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呪い
「お前、なんの仕事してんの」
腹は減ってないからビールください、と申し出た真冬には缶ビールを与え、俺は買ってきた弁当を食べている。女の家に居候するくらいだからヒモなのではないか、と予想しながらなんとなく尋ねてみると、真冬は笑って答えた。
「一応、ホストっすね」
「なんだよ一応って」
「そこそこ人気はあるんだけど、僕、あんまり真面目な方じゃないでしょ。働いたり働かなかったりだから、No. 1とかには到底なれなくて」
「不真面目が取り柄だもんなあ」
精一杯の嫌味を込めてそう言ってやったのに、真冬はなぜか嬉しそうに笑っている。
「ていうか、ビール飲んでないで早く女に電話しろよ」
「だって巧先輩と話してたら、女のことなんかどうでもよくなってきちゃったんだもん」
「はあ? 家がないのにどうすんだよ」
「先輩が泊めてくれれば大丈夫」
「全然大丈夫じゃない! 迷惑だ!」
初めて会ってから十年、高校を卒業してからは九年が経つ。真冬の外見はほとんど変わっていない。あの頃の美しさはそのままに、幼さだけが抜け落ちたような印象だ。こうして軽口を叩き合っていると、卒業以来会っていなかったのが嘘のような気持ちになってくる。
当時十六歳だった真冬は、美術の花本先生と付き合っていたらしい。花本先生といえば、有名なビジュアル系バンドのメンバーに似ていると女子生徒が騒いでいたくらい、校内で人気がある教師だった。
先生と生徒、歳の差十歳以上、そして男と男の交際が実在するなんて夢にも思わなかったピュアな俺は、あの日真冬の手首を止血しながら途方に暮れていた。
「でも多分、先生は遊びだったんだ。僕の身体に飽きちゃったんだと思う。僕は、本気だったのに」
泣きながら真冬はそう言った。俺はかける言葉も見つからずにただおろおろしながら、やっとの思いで名札を盗み見て、黒猫みたいな少年だと思った彼が一個下の後輩であることや、進藤真冬という名前であることを知ったのだった。
「あのあと、花本先生とはどうなったんだよ」
「どうにもならないよ。先生が東京の学校に行くって言うから追いかけたけど、一度も会えないまま」
真冬は空になったビールの缶を脇にどかし、んーっと言いながら伸びをしてみせた。こいつ、もはや電話をする気がなさそうだ。どうやって追い出そうか。
「先輩、今夜僕と寝る?」
「な、急に何言い出すんだ!」
「何って、昔もしたじゃん。今さらそんな慌てることでもないでしょ」
悪びれない真冬の態度に、怒る気力も失せる。そうだ、俺はこいつと過去、何度か間違いを犯してしまったことがある。その結果、まいちゃんとも別れることになったのだ。まるで悪の元凶。呪いの黒猫だ。
「……風呂入ってくる。その間に出て行ってくれ」
それだけ言うと、俺は弁当のゴミをまとめて、真冬の顔を見ることなく風呂場へ向かった。
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