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約束を君と
しおりを挟む結論から言うと、絶対に来ないと思っていたのにスバルは来た。南口のロータリーにタクシーが止まり、中からヘアメイクも服装もキマったどう見てもホストな男が急いで降りて来るのを見た瞬間、俺は驚きのあまり放心状態になってしまった。
ホスト全開なスバルが、大股でこちらに近づいてくる。その勢いについ怯んだ。
「な、なんで来てんだよ。仕事は」
小さい声でそれだけ言うと、スバルは俺をまっすぐに見て大きな声を出した。
「優也が誘ってくれたから、仕事抜けて来たんだろうが!!」
◆
ラーメンが運ばれてきて箸を割ったタイミングで、スバルはきっぱりと言った。
「この前はヤキモチ妬きました。ごめんなさい」
あまりにきっぱり言うもんだから、おう、なんて軽く応じて、あっさり許してしまった。おかしい。もう少しくらいはいじめてやるつもりだったのに。
絶対来られないだろうと思っていたのに案外すぐにやって来たから、その時点で八割くらいは許してしまっていたのだ。おそらく。
この完全武装状態のスバルが仕事中に抜けて来るなんて、予想だにしなかった。もちろん申し訳なさもある。
しばらく二人で向き合ってずるずるとラーメンを啜った。以前来たときと変わらないおいしさだ。空腹が満たされていくにつれて、俺はだんだんおだやかな気持ちになってきた。
どうでもいっか。
あっけらかんとそう思った。
憑物が落ちたみたいに平常心に戻った俺は、空になったスバルのグラスに水なんかも注いでやったりする。
「ありがとう」
「いいよ。急に呼びつけて悪かったな」
「なんで、嬉しいよ」
俺はスバルの強引な誘いを嬉しいと思ったことなんて一度もない。
でもそう言われて、なぜか悪い気はしなかった。
◆
「……いや、ヤキモチってなんだよ!気色わりい!」
ラーメン屋を出た瞬間、おいしい匂いや満腹感といった幸せな雰囲気でごまかされていた怒りがぶり返してきた。今更ながらつい喚いてしまう。一方スバルはどこ吹く風で、「どうしたの?急に」なんて聞いてくる。
「急じゃねえ!お前が変なこと言うからだろうが」
このままなあなあになってしまうところだ。危ない。これがスバルの常套手段だというのに。
「変なことなんて言ってないよ」
すまし顔でますます変なことを言う。
「いや、意味不明だから。男にヤキモチとか」
「優也あのね。僕さあ、けっこう自分の顔、好きなんだけど」
「……まあ、それを聞いて納得するくらいには、整ってらっしゃると思いますけど?」
話題の急なぶっ飛び具合に辟易する。スバルの顔が美しいのは事実だがすんなり認めるのも悔しいので、嫌味をたっぷり込めて返してやった。
しかしこのクソホストには嫌味が通じないらしく、いたって真面目な顔をしている。真面目に自分の顔がけっこう好きなのだな、と思った。
それはまあいいとして、この不可解なやりとりは一体なんなのだ。
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