええ? 兄さんのハートを射止めた女性の手料理を食べてみたくてね、夕飯、ご相伴に預かっていいかな?」
「はあ? 何を言って……」
「ねえ、結衣さん、どう? ダメ?」
玲司によく似た整った顔で、上目遣いに見上げてくる。祐司は玲司と違い、末っ子らしく甘えたような態度も巧みに使いこなすようだった。祐司は長い脚を組んで膝の上に肘をつきながら、ふっと笑う。
「え? べ、別に構いませんけど……」
「ほら、結衣さんはいいって! 作る本人である結衣さんがいいって言ってるんだから、兄さんは断らないよね?」
「……わかった。勝手にしろ」
玲司はすっかりヘソを曲げてしまったみたいで、不機嫌そうに眉根を寄せながら、ダイニングテーブルに座った。
今日の分の買い物はすでに終えていて、あとは作るだけだ。私は気まずい沈黙の落ちている兄弟の方を気にしつつも、キッチンへ向かう。元々作り置きにも回す予定だったから、一人分増えるくらいなら材料も問題ない。
今日の献立は鶏肉のトマト煮込み、カプレーゼ風サラダ、ガーリックトーストにした。白ワインにも合いそうな洋風の献立だ。
オリーブオイルにニンニクで香りをつけ、鶏もも肉に焼き色をつけたらトマト缶とハーブで煮込んでいく。バジルの香りがキッチンに広がり、食欲をそそった。
サラダはモッツァレラチーズとトマトを花が開くように交互に並べて、バジルを散らし、オリーブオイルと岩塩で仕上げる。見た目も華やかで、来客にも出せる一皿だ。
ガーリックトーストは、バゲットにガーリックバターを塗って、オーブンでカリッと焼く。
「いい匂いだね。結衣さん、料理上手なんだ」
祐司がキッチンカウンター越しに声をかけてくる。玲司はダイニングテーブルに座ったまま、不機嫌そうに腕を組んでいた。
「ありがとうございます。もうすぐできますよ」
三十分ほどで料理が完成し、ダイニングテーブルに並べる。
「うわぁ。美味しそう。いただきます」
祐司は嬉しそうに手を合わせる、スプーンを手に取った。玲司も渋々と言った様子でスプーンを手に取る。
「……うまい」
鶏肉のトマト煮込みを食べた玲司が、ポツリと呟いた。
「へぇ、なるほど。この料理スキルで兄さんをオトしたんだ?」
「もう、やめてくださいよ。そんなんじゃないですから」
祐司は絶妙に嫌味っぽく不愉快な感じの言動をするが、表立って敵対的な行動をしているわけではないので、私も扱いあぐねていた。
図々しく人の領域にズケズケと乗り込んでくる感じは、あのご両親との会食よりもやりづらいかもしれない。
やけになってか白ワインをガバガバ開けていた玲司は、不意に「トイレに行ってくる」と言って席を立った。
祐司と二人きりにされて、気まずい沈黙が流れる。
「あ、電話だ、ちょっと失礼」
すると、祐司もスマホを片手に席をたち、廊下の方へと出ていった。
祐司と二人、テーブルで向き合う時間がなくなってホッとする。
だが、数分後——。
「おい、ドアが開かないぞ! 結衣、ちょっと外から確認してくれないか!」
玲司の叫ぶ声が、廊下から聞こえてきた。
一緒に帰れない日も、私だけでも遅くならないようにと気を遣ってくれて、やけに過保護に振る舞っている。
「別にちょっとくらいの残業なら大丈夫よ? ご飯だって作り置きしているし」
「いや、やっぱり結衣は明るいうちに帰った方がいい」
玲司がやたら私を心配するようになったのは、先日祐司と遭遇してからだった。別に兄嫁に何かしてくるとは思えないけれど、どうにもピリピリとした兄弟仲らしい。
そんな折、日曜日に家で玲司とのんびり過ごしていると、突然チャイムが鳴った。
「ん? なんだ、宅配か?」
特に何か頼んだ覚えはないけれど、急な来客の予定もない。
疑問に思いながらも玲司が玄関に行くのを見送っていると、玄関の方から驚きの声が聞こえてきた。
「祐司!? どうしたんだ、突然」
