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2.宝物
しおりを挟む「外観だけで、うわあ魔王の城だ!ってじゅうぶん思ったのに、中に入るとよりいっそう魔王の城なのね……」
セーレの部屋に向かう途中、赤い絨毯を踏みしめながら、周囲に飾られている奇妙なオブジェや絵を恐る恐る見つめた。
謎の生き物の骸骨や、天使を串刺しにする絵画など、高級そうではあるのにどれも悪趣味この上ない。
「お前、人間のくせに父上と知り合いなのか?」
金色の大きな目をくるくると無邪気に見開いて、セーレが首を傾げてくる。馬鹿馬鹿しくなって突っ込むのをやめた。
「……魔王の話はもういいわ。それにしてもお城の中、誰もいないのね。てっきり召使いとかがたくさんいるのかと思ったのに」
「魔力があるからたくさんは必要ない。自分だけで大抵のことはできる。僕には執事がひとりいるだけだ。それで充分なんだ」
(じゃあ私はなんのために雇われたのよ!)
と喉元まで出かかったがなんとかこらえた。逆かもしれないと思ったからだ。執事がひとりしかいないから、私みたいな遊び相手が必要だったのかもしれない。
「ふうん。セーレの家族は?」
「父と母と兄がいるが、城には今はだれもいない。僕と執事のミカエルだけがここに住んでる」
「え?じゃあこの広い城に私たち三人だけってことじゃない」
「不満か?」
(不満というか……)
なんと答えたらいいか分からず、小さく首を振った。城の中は広く、歩いても歩いても目指す部屋には着かない。
「ねえ、今私たち、どこに向かって歩いてるの?」
「僕の部屋だよ」
「遠いのね」
「ああ、でももう少しだ。なあ、ルナ」
「なあに?」
ふいに立ち止まると、恥ずかしそうに視線を逸らしてセーレは言う。
「……手を繋いでくれ」
(!!!!!!!!)
かわいい……。偉そうにしててもやっぱり、まだまだ子供なんだ。
微笑ましくなって、にっこり笑うとその小さな手を握った。
「家族がみんな家にいなくて、セーレは寂しくないの?」
「少しだけ寂しい」
「そうだよねえ」
「だからルナを雇うことにしたんだ」
「ああ、そういうこと」
納得した。この広い城の中で執事とふたり、毎日静かに暮らしているのでは、たしかに寂しくなるだろう。遊び相手が欲しいと思っても無理はない。
「ついたぞ」
「ここがセーレの部屋?」
「そうだ」
ドアノブの代わりに金色の板のような装飾がドアの表面に付いている。セーレは迷いなくそこに手をかざした。私と繋いでいない方の手だ。
小さな声で呪文を唱えると、カチリと音がして扉が開く。
「なにもない部屋だけど、入れ」
「おじゃまします」
中は天井が高く、だだっ広い部屋だった。机と大きなベッドにソファ、壁一面の本棚以外はなにもない。
「ほんとうになにもない」
思わず呟くと彼がふんと鼻を鳴らした。
「僕は物がたくさんあるのが嫌いなんだ」
「会ったばかりだけど、なんだかそんな感じがするわ」
「ルナに僕の宝物を見せてあげるよ」
「え?私に?」
「ああ」
繋いでいた手が離れ、セーレは壁の本棚に向かっていく。私は160cmなので女子の平均より少し背が高いくらいだが、こうして後ろ姿をまじまじと見てみると彼はおそらく150cmに満たないくらいだろうと思う。友達の弟が12歳だったが、ちょうど同じような外見だったので、セーレの年齢もそのくらいだろうと予想できた。
(6歳も年下か……)
12歳の男の子と密室に二人なんて、犯罪ではないのか?しかもこの場合、私が犯罪者側なのが怖い。
なんてつい考えてしまったけれど、夢なのでそもそも善悪など存在しない。いまはおとなしく美少年に宝物を見せてもらうという、癒しのひとときを堪能することにした。現実世界でこんなにかわいい弟がいたら、間違いなくブラコンになってしまっていただろうな、と思った。
「ルナ、これを見て」
ふと見るとセーレは嬉々として絨毯の上に座り込み、宝箱とおぼしき綺麗な箱の中からなにかを取り出して並べていた。
「なあに?」
近づき、しゃがむと、そこにはこれまで見たどんな石よりも綺麗な石がいくつもあった。
「すごく綺麗!こんなに綺麗な石、初めて見た!」
「これは流れ星なんだ」
感動している私を横目に、セーレがそのうちのひとつを手に取り、かざして見せてくれた。
外はそろそろ夕暮れ時で、石はその日差しを受けてきらきらと輝いていた。
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