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46話
しおりを挟む「みーちゃん、バイト休みだし、暇だったらカフェに寄って帰ろうよ」
「うん、行こう! パンケーキも食べよっか」
この半年間で変わったことは3つある。1つ目は、新しくアルバイトを始めたこと。2つ目は、そこで同じ大学の女の子が偶然働いていて、いつのまにか仲のいい友達になったこと。3つ目は……。
「なんか新しい味のパンケーキが出たらしいんだけど」
「そうなの?私たち、まだ定番のしか食べたことなかったよね」
「そうそう。安定をとるか、挑戦するか……迷うなあ」
真剣に考え込んでいる友達を見て、美琴は自然と微笑んでしまった。一緒にカフェに行くような友達がまさか自分に出来るなんて、半年前は思いもしなかった。素直に嬉しい。
友達は仁美と言って、美琴は名前を呼ぶたびに野中ヒトミのことを思い出してしまう。あの日自分を解放してくれた、どこか悲しい目をした女性。
カフェに入り、結局挑戦するのはやめにして、ふたり揃って大好きないちごのパンケーキを食べた。
「やっぱりこれが美味しい。浮気はできないよね」
美琴がそう言って笑うと、唇についた生クリームを舐め取りながら仁美も嬉しそうに同意した。
「わかる。私はこれを求めてた!てかみーちゃん。話変わるけど、この前誘われた合コン行かないの?」
「え……行かないよ……」
仁美と仲良くなってからというもの、友達とは言えないまでも、飲み会や合コンに誘ってくれるくらいの距離感の知り合いが増えつつあった。美琴の世界は少しずつではあるが確実に広がっている。それは少し不安で、同時にとても嬉しい変化だった。
「ねー、どして?みーちゃん可愛いのに、もうずっと彼氏いないんでしょ? 半年前に別れたって言ってたっけ」
「……」
「あっ、ごめん、悲しいこと思い出させちゃったかな」
「ううん、ちがうの。……平気」
カナタの姿が脳裏に蘇る。スーツの似合うすらりとした長身、黒髪、メガネ、そして涙ぼくろ。眉のひそめ方や唇の動きまでまだ鮮明に思い出せる。胸のあたりが痛んだので、美琴は慌ててパンケーキに意識を集中した。
「私、ちょっと重いのかも。まだ、彼のことが忘れられなくて」
「いいと思うよ、軽いよりよっぽど。人生なにがあるかわかんないし、大好きな人と、いつかまたどこかで出会うかもしれないんだしさ。楽しく生きようよ~」
合コンの件はもういいのか、仁美はにっこりと笑って言った。彼女のこういう気楽なところが美琴は好きだ。
「これ食べ終わったら、もう帰る?」
仁美の呼びかけに、ううん、と首を振りかけて、逡巡したのち頷いた。
「やっぱり、今日は帰ろっかな」
「わかった。来週はゆっくりお買い物でもいこうよ」
「もちろん」
日常は少しずつ変わっていく。自分はずっと、お姉ちゃんが亡くなってからずっと、なにかを選択することから逃げて生きてきた。あの部屋を出た時もそうだ。あの女性が部屋に来なければ、美琴は、果たして自ら行動を起こしただろうか。
……逃げるのはもうやめる。私は、自分で人生を選択できる大人になりたい。
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