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10話
しおりを挟む夏がずっと嫌いで、怖かった。
親に置き去りにされて死にかけていたあの冬よりも、ナオキがいなくなった夏の方が、何倍も嫌いだ。
助けられた日から10年後、カナタが16歳のときのこと。
突然、ナオキがいなくなった。
保護されてから数年間は施設にいたものの、ナオキは成人するとすぐにカナタを引き取ってくれた。
詳しい話はわからないが、ナオキが俺はお前の遠い親戚なんだと自分で言っていたことがある。事実は不明だが、ひょっとしたらそれが本当で、その関係で引き取ることができたのかもしれない。
ナオキのことは、一緒に暮らすようになる前からすでに、家族のように思っていた。施設に会いにきてくれるのが楽しみで、カナタは彼のことを、兄のようにも父のようにも感じていたのだ。
ナオキと出会ってからの10年分の、家族愛とか情の重さ、尊さというものを、失って初めて思い知った。
16歳のカナタと世界を繋いでいた唯一の糸は、あの夏にプツリと切れたのだ。
ああ、これでもういつ死んでもいいな、と心から思った。
どうせ生きる目標も、なりたい理想も、手に入れたいものも、ひとつもない。
でもせっかくあいつに助けられた命だから、あと10年くらいは生きてみようと思った。いなくなったとき、ナオキはちょうど27歳。
カナタは自分が26歳になるまで生きてみて、やっぱり死んでもいいとその時思ったら潔く実行することに決めた。
11年目を迎えるかどうかは、この10年にかかっている。
◆
そして26歳の夏、あと2ヶ月ほどで27歳の誕生日というときに、自殺を決意したんだった。
これと言った理由はない。ある朝目を覚ました瞬間、今日だなと、なんとなく思ったに過ぎない。
死への恐怖や生への執着は一切なかった。それなりに人と付き合い、社会的にもプライベートでも一通りの経験はしてきたが、このために生きていきたいと思える存在には出会えなかった。生きる理由は、人でも物でも目標でも、なんでも良かったのに。
命を無駄にするなと言う人がいる。
生きたくても生きられない人がいるのに死にたいなんて言うなと非難する人がいる。
まったくそのとおりだ。
でもカナタはずっと、死にたくても死ねない人間だった。
子供の頃に助けられた命を、できる限り大切にしなくてはならないと思っていたから。
……ナオキ、もういいよな。
俺、お前と同じ場所から、そっちに向かおうと思う。
着ていく服なんかなんでも良かったので、とりあえずいつも通りスーツを着た。会社へ行くつもりはないが、いつもと同じ出勤時間に家を出る。
駅まで歩く間も、なんの感慨もなかった。今日が最後だと思っても、だからどうしたという気持ちにしかならない。むしろやっと終えられると思えば、ある種の清々しささえ感じた。
◆
深い意味はなかった。なんとなく、とっさに拾って追いかけただけ。
吐きそうなくらいにキラキラした夏の日差しの中、こちらを振り向いて、申し訳なさそうに、恥ずかしそうに頰を赤らめる、無垢な少女が立っている。
『これ、もし良かったら飲んでください、あの、お礼に!』
差し出されたのは、オレンジジュース。
運命なんてあるわけない。
神様は不公平だし簡単に人を見捨てる。
そんなことは分かってる。
でもその時、神も運命も信じたいと思った。
きっと彼女もまた、孤独な自分を見つけてくれた人。
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