「やあ、兄さん。たまたまこの近くに用があってね、寄らせてもらったよ」
突然の訪問者は、玲司の弟、祐司だった。
玲司と良く似た顔で、でも物腰柔らかな表情の祐司は、黒縁メガネの奥にある形のいい目を細めて微笑んでいた。
「あ、こんにちは、祐司さん」
リビングに入ってきた祐司に、ひとまず挨拶する。
突然の訪問に驚いてはいたが、夫の家族に失礼があってはいけない。私は愛想笑いを作って、祐司に椅子を勧めた。
「いやあ、いい部屋に住んでるよね、兄さん」
祐司は我が物顔で部屋を見て回ると、リビングのソファにどっかりと腰を下ろした。
「祐司、何しにきたんだ一体」
「ええ? 兄さんのハートを射止めた女性の手料理を食べてみたくてね、夕飯、ご相伴に預かっていいかな?」
「はあ? 何を言って……」
「ねえ、結衣さん、どう? ダメ?」
玲司によく似た整った顔で、上目遣いに見上げてくる。祐司は玲司と違い、末っ子らしく甘えたような態度も巧みに使いこなすようだった。祐司は長い脚を組んで膝の上に肘をつきながら、ふっと笑う。
「え? べ、別に構いませんけど……」
「ほら、結衣さんはいいって! 作る本人である結衣さんがいいって言ってるんだから、兄さんは断らないよね?」
「……わかった。勝手にしろ」
玲司はすっかりヘソを曲げてしまったみたいで、不機嫌そうに眉根を寄せながら、ダイニングテーブルに座った。
今日の分の買い物はすでに終えていて、あとは作るだけだ。私は気まずい沈黙の落ちている兄弟の方を気にしつつも、キッチンへ向かう。元々作り置きにも回す予定だったから、一人分増えるくらいなら材料も問題ない。
今日の献立は鶏肉のトマト煮込み、カプレーゼ風サラダ、ガーリックトーストにした。白ワインにも合いそうな洋風の献立だ。
オリーブオイルにニンニクで香りをつけ、鶏もも肉に焼き色をつけたらトマト缶とハーブで煮込んでいく。バジルの香りがキッチンに広がり、食欲をそそった。
サラダはモッツァレラチーズとトマトを花が開くように交互に並べて、バジルを散らし、オリーブオイルと岩塩で仕上げる。見た目も華やかで、来客にも出せる一皿だ。
ガーリックトーストは、バゲットにガーリックバターを塗って、オーブンでカリッと焼く。
「いい匂いだね。結衣さん、料理上手なんだ」
祐司がキッチンカウンター越しに声をかけてくる。玲司はダイニングテーブルに座ったまま、不機嫌そうに腕を組んでいた。
「ありがとうございます。もうすぐできますよ」
三十分ほどで料理が完成し、ダイニングテーブルに並べる。
「うわぁ。美味しそう。いただきます」
祐司は嬉しそうに手を合わせる、スプーンを手に取った。玲司も渋々と言った様子でスプーンを手に取る。
「……うまい」
鶏肉のトマト煮込みを食べた玲司が、ポツリと呟いた。
「へぇ、なるほど。この料理スキルで兄さんをオトしたんだ?」
「もう、やめてくださいよ。そんなんじゃないですから」
祐司は絶妙に嫌味っぽく不愉快な感じの言動をするが、表立って敵対的な行動をしているわけではないので、私も扱いあぐねていた。
図々しく人の領域にズケズケと乗り込んでくる感じは、あのご両親との会食よりもやりづらいかもしれない。
やけになってか白ワインをガバガバ開けていた玲司は、不意に「トイレに行ってくる」と言って席を立った。
祐司と二人きりにされて、気まずい沈黙が流れる。
「あ、電話だ、ちょっと失礼」
すると、祐司もスマホを片手に席をたち、廊下の方へと出ていった。
祐司と二人、テーブルで向き合う時間がなくなってホッとする。
だが、数分後——。
「おい、ドアが開かないぞ! 結衣、ちょっと外から確認してくれないか!」
玲司の叫ぶ声が、廊下から聞こえてきた。
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