【R18】絶倫社長との契約結婚〜借金のカタに売られた私は、契約夫の愛に溺れる〜

布団のノラネコ

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16話

 慌てて廊下に出ると、電話をしていると思っていた祐司が、トイレの前に佇んでいた。

「ああ、結衣さん。ちょうどいいところに。今、兄さんをトイレに閉じ込めたところなんだ」

 なんてことないように、柔らかな微笑みで祐司が言う。

 何を言われたか分からず、私は固まった。

 祐司はなんだか、異様な雰囲気を放っている。

「おい! 祐司! どういうことだ!」

 玲司の怒鳴る声がトイレのドア越しに聞こえてくる。ドアには、シールで後付けするタイプのドアロッカーのようなものが取り付けられていた。外から鍵が閉まっていて、開けられないようになっているようだった。

「兄さん。結衣さんの体、僕にも味見させてくれよ」
「はあ? 何を言って」

 祐司が何か悍ましいことを言っているような気がする。

 逃げなきゃ、と思うのに、祐司の放つ異様な気配に圧倒されて、足が固まったように動かない。

「ねえ、結衣さん」

 祐司が私の肩を抱いた。ねっとりと陰湿な声で耳元に囁いてくる。

「酷いと思わない? 兄さんはあの親父とお袋の期待を勝手に裏切って、俺に全て押し付けてきたんだ。両親の期待も、医院の後継も、ぜーんぶ俺に押し付けてさ。俺だって本当は精神科に進みたかったのに、両親の病院を継ぐために消化器内科に進むしかなかった。兄さんが好き勝手に生きている傍ら、俺の人生は犠牲になったんだ。……だからさ、結衣さん。兄さんの代わりに、君が俺に賠償してよ」
「何、言ってるんだ、祐司! おい、やめろ! 祐司!」

 逃げようと思うのに、気がつけばがっちりと全身をホールドされて、身動きが取れない。玲司と同様、百八十センチを超える体格の祐司に押さえつけられれば、女の私はまるで抗えなかった。

 祐司が私の首筋に息を吹きかけ、ペロリと舐め上げる。ひどく気持ちの悪い感触に、ゾワリと鳥肌が立った。

「や、やめて。やめてください……」

 震える声で懇願する。こういう時、本当は大声で叫んだりすればいいのかと思う。だけど、実際にはそんなことまるでできない。声を出すのでさえ精一杯だ。

「い、や……」
「やめろ、頼む、やめてくれ!」

 ドア越しに、玲司の叫ぶ声が聞こえてくる。

「ははは、焦ってる焦ってる。兄さん、随分奥さんのこと大事にしてるんだねぇ。その大事な大事な奥さんを俺がヤっちゃったら、どんな顔するのかな。見てみたいけど、ドア越しだから無理だわ、はは」

 祐司は壊れたようにケタケタと笑いながら、私の胸を力任せに鷲掴んだ。

「いやぁ!」
「結衣!? 大丈夫か、結衣!」

 どん、と大きな音を立てて、ドアが揺れた。どん、どん、と何度も何度も音がする。玲司がドアに体当たりをして、出ようとしてくれているらしい。

「玲司さ、ん、助けて……」
「うわぁ、結衣さんのおっぱい柔らかーい! 兄さん、毎日これ揉み放題なんだ、羨ましい」

 玲司に触られるのは全然平気なのに、祐司に触れられると嫌悪感で気が狂いそうになる。

 (いやだ、いやだ、いやだ。助けて、玲司さん……!)

 どん!

 何かが剥がれ落ちるような音がして、トイレのドアが開く。

「祐司、その手を離せ!」

 トイレから飛び出してきた玲司が、祐司に殴りかかった。

 祐司の頬に玲司の拳がめり込み、黒縁メガネが吹っ飛ぶ。

「はは、怒ってる怒ってる」

 殴られた祐司は何が楽しいのかにやにやと笑っていた。

「お前は、何を考えてるんだ!」

 祐司の胸ぐらを掴んで、玲司が凄んだ。玲司の拳は怒りで震え、腕に血管が浮き上がっている。

「言っただろ。今までの復讐だよ。好き勝手生きてる兄さんのせいで、俺はずっとあの家庭の被害を被ってきたんだからさ」
「それに、結衣は関係ないだろう!」
「兄さんが一番ダメージ受けそうなのが結衣さんだったからね」
「ふざけるな!」

 玲司はそのまま祐司を玄関まで引きずっていくとマンションの廊下に叩き出し、靴を外に放り投げてドアを閉めた。鍵をしっかり掛け、U字ロックまで閉める。

「玲司、さん」

 私は震えながら廊下にへたり込んでいた。

「結衣、大丈夫……じゃないか」

 震える私を見て、玲司が眉を下げた。

「すまない。俺の家庭のトラブルに巻き込んだ」
「う、ううん。玲司さんは、悪くない。助けてくれて、ありがとう」

 つっかえつっかえ、恐怖で荒くなった息を整えながら、玲司に話しかける。玲司は何も悪くないのに、謝っているのが不憫に思えた。

「いいや、俺のせいだ。俺がもっと警戒していれば……」
「そんなこと……」
「結衣」

 玲司はひどく苦しげな声で私の名前を呼ぶと、そっと私を抱きしめた。その腕は先ほど私を傷つけた祐司と同じ、「男」の力強さがあるのに、なぜだかひどく安心する。温かくて、優しくて。

「玲司さん。私、玲司さんじゃなきゃやだ。玲司さんにしか触られたくない」

 先ほどの恐怖と嫌悪感で混乱していた私は、そんなことを口走っていた。
 これじゃあ、玲司を好きだと言っているのとほとんど同じだというのに。

 だけど——。

「結衣、俺も、結衣が誰かに触れられるのは嫌だ。結衣を誰にも渡したくない。俺は…………結衣を愛してるんだ」

 玲司の言葉に、信じられない思いで私は目を見開く。あまりにも自分に都合が良すぎて、夢でも見ているんじゃないかと思う。

「玲司、さん?」
「結衣、結衣……。好きだ。愛してる」
「ほんと、に?」
「ああ、本当だ」

 私は、力強く抱きしめてくる玲司を抱きしめ返した。

「私も……私も好きです。玲司さん」

 どちらからともなく、深い口付けを交わした。
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